GDPRの登場によって、リスクのない広告購入の選択肢を求める需要には拍車がかかっている。コンテンツ連動型ターゲティングが急増し、プログラマティックギャランティードも同様に急増した。大手パブリッシャー数社によると、現在、セカンドパーティデータに関わるパートナーシップは復活しつつあるということだ。
EU一般データ保護規則(General Data Protection Regulation、以下GDPR)の登場によって、恐れられてきたようなデジタル広告業界の破壊は起こらなかったが、リスクのない広告購入の選択肢を求める需要には拍車がかかっている。コンテンツ連動型ターゲティングが急増し、プログラマティックギャランティード(保証型プログラマティック取引)も同様に急増した。大手パブリッシャー数社によると、現在、セカンドパーティデータに関わるパートナーシップは復活しつつあるということだ。
ガーディアン(The Guardian)やニュースUK(News UK)、ビジネスインサイダー(Business Insider)は、広告主のファーストパーティデータと各社の所有するカスタマイズされたオーディエスデータをひとつにまとめる方法を求めるリクエストの数が際立って増加していると、口を揃えて主張する。
パートナーシップの形
セカンドパーティデータのパートナーシップはふたつの方式に分けられる。ひとつは、広告主のファーストパーティデータとパブリッシャーのファーストパーティデータをひとつにまとめる方式で、これは既存のオーディエンスをターゲットにすることに加えて、パブリッシャーのポートフォリオに存在する、既存のオーディエンスと類似の嗜好の新規のオーディエンスを見つけ出すことを意図したものだ。もうひとつは、いわゆるパートナーシップ方式で、これはパブリッシャーが率先して自社のデータを自社のインベントリーから切り離し、切り離したデータを広告主に販売し、広告主が購入したデータを使用して、パブリッシャーのサイトとは別の場所でユーザーをターゲットにするものだ。
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GDPRは、別の当事者がパブリッシャーのオーディエンスのデータを同規則に準拠しない形で漏洩させてしまったり処理してしまった場合に、そのパブリッシャーに有無をいわさず罰金を科す。こういった事情から前記ふたつ目の方式が採用されることは稀になっている。
「パブリッシャーにとっての課題は、価値あるセンシティブなデータアセットを広告のために利用したり、(GDPRの)規則を遵守したうえで利用したりすることに関連している」と、ガーディアンのプログラマティック担当のディレクターであるダニー・スピアーズ氏は言う。「こうした理由から、データをメディアから切り離して販売しない場合が多い」。
サードパーティへの逆風
しかし、この両方の種類のデータに対する関心は、時間とともに増してきた。GDPRがトレンドを生み出したことで勢いはさらに増したとパブリッシャーはいう。広告主であるクライアントは、GDPRを遵守したうえで既存の顧客をターゲットにすることに加え、既存顧客と似た顧客を見つけ出すような方法で、自社の顧客に関するデータをいかにしてパブリッシャーのデータと結びつけられるかをますます知りたいと考えていると、全国紙であるタイムズ(The Times)とサン(The Sun)を所有するニュースUK(News UK)でデジタル広告ディレクターを務めるベン・ウォームズリー氏はいう。
「これが現在、(会議で)一番はじめに質問されることのひとつだ」と彼はいう。「GDPRが施行されるということがわかってからは、ますます増えた。サードパーティデータに関しては、その成り立ちがよくわからず、しばしば非常にあいまいに解釈できるとして、これまで以上に批判が寄せられるようになった」。
