テレビ局が広告測定オプションを拡大するなかで、エージェンシーの幹部たちがどのような質問を持っているのか、筆者は取材してきた。エグゼクティブのひとりが抱えていた疑問は「どのように世帯を定義しているのか?」だった。と、言われてもすぐにはピンと来ないかもしれない。
テレビ局が広告測定オプションを拡大するなかで、エージェンシーの幹部たちがどのような質問を持っているのか、筆者は取材してきた。エグゼクティブのひとりが抱えていた疑問は「どのように世帯を定義しているのか?」だった。
と、言われてもすぐにはピンと来ないかもしれない。
テレビとストリーミング広告市場が抱える不確実性のなかで、「何が一世帯とみなされるか」という問題がどれだけ重要な問題なのか筆者は理解していなかった。「世帯レベルでプライバシーに関する同意を得ることが抱える複雑さ」であれば、分かっていた。しかし、何が世帯としての資格があり、どのように世帯を数値化するのか、という問題の重要性には気づいていなかった。「各家庭/各世帯」の定義が不明確であることは、テレビとストリーミング広告の未来を複雑にする根本的な問題であることがわかった。
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主なキーポイント:
- テレビ広告の測定基準がニールセン(Nielsen)の域を超えるにつれ、「一世帯」が何を指しているか、統一された定義を持てなくなっている。
- 世帯は一般的に決定論的データと確率論的データを用いて定義されるが、その方法論やデータソースはさまざまである。
- 定義が異なるため、すべての測定プロバイダにまたがる統一された定義が得られる可能性は低い。
世帯内視聴の測定について
「今でも家庭について語るのは馬鹿げているように思えるが、それは大きな問題のひとつだと思う。家庭や視聴者ベースの測定について語るとき、(測定のプロバイダとして)どの企業を使っているのか、正しい『一世帯』の定義を決めるのが誰なのか」と、ピュブリシスメディア(Publicis Media)のアドバンスドTVとクライアントサクセス部門のエグゼクティブバイスプレジデントであるニコール・ホイッゼル氏は、12月に米DIGIDAYが主催したコネクテッドTV(CTV)広告を主題としたバーチャルフォーラムで語った。
世帯定義のジレンマは、産業が世帯の定義を欠いているということではなく、その逆である。さまざまな世帯の定義が複数存在している。これらの定義は、一般的に決定論的および確率論的と呼ばれるふたつの一般的なカテゴリに分類される。
- 決定論的:eメールアドレス、住所、電話番号など、個人に関連付けることができる明示的な情報に基づいて、複数のデバイスを同じ世帯の一部として関連付ける。
- 確率論的:ユーザーがアカウントにサインインしていない場合でも、IPアドレスなどの暗示的な情報に基づいて、デバイス同士を紐づけることでデバイスのグラフを作成し、これらのデバイスを同じ世帯の一部として認識する。
どちらのカテゴリーにも長所と短所がある。決定論的手法は明確な情報に基づいているため、確実なやり方に聞こえるかもしれない。しかし、家族以外の人とストリーミングのアカウントを共有している人の割合を考えると、そう簡単ではないことが理解できるだろう。一方確率論的な方法は登録アカウントに限定されないが、家を訪問した友人や家族がWi-Fiを使った場合などを考慮すると、複数の世帯に属することになる人が多い。このようなトレードオフがあるため、データプロバイダーたちは通常、IPアドレスを使用して、アカウントを共有しているが住所を共有していないデバイスを除外するなど、このふたつの方法論を互いに補完する形で使っている。
シンプルな違い以上の複雑さ
しかし、この問題は、決定論的な世帯定義と確率論的な世帯定義というシンプルな違い以上の複雑さを抱えている。ひとつの世帯に属するデバイスを特定するための手法はデータプロバイダによって異なっているため、データセットの重複や測定の重複につながる可能性がある。あるいは、データプロバイダたちが同じ方法論を使っていても、それぞれがカバーする世帯に漏れが生まれる可能性もある。「ひとつの統一されたソースを持つことは不可能だ」と別のエージェンシーエグゼクティブは述べた。
筆者が制作した以下のコント動画では、別の視点から世帯定義のジレンマを説明している。
12月のCTVバーチャル・フォーラムで、マーカス・トーマス(Marcus Thomas)のメディア部門パートナーかつシニア・バイスプレジデントであるラファエル・リビラ氏は、広告主がこの問題に対処するひとつの方法として、キャンペーンをひとつのデータプロバイダーに統合して、世帯の定義をひとつにすることを挙げた。たとえば、広告代理店のクライアントの1社が、異なるストリーミングアプリやCTVプラットフォームを横断する形でイノビッド(Innovid)が提供するインタラクティブなCTV広告を使ったキャンペーンを実施していたとすると、その広告代理店は同社の世帯グラフだけを使う、といった具合だ。「そうすることで、異なる場所からデータを引き出すことに応じて、世帯の定義を変える必要がなくなる」とリビラ氏は言う。
「さらに困難になっている」
皮肉なことに、テレビ広告業界は何十年ものあいだ、統一された家庭の定義を持っていた。ニールセンによるものだ。しかし、同社の定義に依存することの問題は、同社による視聴者数のカウントの正確性が最近欠損していることが明確に証明している。そのため、業界は現在、計数システムを更新し、さまざまな計数方法をすべて説明するという、一種の行き詰まり状態にある。
「長年ニールセンに関していろいろ文句を言ってきたが、今考えると誰もが世帯やデモデータに関して同意していたことは驚きだ、と多くの人が言っている。そして今、さらに多くのデータセットが存在するため、それがさらに困難になっている」とホイッゼル氏は言う。
TIM PETERSON(翻訳:塚本 紺、編集:長田真)