Googleの広告部門のスタッフやChrome担当の技術者たちには、毎月出席しなければならない会議がまたひとつ増えた。新たな定例会の相手はパブリッシャーだ。協議に参加するパブリッシャーは20社程度。その大半はコムスコア(Comscore)が選ぶ上位50の大手デジタルメディアに名を連ねる。
Googleの広告部門のスタッフやChrome担当の技術者たちには、毎月出席しなければならない会議がまたひとつ増えた。新たな定例会の相手はパブリッシャーだ。
協議に参加するパブリッシャーは20社程度。その大半はコムスコア(Comscore)が選ぶ上位50の大手デジタルメディアに名を連ねる。3月を皮切りに、Googleの広告またはChrome担当の役員や技術者たちと、同社が提案するプライバシーサンドボックス構想の一角を成すテクノロジーについて、集中的に議論してきた。
一般論としては、Googleが打ち出す新技術の試験運用に前向きなパブリッシャーもいる。しかしその反面、開発や実装のスケジュールが「強気に過ぎる」と感じるものは少なくない。そう語るのは、協議に参加するパブリッシャーたちの事実上のまとめ役を務めるロブ・ビーラー氏だ。同氏はパブリッシャー向けにコンサルティングやトレーニングを提供するビーラーテック(Beeler.Tech)の創業者でもある。
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ビーラー氏は米DIGIDAYの取材でこう述べている。「協議を通じて明らかになったのは、新技術の導入云々よりも、パブリッシャーには分からないことが多すぎるということだ」。
GoogleはサードパーティCookieを使わずにデジタル広告を機能させる新たな仕組み作りを進めている。パブリッシャーは、オープンウェブを構成するコンテンツの制作や配信を担う主要な当事者であるにもかかわらず、この取り組みからは蚊帳の外に置かれてきた。一方で、サードパーティCookieの廃止という技術的な大転換のあとも、Googleに限らず、誰もが現在のオープンウェブを維持したいと望んでいる。そこでGoogleは、この議論にパブリッシャーの意見をより積極的に反映させるため、少数の大手パブリッシャーの幹部を招き、定例の会議を新設した。
Googleもビーラー氏も出席者の社名は明かしていない。米DIGIDAYがこの記事の取材で話を聞いたパブリッシャー2社も、匿名を条件に取材に応じた。いずれの当事者もこの協議を内々に進めることを明言している。ただでさえ疎外感を感じやすい中小のパブリッシャーから、ないがしろにされていると思われるのは得策ではないからだ。ビーラー氏は、参加者の選定について、「新技術の開発や公開の過程で、多少なりとも影響力を発揮しうる立場にあるものだ」と説明している。また、「これ以上参加者を増やすと、話がまとまらず、生産的な話し合いが難しくなる」とも話している。
Googleの広報担当者はこう述べている。「よりプライバシーに配慮したウェブの実現に向けて、規模の大小を問わず、すべてのパブリッシャーとの開かれた対話に注力する。より良い未来を築くために、あらゆる機会をとらえて、パブリッシャーの声に耳を傾け、情報を共有し、意見を求める考えだ」。
難解なW3Cよりも参加しやすい協議の場
多くの業界関係者は、サードパーティCookieからの脱却や、よりプライバシーに配慮した代替技術の開発において、Googleがあまりにも大きな力を行使していると批判を募らせている。一方、Googleによるこうした開発作業の一部は、国際的なウェブ標準化団体であるW3C(World Wide Web Consortium)の作業部会で行われてきた。GoogleやFacebookをはじめとするアドテク企業の技術者たちがこの作業部会に集まり、難しい専門用語を多用しながら、プライバシーサンドボックスの技術開発にまつわる複雑な要素について議論を重ねている。
ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)やハースト(Hearst)など、最大手のパブリッシャーは、W3Cの会合やフォーラムにスタッフを派遣している。ところが、その多くは、W3Cでの協議について、「迷路のように複雑で理解しがたい」と感じているようだ。パブリッシャーたちは、W3Cで開発されるテクノロジーが自社の事業に及ぼす影響を推し測ることもままならず、神経をとがらせている。
「W3Cは技術的な議論に偏りすぎている」。そう話すのは、Googleの月例会議に参加するあるパブリッシャーの幹部だ。この人物は中小のニュースメディアを代弁する立場にあり、匿名を条件に取材に応じた。
複数の関係者の話によると、Googleが新設したパブリッシャーとの月例会議(当然、Google Meetで行われる)は、W3Cのプロセスをないがしろにするものではない。むしろ、その目的は、パブリッシャーの幹部役員たちに、W3Cよりも参加しやすい議論の場を提供して、開発中の技術について学び、懸念があれば表明してもらうことだという。そしてゆくゆくは、W3Cに設置されたプライバシーサンドボックスの作業部会にも代表者を派遣し、より積極的な役割を果たしてもらいたいと考えている。
プライバシーサンドボックス構想に対するパブリッシャーたちの消極的な姿勢については、当のGoogleも嘆かわしく思っているようだ。Googleの広告部門に所属し、ユーザーのプライバシーと信頼を担当するプロダクトマネジャーの肩書きを持つチェトナ・ビンドラ氏は、マーケティングメディアのドラム(The Drum)による2020年11月の取材で、こう語っている。「誰からも歓迎される、プライバシーに配慮したソリューションを開発するために、パブリッシャー各位にも積極的に関与してほしい」。
議題に上がる案件、上がらない案件
これまでの会議では、主にFLoCやファーストパーティセットなどの技術的な課題が議論されてきた。FLoCはGoogleが提案するCookieに替わるターゲティング技術で、つい先ごろ、試験運用が開始された。会議では、FLoCがパブリッシャーの事業、たとえば広告商品の開発などに与える影響について話し合われた。7月の会議で議題に上がったファーストパーティセットは、同じひとつの事業者が所有・運営する複数のドメインを、同じファーストパーティに属するものと見なす新たな概念だが、主にChromeなどのウェブブラウザを通じて行うデータの収集や使用との関連において議論された。ただし、冒頭の30分は、サードパーティCookieの廃止延期についての説明に費やされた。
「話し合いの多くは、確認や理解の擦り合わせに終わる」。中小のニュースメディアを代表して協議に参加している、前出の匿名希望の人物はそう語った。
同様の課題についてGoogleと協議するパブリッシャーの団体が、最近、EUでも組織された。この団体の運営にも携わるビーラー氏によると、同氏自身を含むパブリッシャーの代表者が議題の選定に関与しているという。
とはいえ、パブリッシャーの事業に大きく影響しうる問題であっても、一部は依然として技術者中心の議論に委ねられている。たとえば、現在Googleが検討しているFLoCの変更点について、月例会議のある参加者は、「定例会議に上がる前に、ある技術系のイベントで発表された」と不満を述べている。
月例会議に参加する別のパブリッシャー幹部は、やはり匿名を条件にこう語った。「このような案件がしばしば、不規則なツイートやブログ投稿、あるいは我々とは無関係の技術系の研究会やカンファレンスなどで事前に公開されてしまう。いつものことながら、困惑を禁じ得ない」。
[原文:Google is quietly meeting with a select group of publishers each month to talk Privacy Sandbox tech]
KATE KAYE(翻訳:英じゅんこ、編集:長田真)