2021年はテレビ、ストリーミング、デジタル動画市場のいくつかの変化が落ち着きはじめた一方で、ますます不安定になる部分もあった。2021年の総括として、この1年を支配し、次の時代を切り開こうとしているトレンドや展開を紹介しよう。
2021年はテレビ、ストリーミング、デジタル動画市場のいくつかの変化が落ち着きはじめた一方で、ますます不安定になる部分もあった。2021年の総括として、この1年を支配し、次の時代を切り開こうとしているトレンドや展開を紹介しよう。
2021年の重要な動向
- ストリーミング戦争が平たん化
- テレビ広告市場はさらに傾きつつも、崩壊はしなかった
- 制作はニューノーマルに落ち着く
- クリエイターエコノミーが活況
- 測定の大混乱
ストリーミング戦争が平たん化
2020年に起きたストリーミングの急増は、2021年に入って落ち着いた。ストリーミング市場全体を見渡すと、2021年も「成長中」という表現が適切だろうが、ストリーミングサービスの数が増えたことで、成長の裾野が広がった。一方、大手サービスの多くは成長が鈍化し、視聴者数の低迷も見られた。
2021年のストリーミング戦争は、たとえるならば、2部構成の物語だった。
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上半期、NetflixとDisney+(ディズニープラス)で契約数の伸びが鈍化、さらには減少に転じた。その一方で、ディスカバリー(Discovery)のディスカバリー+(Discovery+)とバイアコムCBS(ViacomCBS)のパラマウント+(Paramount+)が市場に再び参入し、ワーナーメディア(WarnerMedia)のHBOマックス(HBO Max)は、ワーナー・ブラザース(Warner Bros)の映画作品の後押しを受けた。
そして、下半期、人々がワクチン接種を受け、家の外で過ごす時間が増えると、全体的に契約数の成長が止まった。例外はNetflixで、わずかではあるものの成長が加速した。ニールセン(Nielsen)のゲージ(The Gauge)レポートによれば、米国におけるテレビ視聴時間に占めるストリーミングの割合は、6月から変化していない。
ディズニーとAppleを皮切りに、企業が契約者に一流の番組を提供するストリーミングサービスを立ち上げ、しばしば名前に「+」を付ける時代が幕を開けて2年余り。2021年も熱いストリーミング戦争が繰り広げられた。ただし、その主な熱源がストリーミング視聴者の急増だった2020年と異なり、2021年はスクリーンの外まで競争が拡大し、人々を楽しませなければならないというプレッシャーが大きくなった。
テレビ広告市場はさらに傾きつつも、崩壊はしなかった
2021年、テレビ広告市場は2年連続で転換期を迎えた。従来のテレビ視聴者の関心はストリーミングに移っており、広告主もそれに続いている。そして、ストリーミングがリニア(従来型テレビ)を追い抜こうとしている。
これらはすべて事実だが、テレビ広告業界はまだこの境界線を越えてはいない。
2021年のアップフロント市場では、従来型のテレビが再び主戦場になったが、契約の目玉はストリーミングだった。テレビネットワークのオーナーは、広告主をストリーミング在庫に誘導するため、リニアの契約条件を提示せず、そのストリーミング在庫について新たな高い価格設定での合意を迫った。さらに、Amazon、ロク(Roku)、YouTubeといったストリーミング広告のトップセラーが広告主のアップフロント予算を狙い、テレビネットワークとの競争に乗り出した。
しかし、広告主はいまも変わらず、従来型のテレビは多くの人々にリーチするコスト効率の良い手段だと捉えている。ニールセンのゲージによれば、テレビ視聴時間に占める地上放送とケーブルテレビの割合は過半数に達しており、いまのところ、広告主が立場を変える理由はない。また、広告バイヤーは従来型のテレビの限られた在庫と価格の高さに不満を抱いているが、その点に関しては、ストリーミングも状況は似ている。しかも、広告付きストリーミングサービスの場合、テレビより視聴者が少なく、細分化している。
しかし、力関係はいずれ変化するだろう。いや、すでに変化しはじめているのかもしれない。2021年、アップフロントへの参加そのものを見送った広告主や、第4四半期にコミットメントの一部をキャンセルした広告主も出ており、従来型のテレビからほかに振り分けられる資金が生まれているためだ。そして、そのとき、市場はついに倒れる。
制作はニューノーマルに落ち着く
2020年、テレビ、動画、コマーシャルの制作に大変動が起きたが、それに比べると、2021年は穏やかだった。マスクの着用やソーシャルディスタンシングなど、引き続き管理しなければならない変化はあったものの、年末を迎えるころには、正常といえる状態に落ち着いた。ただし、新しい正常(ニューノーマル)だが。