8月に、グループ・エム(Group M)エージェンシー傘下のエッセンス(Essence)は、オーディエンスセグメントのサードパーティデータの購入を半分以上削減していたと公表したが、この動きを引き起こした理由は、GDPRだけではないとも強調した。また、オムニコム(Omnicom)のグループ企業でトレーディングデスクのアナレクト(Annalect)は、オーディエンスのサードパーティデータに充てる総予算額を削減することになりそうだ。この予算に自然と差が生まれ減少した理由は、セカンドパーティデータに関するパートナーシップにあると、アナレクトでデータおよび技術戦略を統括するマイルズ・プリチャード氏はいう。「バイサイドは、サードパーティデータに長いあいだ頼りすぎてきた」と、マイルズ氏はいう。「GDPRは、ファーストパーティデータから可能な限り多くの価値を引き出すことに再度光をあててくれた」。
パブリッシャーの打ち手
パブリッシャーはこのようなチャンスを広告主向けにまとめて提供する新しい方法を考案している。ビジネスインサイダー(Business Insider)は同社のグローバルなプログラマティック広告サービス全体で、このセカンドパーティデータを利用するチャンスを拡大する方法の構築に取り組んでいる。一方で、ニュースUKは6月に、同社の親会社であるニュースコープ(News Corp)の広告プラットフォーム、ニュースIQ(News IQ)のイギリスへの提供を開始した。このプラットフォームはすべての関連会社からオーディエンスのすべての情報をまとめあげるため、広告主は、自社の意見や考えに基づいてターゲットを定め、自社にあるデータをターゲットとなるオーディエンスと結びつけることができる。
「ニュースIQは、GDPRを遵守したうえで、既存のオーディエンスに類似のオーディエンスを獲得するための方法だ」と、ウォームズリー氏は付け加えた。
データをメディアから切り離すという、稀なほうの選択肢に潜む利益は、依然と未知数だ。デジタルスポーツパブリッシャー、ギブミースポート(GiveMeSport)のジェネラルマネージャーであるライアン・スケッグス氏によると、パブリッシャーは自社と広告主がどのデータを共有するかについては依然として話そうとしないという。しかし、こちらの選択肢をとれば、GoogleやAmazon、Facebookをはじめとする企業と同等に戦える可能性が高まるだろうと、彼は付け加えた。
「パブリッシャーが大口取引を得られる代わりに、そのお返しとしてパブリッシャーはキャンペーンでリアルタイムに自社のファーストパーティデータを無料で共有することになるという、交換条件が成立する必要がある」と、スケッグス氏は言う。「そのため、バイヤーは、リアルタイム入札やシーケンシャルメッセージング、フリークエンシーキャップを使用して購買ファネルにつなげることができる」。
オゾンというプラットフォーム
ガーディアンやニュースUK、テレグラフ(Telegraph)、リーチ(Reach)は各社の協力によって提供するサービスであるオゾン(Ozone)を使用して、この選択肢をとる可能性を幾分か高めたい意向だ。オゾンには協力する場合に通常必要な付加機能が備わっている。それは、1回の購入時点で広告主に対してより大きな選択肢を提供するプール型インベントリーだ。しかし、オゾンがほかと異なるのは、その技術の効果にある。オゾンは基本的には、オープンソースのプレビッド技術を使用して開発された、巨大なサーバーサイドラッパーソリューションである。オゾンのCEOであるデーモン・リーブ氏によると、パブリッシャーがこの技術を所有していると、広告主の投じた資金がたくさんの広告技術の仲介者のあいだを経るうちに失われたりすることなく、パブリッシャーにより確実に届くようになるということだ。
このプラットフォームはまだ開発されたばかりだが、この考え方によって、個々のパブリッシャーのパートナーが広告主に対して、広告主が望む、個々の広告主向けにカスタマイズしたオーディエンスの情報を自社から切り離して提供するという新しい方法が誕生する可能性がある。しかも、この方法は、すべてのパブリッシャーのパートナーの全系列会社のデータを集めて提供する。
「これまでと大きく変わり、オーディエンスのデータを共有している責任がパブリッシャーへと移ってきているが、そこにはチャンスがあり、義務も生じる」と、リーブ氏は付け加えた。「パブリッシャーは自社ビジネスにたくさんの価値を内包している。そしてこのオーディエンスのデータを解放し、そのデータをGDPRに準拠した形で広告主のファーストパーティデータとともに共有することが、オゾンの戦略の一環だ」。