インスタグラムは昨年、ようやくパブリッシャー向けの動画広告収益分配プログラムを開始した。しかし、参加しているパブリッシャーによると、経済的な面では大きな変化とは言えないという。米DIGIDAYが取材したパブリッシャーたちは、同プログラムの成果に辛辣な意見を述べた。
インスタグラムは昨年、ようやくパブリッシャー向けの動画広告収益分配プログラムを開始した。しかし、参加しているパブリッシャーによると、経済的な面では大きな変化があったとは言えないという。
あるパブリッシャーは長尺動画(正式名称はIGTV)をインスタグラムにアップロードすることで得られる収益について「がっかりする金額」と語った。さらに、ほかのパブリッシャーたちは、さらに辛辣な意見を述べた。
2番目のパブリッシャーは、「状況を変えるようなものではない」と述べている。
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「我々は何も得ていない。私は何か勢いが生まれる兆候を見たいと思っているが、CPMは最悪だ」と3番目のパブリッシャーは語った。
4番目のパブリッシャーは、「収益がどれだけ小さいかを説明すると、我々のデータベースでは追跡すらされていないレベルだ」と述べた。この関係者によると、インスタグラムのアカウントのひとつは通常、同プログラムから月額1000ドルから2000ドル(約11万円から約22万円)を受け取っているという。
「何もないよりましだ」
取材をしたパブリッシャーのうち2社は、動画に掲載される広告のCPMは通常6ドル(約700円)の範囲で、YouTubeとFacebookで受け取るCPMの3分の1から半分だと述べた。インスタグラムの規約によると、参加しているパブリッシャーや個々の動画クリエイターが投稿する該当動画に表示される広告はすべて、動画制作者が収益の少なくとも55%を得る。
インスタグラムの広報担当者はコメントを避けた。
これらのパブリッシャーは、同プログラムの成果に失望しているものの、必ずしもこの状況に憤慨しているわけではない。現時点では、インスタグラム専用の長尺動画を制作しているわけではなく、YouTubeとFacebook向けの動画を再利用しているので、実質的にはただ収益が追加された形だ。3番目のパブリッシャーはインスタグラムの収益を「何もない」と表現したが、最初のパブリッシャーは「何もないよりましだ」と述べた。
インセンティブなしの過去
もちろん、この収益が実際にはゼロになったとしても、パブリッシャーたちはそれほど驚かないだろう。過去4年近くのあいだ、パブリッシャーたちは収益分配プログラムなしで、長尺動画をインスタグラムに投稿してきたからだ。
Facebook傘下のインスタグラムは2018年6月、クリエイターやパブリッシャーが同プラットフォームに60秒以上の動画をアップロードできるオプションとしてIGTVを提供開始した。当時、IGTVはインスタグラムがYouTubeに対抗しようとしているように見えた。しかし、その可能性を現実のものにするためには、インスタグラムはどこかの時点で、クリエイターやパブリッシャーが同社のプラットフォーム向けに動画を作成することを奨励するためのインセンティブを与える必要があったが、何年ものあいだ、そのようなインセンティブは与えられなかった。そしてクリエイターやパブリッシャーはYouTube動画のリサイクルセンターとしてインスタグラムを利用してきた。そして2020年、インスタグラムはYouTubeスタイルの動画広告収益分配プログラムのテストを開始したが、対象はクリエイターに限られており、パブリッシャーは2021年6月まで1年、待たなければならなかった。
TikTokの模倣といえるリールに注力
しかし、米DIGIDAYの取材に応じたパブリッシャーのうち3社が考えるように、この動きはそれほど活発ではない。さらに、IGTVの収益化プログラムをパブリッシャーに開放して以来、インスタグラムはブランドとしてIGTVを廃止した。昨年10月、IGTVを既存のフィード内動画プロダクトに組み込んだ。一方、インスタグラムは「TikTok」を模倣した 「リール(Reels)」を優先している。リールは基本的にIGTVとは正反対で、動画の長さを60秒に制限している。さらに重要なのは、インスタグラムがリールを優先する程度は、潜在的にほかの動画プロダクトたちを統合するレベルにまで達しようしていることだ。
インスタグラムのトップであるアダム・モセッリ氏は、2022年12月に公開した動画のなかで、同プラットフォームは 「リールを中心とする当社のすべての動画フォーマットを統合し、同製品の成長を続ける」計画だと述べている。
もしインスタグラムがリールを中心に勝負しようとしているとしたら、同社の動画広告収益分配プログラムはどうなるのだろうか。その点は不明瞭だ。同社は、リールのための動画広告収益分配プログラムはない。代わりに、TikTokやYouTubeによるTikTokの模倣プロダクトのように、インスタグラムはクリエイターにリールの投稿に対して報酬を与えるクリエイターファンドを持っている。しかし、これらのクリエイターファンドは動画製作者にとって信頼できる収益源ではなく、動画広告の収益分配プログラムとは異なり、特定のクリエイターやパブリッシャーが受け取ることができる金額に制限を設けている。このことはYouTubeのクリエイター、ハンク・グリーン氏が最近TikTokのクリエイターファンドに関する動画で語ったように、ほかのクリエイターファンドにも当てはまる。
「期待できるものは何もない」
それにもかかわらず、パブリッシャーたちはこの状況に対して比較的穏やかだ。彼らにとって、状況はインスタグラムがIGTVを発表してからほとんど変わっていない。彼らは、いつの日かインスタグラムが動画制作者に受動的な収入源を確立してくれることを願っている。それまではYouTubeやFacebook、TikTok、Snapchatの動画をインスタグラム上で再利用し続けるだろう。
「インスタグラムに参加しなければならないことはわかっている。インスタグラムで成長することは重要だが、従来型の収益化を期待しているかというと、成長事業のコア・コンポーネントとして期待できるものは何もないし、それに近いものもない」と2番目のパブリッシャーは述べた。
[原文:Instagram’s video ad-revenue sharing program has underwhelmed participating publishers]
TIM PETERSON(翻訳:塚本 紺、編集:黒田千聖)