2020年後半には、制作領域は正常に戻りはじめていたが、実際に正常に近づいたのは2021年に入ってからだ。テレビ番組、動画、コマーシャルの制作者は、国外で撮影する番組や観客がいる番組など、パンデミック前と同じタイプのプロジェクトを実現する方法を見つけ出した。ワクチンの入手が可能になったことで、セットやスタジオが安全な労働環境を提供できるようになったが、すべてのキャスト、スタッフがワクチン接種に積極的なわけではない。
制作量は増加の一途をたどっているように見えたため、制作がこのニューノーマルに落ち着くことは好都合だった。制作会社がパンデミックでもテレビらしい番組をつくることは可能だと証明しただけでなく、テレビネットワーク、そして特にストリーミングサービスは、新しい番組をつくることに貪欲であることを証明し続けている。2021年第4四半期が2020年より忙しかったのはもちろん、どの年より忙しかったと報告している制作者もいる。
こうした制作領域の正常化は、企業がオミクロン株の脅威に耐える助けになるはずだ。しかし、エンターテインメント業界最大の組合が、映画、テレビスタジオとのあいだで、スタッフの労働条件を改善するための契約に合意した。制作領域の変化はまだ続きそうだ。
クリエイターエコノミーが活況
いまだインスタグラムもTikTokも、個人の動画クリエイターに対し、YouTubeのような収益分配プログラムを正式導入していない(本記事の執筆時点)。それにもかかわらず、2021年はクリエイターエコノミーの好況期だった。
インスタグラムでは、クリエイターが企業の商品の販売を促進することで報酬を得られるアフィリエイトプログラムがはじまり、TikTokには、クリエイターがショッピファイ(Shopify)経由で自身の商品を販売できるツールが追加された。また、TikTokとSnapchatは、クリエイターの投稿に対して報酬を支払うプログラムを2020年に開始すると、2021年に入ってFacebook、インスタグラム、YouTubeがそれに追随し、それぞれのクリエイターファンドを立ち上げた。テイストメイド(Tastemade)のようなメディア企業もこの流れに乗り、クリエイター、そして自身が収入を得るための新プログラムを展開している。
さらに、クリエイターはお決まりのデジタル動画プラットフォームから飛び出し、より広いエンターテインメントの世界に定着しようと努力し続けている。TikTokのスターであるアディソン・レイ氏、チャーリー・ダミリオ氏はそれぞれ、NetflixとHuluの映画、テレビ番組に出演している。YouTubeで物議を醸したジェイク・ポール氏は、ボクシング界の大スターの仲間入りを果たした。
一方、フェイズ・クラン(FaZe Clan)、チーム・リキッド(Team Liquid)などのeスポーツ組織は、新たな成熟のレベルに達しつつある。チーム・リキッドは組織の投資家になるクリエイターを増やしており、フェイズ・クランは株式公開の準備を進めている。
測定の大混乱
筆者は2021年1月の時点で、この年のテレビビジネスで起きるもっとも劇的な変化に、測定が入るとは予想すらしてなかった。予想は見事に外れた。
最初の前震は4月。パンデミック中、ニールセンが従来型テレビの視聴者数を過小評価していたと、業界団体のVABが主張したことがきっかけだった。その後、メディア・レーティング・カウンシル(Media Rating Council;以下、MRC)が、実際に過小評価があったことを確認した。しかし、2021年のアップフロント取引では、ニールセンが変わらずその立場を維持し続けた。測定プロバイダーとしてのニールセンの地位は安定しており、2022年第4四半期に最新の測定システムに切り替えるという計画によって、その地位はさらに強固なものになったようだ。
ところが8月、さらに揺れは大きくなった。まず、ディスカバリーのCEO、デビッド・ザスラフ氏が業界に対し、ニールセンから離れるよう呼び掛けた。次に、ニールセンは測定システムの欠陥に対応しているあいだ、MRCの認可を一時的に取り消してほしいと申し出た。その後、NBCユニバーサル(NBCUniversal)が新しい測定システムを開発中だと発表し、ニールセンだけでなく多くの代替測定プロバイダーに参加を求めた。
そしてついに、9月1日、MRCがニールセンの認可を取り消したことを発表した。業界が知るテレビ広告測定の世界に天変地異が起きようとしていた。
テレビネットワークのオーナー、広告主、エージェンシーは2021年残りの数カ月、測定エコシステムを評価し、さまざまな測定プロバイダーとテストの計画を立て、関係を構築し、間違いなく天変地異が起きる2022年に着々と備えている。
[原文:Future of TV Briefing: How the future of TV shaped up in 2021]
TIM PETERSON(翻訳:米井香織/ガリレオ、編集:村上莞)