新型コロナウイルスのアウトブレイクが広告業界に与えた衝撃の兆候は、混乱しているテレビ広告の市場を見ればわかる。今回の事態が急速に変化する性質のため、広告主が支払いを早くから確約することを躊躇しており、デジタル広告により近づいたテレビ広告市場を創り出しているのだ。
新型コロナウイルスのアウトブレイクが広告業界に与えた衝撃の兆候は、混乱しているテレビ広告の市場を見ればわかる。テレビネットワークの広告インベントリー(在庫)は通常、広告主側の需要がテレビネットワークの供給を上回るので、大半が月がはじまる前に売れてしまう。しかし、アメリカでは、4月にはこの力学が反転した。今回の事態が急速に変化する性質のため、広告主が支払いを早くから確約することを躊躇しており、デジタル広告により近づいたテレビ広告市場を創り出しているのだ。
米国のエージェンシーの幹部たちによると、4月は隔離中のオーディエンスの視聴増加に、広告主によるキャンペーンのキャンセルや延期が相まって、テレビの広告インベントリーがだぶついており、テレビネットワークは、大至急の穴埋めや価格の引き下げを余儀なくされている。一方で、(広告を)引き上げていた広告主の一部が、テレビ広告市場に資金を戻しはじめる動きもある。「3月の最初の2週間に広告を止めたがったクライアントが、現在、少しずつ戻って調整している」と、あるエージェンシー幹部は語った。
柔軟性を重視している兆候
通常、テレビネットワークは全米向け広告インベントリーの4分の3を、その月がはじまる前に売り終える。しかし、この件に詳しいテレビ広告業界幹部によると、4月は3月末時点でインベントリーの予約が約4分の1しかなかった。その後、4月に入ると1週間たらずで半数を超えた。こうした変化をこの幹部は、広告主がこの時期の支出に際して柔軟性を重視している兆候だととらえている。
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新型コロナウイルスのパンデミックの影響で4月のテレビ広告市場は変化したが、この変化がいつまで続くのかははっきりしない。話を聞いたエージェンシー幹部たちによると、4月はインベントリーが余ったのに対し、5月と、特に6月は、広告主側の需要が上回る見込みだ。別のエージェンシー幹部は、「皆が第2四半期末に移したため、6月はいまのところ完全に余裕がなくなっている」と語った。
アメリカの広告主とエージェンシーは、テレビ広告市場の現在の柔軟性のほうが好ましいと考え、次のアップフロント取引でこれを契約に盛り込もうとするかもしれない。2020年のアップフロント取引の交渉は、パンデミックによってすでに宙に浮いているが、パンデミックが収まったあとも、広告主側は長期契約に慎重になるだろう。しかし、パンデミックが収束し、広告主側の需要がパンデミック以前のレベルに戻れば、広告費は再び上がり、インベントリーはまた入手しづらくなる可能性が高い。その場合、テレビ広告のバイヤーは、安価に提供される長期的なアップフロント取引でテレビネットワークのインベントリーを再び確保するしかないと考えるだろう。
テレビ広告の購入を手がけるタタリ(Tatari)のメディア担当バイスプレジデント、ブラッド・ゲビング氏は、広告主側が資金を抑制してインベントリーの入手期間が長期化したことで、「この機会に、取引の獲得を狙い準備している広告主に対して、市場は開け放たれている」と語った。タタリでは、すでに3月中旬に広告の値下げを確認しており、このときは、スポーツプログラムを失ったテレビネットワークが通常価格の20~30%でインベントリーを提供していた。ゲビング氏によると、現在、タタリではテレビ広告のCPMが平均で30~40%引きになっているという。
需要と供給の力学の変化
テレビ広告の需要と供給の力学は3月に変わりはじめた。旅行関係など、パンデミックの影響をより直接的に受ける事業の広告主が、市場から広告費を引き上げたのだ。4月はこれが加速した。前出のエージェンシー幹部は、「大きめのクライアントのほとんどが4月に削減を開始した。テレビネットワークの(インベントリーの)穴は4月が最大になるだろう。クライアントは(キャンペーンの実施を年内に)先送りしたところがあれば、完全に切ったところもある」と語った。
アメリカのテレビネットワークは、この需要と供給の力学に大急ぎで対処している。スポーツ中継で流すことになっていた広告については、広告主と協力して変更に取り組んでいるところだ。スポーツ中継の休止で空いたプログラムの穴は、名試合の再放送やライブ特番で埋めた。テレビネットワークのクリエイティブサービスチームが広告主と協力して、現在の文化状況によりふさわしい広告を新たに制作している。また、NBCユニバーサル(NBCUniversal)がネットワークの広告量を削減しているが、NBCユニバーサルの広報担当者は、削減量の実数は明かさなかった。
業界団体VAB(以前の動画広告協会)のプレジデント兼CEOであるショーン・カニングハム氏は,「すべての加盟社が基本的に無休で作り直している」と語った。VABには、ディズニー、NBCユニバーサル、バイアコムCBS(ViacomCBS)ど、大手のテレビネットワークコングロマリットが加盟している。
一部の広告主にはチャンス
入手可能なインベントリーが流動化し、一部の広告主にはチャンスが生まれた。テレビ広告の販売のウォーターフォールでは、アップフロント取引で支払いを確約する広告主が優先されるため、いわゆる「スキャッター」市場(アップフロントにおける売れ残り)で広告を買うダイレクトレスポンスの広告主は、通常、十分な量のテレビ広告にアクセスするのが難しい。しかし、エージェンシー幹部たちによると、多くのインベントリーが利用できるいま、こうした広告主が目にする在庫処分率が上がっているという。また、テレビネットワークのプライムタイムの番組のような希少なプログラムは、参入の資金的な障壁が下がり、通常なら広告を出す余裕がない広告主にも、将来実施するかもしれないキャンペーンのためにインベントリーを検証できる機会が訪れている。
タタリのゲビング氏は、「(いまテレビ広告に資金を出すことが)可能な広告主は、チャネルを増やして新しいことを試みるなど、資金を増やすよい機会だととらえている。プライムタイムの特別な枠を80%引きで入手できるなら、通常価格に戻った場合に向けてこの枠の本当の価値を知るすばらしい機会になる」と語った。
エージェンシー幹部らは、4月に広告を買うことによる潜在的な長期的なメリットを認めている。「クライアントが3月と4月に広告を続けていれば、今後常態に戻ったときに、「我々はきつい時期にそちらに協力したのだ。今年の残りの期間は我々に協力してくれてもいいのではないか」と主張するチャンスが拡大すると、第3のエージェンシー幹部は語った。「きつい時期にパートナーを続けた見返りに」、クライアントはプログラムの格上げかCPMの値引きを求めることになると、この人物は語った。
Tim Peterson (原文 / 訳:ガリレオ)