ヨーロッパではドイツが先頭に立ち、「顧客のログイン」にまつわる戦いがはじまっている。2018年10月に、20のメディア、eコマース、エージェンシーのISP関連のビジネスが、顧客のログインを統合した商品を公式にリリースする。これは、自身のデータのプライバシーや合意に関する設定を、顧客が一括管理できるものだ。
ヨーロッパではドイツが先頭に立ち、「顧客のログイン」にまつわる戦いがはじまっている。
2018年10月に、20のメディア、eコマース、エージェンシーのISP関連のビジネスが、顧客のログインを統合した商品を公式にリリースする予定だ。これは、GDPR法に準拠するために昨今厳しくなってきている、自身のデータのプライバシーや合意に関する設定を、顧客が一括管理できるものだ。コンセプトは、任意のユーザーがログインした際にプライバシー設定の一括管理センターに割り当てる、というものだ。そしてこれは、すべてのウェブサイトとパートナーのデジタル資産をまたいで機能する。
「これは、ヨーロッパ市場のこの『不均衡な状態』を変える最後のチャンスだ」と、ドイツのオンラインマーケター団体のAGOFの元役員のひとりで、最近CEOに任命されたスベン・ボーネマン氏は語る。「GoogleとFacebookの複占(デュオポリー)によって、ユーザーのデータはいわゆる『壁に囲われた庭(ウォールド・ガーデン)』のなかに取り込まれ、ドイツの市場からはなくなってしまっている状態だ。これはつまり、パブリッシャーやエージェンシーが、もうそのデータを利用できなくなっていることを意味している」。
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放送局のプロジーベンザット1(Prosiebensat.1)とRTLグループは、2017年にユナイテッド・インターネット(United Internet)というプロバイダーと提携した。それ以来、出版会社のシュピーゲル(Spiegel)やグルーナー+ジャー(Gruner+Jahr)、リージョナルパブリッシャーのイッペン・デジタル(Ippen Digital)、国内新聞社の南ドイツ新聞(Süddeutsche Zeitung)など、次々とパートナーを集めてきた。そして、eコマース企業のオットーグループ(Otto Group)、C&A、ザランド(Zalando)、コンラッド・エレクトロニック(Conrad Elektronik)、ダグラス(Douglas)、スカウト24(Scout24)、宅配サービスのDPD、そしてメディアエージェンシーのグループ・エム(GroupM)のドイツ支部やパイロット・グルッペ(Pilot Gruppe)もしかりだ。
2018年3月、この同盟は、統合した識別情報を監視する非営利かつ中立的機関の、ヨーロッパネットID団体(European NetID Foundtaion)を設立した。
eプライバシー法の影響
間近に迫っているeプライバシー法(ePrivacy regulation)では、広告のトラッキング目的で第三者のクッキー情報の利用規制が非常に厳しくなるが、これはドイツ国内で大きな懸念となっている。ボーネマン氏によると、AppleがSafariブラウザ内で行なったトラッキング対策などの加勢によって、第三者クッキー情報の利用はますます難しくなったという。
「第三者クッキー情報はその重要性を失いつつある」とボーネマン氏。「ウェブブラウザ業界が、eプライバシー法の施行時期を待たずして第三者クッキー情報を殺してしまう可能性もある」。結果、オンライン上のユーザーは、パブリッシャーやデジタルの市場から追跡されたり限定されることはなくなるだろう、と彼は付け加えた。
現在この団体はドイツのビジネスで成り立っているが、すでにドイツ国外にもオフィスを構えるパートナーを皮切りに、ヨーロッパ全土に広く開かれる予定だ。
デュオポリーの対抗手段
顧客は設定項目にチェックをいれることで、共有するデータの種類と、それを誰に共有するかを選択できる。同意管理プロバイダー(CMP: Consent Management Platform)を利用しているパブリッシャーは、自身のデジタル広告のサプライチェーン内で、この合意情報をパートナーに渡すことができる。
プロジーベンザット1、RTL、そしてユナイテッド・インターネットは、自身の既存の顧客を統合IDとログインに変更した。これはつまり、3500万人がすでにNetIDのログインを持っていることを意味しており、出発点としては申し分ない。スタティスタ(Statista)によると、これは6000万人ともいわれるネット人口のおよそ60%にあたる。2018年10月中旬以降も、この数字をさらに増やすべく、あらゆるパートナーがこぞってログインを求めるプロモーションをかけていくだろう。
ヨーロッパ全面展開というパブリッシャー団体の新たな試みは、FacebookとGoogleの複占に対抗するための手段だ(波乱含みではあるが)。だが、これは典型的な手段とは一線を画しており、勝てる可能性も高いと主張するパートナーもいる。なぜなら、統合された顧客のログインが、いかなるパートナーにとっても戦略的な優位点にはならないからだ。これこそが、団体自身を通じてではなく、パブリッシャーにインベントリのプールへの合意を求め、もっとも価値のあるデータを保持し、それぞれを別個に販売しているような団体との違いだ。
マーケターとGDPR
当然ながら、メディアエージェンシーやアドテクベンダー自身は顧客のデータそのものを保持しないし、実際の統合ログインの運営側でもない。彼らはその代わりに、団体に参画するための年会費を支払い、将来的な要求事項について話し合ったり、団体形成に協力したり、施行に向けての将来的な商品のロードマップの周知を行うことになるだろう。
ボーネマン氏によると、ドイツはデータプライバシーに対して常に独自のやり方をとってきたにもかかわらず、大多数の顧客の同意を得るためにはじまったGDPR法が施行された2018年の3月までは、顧客のGDPRに関する認識は、ほとんどないに等しかったという。だが、プロジーベンザット1でチーフデータオフィサーを務めるマルクス・ハルトマン氏によると、マーケターにとってGDPRは前向きなものとして捉えられるという。
「顧客は、見当違いの広告にうんざりしている」と、ハルトマン氏は語る。「ビジネスや広告主が相手のことを知ることは非常に大切だ。もっと明確な形でターゲティングを行うことができれば、マーケターにとっては素晴らしいことだ。なぜなら、それは顧客にとっても価値の高いパートナーになることであり、雑音を取り除いて関連性のあるメッセージだけを伝えることだからだ」。