電子書籍の浸透やマンガアプリの盛況によって、漫画雑誌を展開するパブリッシャーも、デジタルへの進出を迫られている。そんななか、講談社が立ち上げたのが「ヤンマガWeb」だ。講談社の鈴木一司氏と、Glossomの吉本圭氏、そしてコミチの萬田大作氏の鼎談から、共創型パートナーシップの肝とは何かを探る。
電子書籍の浸透やマンガアプリの盛況によって、漫画雑誌を展開するパブリッシャーのビジネスモデルが再定義、再構築を迫られる事態に陥っている。
1980年に創刊し、『頭文字D』『彼岸島』など数多くの人気作品を輩出してきた週刊漫画誌、「ヤングマガジン(以下、ヤンマガ)」を発行する講談社も例外ではなく、デジタルシフトへの舵切りが求められている。
そんな課題を乗り越えるべく、講談社はさまざまな施策に取り組んできた。そのひとつが、デジタルマーケティングのプロフェッショナル集団のGlossom(グロッサム)と、「マンガ体験のDX」を掲げ、マンガ制作のプラットフォームを開発するコミチとの「トロイカ体制」によってローンチした、「ヤンマガWeb」だ。同サービスの立ち上げに際しては、講談社がコンテンツホルダーとなり、Glossomがサービス開発とデータ分析、プロモーションを、コミチはWebマーケティング領域を担当した。なお、Glossomとコミチの2社は、現在もヤンマガWebのグロースを引き続き支援している。
「サービス立ち上げに深くコミットしていただいたからこそ、ここまで来られた」。こう語るのは、講談社 ヤングマガジン編集部 編集次長の鈴木一司氏だ。同社はヤンマガWebの立ち上げに際して、発注者と受託者の関係ではなく共に、事業を創造するパートナーを求めていた。それに応えたのが、Glossom 執行役員の吉本圭氏と、コミチ代表取締役を務める萬田大作氏だ。吉本氏は「我々はSI(システムインテグレーター)でもなければ、コンサル企業でもない。テクノロジーを活用して、一緒に事業成長を実現するパートナーだ」と語る。
発注者と受注者という主従関係ではなく、フラットな体制で推進されたこのプロジェクト。本企画では三者の鼎談から、共創型の事業支援の方法論を探っていく。
鈴木一司氏(以下、鈴木):もともと週刊ヤングマガジンは、紙の媒体しか持っていませんでした。しかし昨今は、周知の通り紙媒体にとっては厳しい状況が続いています。そこで、独自のデジタル媒体が必要だった。そうした課題感から生まれたのが、ヤンマガWebです。
事業立ち上げの目的としては、もちろん「儲けたい」という思いもあります(笑)。ただ、もっとも主眼においているのは、かつての元気がいいヤンマガをWeb上で再現することでした。また、もともとヤンマガは「若者のリアルを描く」を標榜する漫画雑誌。その価値観を、ずっと守っていきたいと考えていました。
そんなとき、メディアグロースの経験値を持ち、紙媒体のWeb化に知見を持つコミチの萬田さんにお声がけさせていただいたんです。
萬田大作氏(以下、萬田):今回、ヤンマガWebの立ち上げにあたっては、「マンガ体験のDX」を掲げるコミチのノウハウを活かすべく、関わらせていただきました。
ヤンマガもそうですが、講談社さんは普通のネットメディアにはない、オリジナルコンテンツを数多く持っています。しかし、そのコンテンツがネットに優しい形で展開できていない。そのコンテンツを、Googleやヤフー(Yahoo! JAPAN)、SmartNewsといったプラットフォームに合わせる形で展開できれば、成功するだろうと考えました。そこで、自らエンタメビジネスを手がけていた経験とゲーム・SNSの企画・開発ノウハウを活かしたサービス開発を強みとしているGlossomさんにお声がけしました。
吉本圭氏(以下、吉本):我々はグリーグループなので、SNSやゲームなど、デジタルを軸とした事業運営のノウハウがあります。ユーザーがどのような経路で流入、回遊し、最終的にロイヤルカスタマーになっていくのか。それをデータで見ながら、PDCAを回していくナレッジがある。
データを活用しながらのサービス構築はGlossomの得意領域なので、今回のプロジェクトではその部分を担わせていただきました。

「かつての『元気がいいヤンマガ』をWeb上で再現したかった」と話す鈴木氏
クライアントの「哲学」を理解する
鈴木:実は、私はヤンマガWeb以前にも、Webサービスやアプリの立ち上げに携わったことがあるんです。しかしそのときと比較すると、萬田さんとも吉本さんとも、非常に深い会話ができたなと感じています。
吉本:確かに、今回のプロジェクトはかなり深いところまで、議論を重ねましたね。
たとえば講談社さんは、良質なコンテンツを作って発信するのが生業です。でもWeb上でメディアを大きくするためには、どうしてもプラットフォームと連携しなければいけない。そうなると、そのプラットフォームに、ある程度最適化されたコンテンツを作る必要があります。
これは、メディアをグロースするには重要な戦略なのですが、講談社さんからすると、コンテンツを世に発信するためにメディアを作っているのであって、メディアを大きくするためにコンテンツを作っているのではない。「本末転倒じゃないか?」みたいな話も出てくるわけです。ただ、こうした根本的な「哲学のぶつかり合い」こそが重要なのです。
鈴木:確かにコンテンツが良ければ、マネタイズできるし人も集められる。実際にそれを貫いているサイトはたくさんあります。でもコンテンツが良くても、メディアがスケールしなければ、そもそも誰にも相手にされない。こうした考え方も、対話を重ねていくなかで深めていくことができました。
萬田:そうですね。粘り強くディスカッションを重ねて、ようやくスケールのための戦略も実現しました。
良質かつ大量なコンテンツを活かす
鈴木:その一例がSEO対策でした。現在、ヤンマガWebのUUやPV数の下支えをしているのは検索流入です。SEOは効果を短期的に数値化するのが難しいので、そのメリットをなかなか実感できない地味な施策なのですが、いまでは結果もしっかり付いてきて、とても嬉しく思っています。
吉本:ヤンマガWebは、アプリではなくWebサイトです。講談社さんは、良質なコンテンツを大量に持っているので、それを最大限に活かしながら、クエリを取りに行くのは非常に効果的です。
萬田:そうですね。ヤンマガには『彼岸島』という作品があるのですが、作品名の月間検索ボリュームは、大体100万UUくらい。ヤンマガWebで良いコンテンツを作ってSEO対策を行えば、だいたい検索ボリュームの50%ぐらいが来訪すると考えると、月間約50万UUは稼げるはずです。良いWebサイトは、SEOの流入の割合が高い傾向があります。ただ出版社のWebサイトは、一般的にSEO対策をあまり行いません。その点、今回の取り組みは業界では先進的だったと思います。

