モバイル動画サービス、クイビー(Quibi)の崩壊や、YouTubeがオリジナル番組制作の大幅削減を発表しことにより、プラットフォームにおける短尺番組の流通は風前の灯だ。パブリッシャー勢はスポンサーの獲得やコネクティッドTVとの連携といった対応が迫られている。
モバイル動画サービス「クイビー(Quibi)」の崩壊により、(テレビやストリーミング、そしてデジタル動画プラットフォームのような番組制作者への売り込みといった)短尺番組の強力な購買市場への期待が一層されたわけではない。とはいえ、残っていた楽観の灯は、YouTubeが2022年1月、オリジナル番組制作の大幅削減を発表したことを受け、吹き消されたのも同然となった。
「YouTubeオリジナル(YouTube Originals)が去り、クイビーもないなか、市場はぐっと小さくなった」と、あるデジタル動画パブリッシャーは語った。
ただし、YouTubeのオリジナル番組の縮小が、短尺オリジナル番組全体の終焉を告げているわけではない。むしろ、これは当初のビジネスモデルへの回帰を示唆していると言える。動画広告収益共有番組は依然、YouTube、Facebook、Snapchat上に存続している(さらに、近い将来インスタグラムにも登場すると思われる)。Snapchatのオリジナル番組事業も存在する。そして何より、ブランドスポンサーの存在がある。
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そんななかパブリッシャーは、短尺番組の購入市場がさらに縮小するなか、ブランドスポンサーと自社のストリーミングプロパティに注力している。
主なキーポイント:
- YouTubeがオリジナル番組を縮小したことで、すでに低迷していた短編番組市場が縮小した。
- パブリッシャーは、今後の主要な番組スポンサーとしてブランドスポンサーに期待している。
- さらに彼らは、まずFASTチャンネルやCTVアプリでオリジナル番組を公開してから、YouTubeなどのプラットフォームへ配信するようにしている。
ブランドスポンサーが鍵
「メディアを買うブランド勢は、オリジナル番組およびオリジナル番組への統合にフォーカスしている。最大の伸びが期待できるのはそこだからだ」と、別のパブリッシャーは語る 。
ある意味、これはパブリッシャーに有利に働きうる。YouTubeといったプラットフォームが依然、動画事業の震央であることに変わりはないが、多くのパブリッシャーはバイアコムCBS(ViacomCBS)のプルートTV(Pluto TV)といった、無料の広告付きストリーミングTVサービスにおける自身のチャネルや、さらには独自のコネクテッドTVアプリを利用して、ストリーミング界にますます進出している。いずれのメディアにおいても、オリジナル番組は新興事業の鍵を握ることになるし、パブリッシャーはクイビやYouTubeに販売された番組を、パブリッシャー自身のストリーミングサービスを支えるために利用する立場にはなかった (少なくとも近い将来は) 。
「我々は間違いなく自身のストリーミングチャネルにかつてないほどフォーカスしており、その配信場の拡大に努めている」と、2社目のパブリッシャーは語った。そのフォーカス強化の一環として、このパブリッシャーは第1四半期に少なくともひとつのオリジナル番組を自身のストリーミングチャネルで初配信する計画を立てている。これまでは、YouTubeなどの動画プラットフォームで番組を初配信していた。
独自チャネルを模索
現在、デジタル動画プラットフォームを中心に動画事業を営む、また別のパブリッシャーも同様に、試験的に一定期間、いくつかオリジナル番組の初配信を自身のコネクテッドTVアプリ独占で行なう計画を立てている。「コネクテッドTVに関心のあるプラットフォームオーディエンスに対する長期的な賭けだ」と、同社幹部は語った。
ただし、誤解のないように言うが、パブリッシャーは依然、活性化した短尺動画の購買市場が存在するほうが望ましいと考えている。広告収益をYouTubeやFacebookといったプラットフォームと共有する従来型に代わる、新たな収益源が生まれるだけでなく、パブリッシャーの番組を探し求めるオーディエンスについて、自身の配信における偶然の出会いをただ待つのではなく、彼らとのパイプラインを能動的に築くこともできるからだ。
「YouTubeにオリジナル番組がなくなり、Facebookもオリジナルの配信を止めたら、プラットフォームはどうやって人々を引き込むんだ?」と、さらにまた別のパブリッシャーは首を傾げる。
活性化した短尺番組の購買市場はまた、ゆくゆくはNetflixやワーナーメディア(WarnerMedia)のHBOマックス(HBO Max)といった大手ストリーミング企業との契約を狙うパブリッシャー勢にとって、番組売り込みの技に磨きをかけられる、いわばスポーツの二部、マイナーリーグ的な役割も果たすことになる。YouTubeオリジナルの番組は「我々がより大きな場に至るための、そしてより大きなレベルで番組を作れると証明するための足がかりだった(中略)。YouTubeオリジナルは市場の良い位置を占めていた。ディスカヴァリー・プラス(Discovery+)のすぐ下にあり、再生回数を伸ばしやすかったからだ」と、1社目のパブリッシャーは語った。
TIM PETERSON(翻訳:SI Japan、編集:小玉明依)