「ヤンマガWebのグロース戦略は業界では先進的だ」と萬田氏
「共創」する姿勢が重要
鈴木:Glossomさん、コミチさんに共通していえるのは、パートナーとして伴走してくれること。単純に依頼に対して答えるだけではなく、事業成長にコミットして提案を続けてくれる点ですね。これまで私が関わってきたWebサービスの立ち上げは、どちらかというと我々の都合に合わせてもらう形がほとんどだった。しかし今回は、「ともにサービスを作り上げることができた」という感覚があります。
吉本:ありがとうございます。講談社さんにはコンテンツという強み、つまり「What」があり、我々はデジタルに対しての知見、「How」があります。今回我々は、「What」を実現するために、「How」を提案することを心がけました。一方で、何をしたいかであったり、情熱や哲学といった根本的な部分は、最初にしっかり共有していただいた。これは、共創型のサービス構築を推進するうえで、非常に重要なことだと考えています。
鈴木:我々としても、そういった姿勢は非常にありがたいです。また、情熱や哲学といった部分の共通理解があるので、安心してお任せできますし、こちらも「How」の部分を学ぼうという気持ちにもなります。
萬田:実際、プロジェクトの初期に、「マーケティングとは何か」「Google Analytics(以下、GA)とは何か」といった、基本的なWebの知識を学ぶための勉強会を実施しましたね。
鈴木:はい。いまではヤンマガWebチームのメンバー全員が、毎日GAを見るようになっています。最初は理解できなくても、ずっと見ていると「なぜ流入が増えるんだ」や「なぜこんな回遊をするんだ」など、その変化を徐々に理解できるようになる。最近では、編集部内でそうしたナレッジが蓄積されてきていると感じます。
萬田:最近、みなさんの質問が鋭くなっていますよね。最初のころは、答えるのに簡単な質問が多かったんですけど(笑)。
吉本:ミーティングをしていても「リファラル」「セッション」といった言葉が飛び交って、デジタルリテラシーの向上を感じます。

「情熱や哲学の共有は非常に重要だ」と語る吉本氏
ビジョンとマネタイズの両立
鈴木:ヤンマガは、創刊から40年以上経ちます。先程お話ししたように、ヤンマガを見れば何か楽しいことがある、という価値を守り続けていく必要がある。だからこそ、コンテンツを届けることと、マネタイズのバランスを考えながら、サービスを拡大していきたいと考えています。
萬田:ヤンマガWebは、我々のミッションである「マンガ体験のDX」を最初に実現できそうなプロジェクトだと考えているので、是非成功させたいと思っています。私が実現したいことと、講談社さんをお手伝いしていることの先に同じゴールがあります。
吉本:お客様との関係性は、「Win-Win」でなければ続かないと思っています。だからこそヤンマガWebには今後も成長して欲しい。良いコンテンツを発信することで、楽しい場所にするのはもちろんですが、収益も確保しなければサービスは続けられません。
渋沢栄一が『論語と算盤』で説いた道徳経済合一のように、マネタイズとビジョンを両立させないと事業成長はできない。今後も、ヤンマガWebのビジョンを踏まえつつ、事業成長にしっかりコミットしていきたいですね。
▼鈴木 一司(写真左)
株式会社講談社 ヤングマガジン編集部 編集次長 ヤンマガwebチーフ
早稲田大学卒。2001年講談社入社。週刊少年マガジン編集部を経て2018年よりヤングマガジン編集部。
▼吉本 圭(写真中央)
Glossom株式会社 執行役員
フューチャーにてクライアント企業のシステム開発をリード。グリーにて大規模インターネットサービスのインフラおよび事業企画・事業戦略でプロジェクトリード。ランサーズにて、データ&マーケティング事業QUANT立ち上げ。その後、グリーへのQUANT買収に伴い、グリーグループにジョイン。Glossomにてデータ&マーケティング事業を管掌。
▼萬田 大作(写真右)
株式会社コミチ 代表取締役
マンガ家の「作る」「広げる」「稼ぐ」を支えるプラットフォーム・コミチ代表。スマホで読みやすい縦スク推し。無類の本好き。Fav→火の鳥/まんが道/アルキメデスの大戦/阿・吽/ちはやふる/キングダム/ヒストリエ/代表的日本人/ローマ人の物語/論語と算盤など、歴史好き。アラフォー現役エンジニア。分析は大好物。
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Written by DIGIDAY Brand STUDIO(海達 亮弥)
Photo by 渡部幸和