伝統的なテレビ業界において、ビジネスがストリーミングに移行することで、収益ストリームが2本柱になることは、オーナーたちにジレンマをもたらした。しかし、ディズニー+(Disney+)が今年の後半に広告対応型のサービスを開始すると発表したことからもわかるように、ストリーミング側も独自に2本柱の収入源を開発してきた。
テレビ業界はいま、「広告対応プラン」に着目している。
伝統的なテレビ業界において、ビジネスがストリーミングに移行することで、収益ストリームが2本柱になることは、テレビネットワークのオーナーたちにジレンマをもたらした。しかし、ディズニープラス(Disney+)が今年の後半に広告対応型のサービスを開始すると発表したことからもわかるように、ストリーミング側も独自に2本柱の収入源を開発してきた。
「テレビビジネスには、常に複数の収益モデルが存在してきた」と、NBCユニバーサル(NBCUniversal)の元広告セールス担当役員で、メディア・マーケティング・サービス会社エンジン(Engine)のグローバル最高商業責任者であるスコット・シラー氏は言った。
Advertisement
これは従来のテレビには当てはまるかもしれないが、ストリーミングのふたつの収益ストリームは、もう少し最近の現象だ。過去10年間、ストリーミングサービスの収益モデルは、NetflixやAmazonプライムビデオ(Amazon Prime Video)のようなサブスクリプションと、プルートTV(Pluto TV)やトゥビ(Tubi)のような広告型に大きく分かれてきた。しかしHulu(フールー)は、サブスクリプションベースの広告対応型サービスを提供することで両者のバランスを取った。以前もそうだったように、Huluこそが伝統的なテレビネットワークのオーナーたちが今真似しようとしているモデルだ。
主なキーポイント:
- ディズニー(Disney)は、ディスカバリー(Discovery) 、NBCユニバーサル、パラマウント(Paramount)、ワーナーメディア(WarnerMedia)に続く形で、同社の主力ストリーミングサービス「ディズニープラス」に広告対応型のプランを追加する。
- Huluとディスカバリー+(Discovery+)は、低価格・広告対応プランの方が、高価格で広告無しのプランよりもユーザーあたりの収益が大きいことを示した。
- 広告対応プランの追加は、ディズニーが供給不足の広告市場から収益を得ることで、ストリーミング市場の加入者数の伸び鈍化に対処するのに役立つだろう。
Huluモデルを採用する理由
ディスカバリーのディスカバリー+とNBCユニバーサルのピーコック(Peacock)は、サブスクリプションベースかつ広告対応のプラン提供でローンチした。ワーナーメディアのHBO Maxと、パラマウントのパラマウント+も同様のプランを追加した。(厳密に言えばパラマウント+の前身であるCBSオールアクセス[CBS All Access]は、すでにサブスクリプションベースの広告付きプランを運営していた)。そして今度は、Huluを所有するディズニーが同社のフラッグシップストリーマーであるディズニープラスを持ってこのモデルに加わり、2本収入モデルの業界における地位を確定させた。
企業がHuluの2本収益モデルを採用する理由はふたつあり、極めて単純だ。理由は基本的に伝統的なテレビのふたつの収入源が減少していることに集約され、企業はサブスクリプションと広告の組み合わせからストリーミングでより多くの収益を上げることができる。
「もっとも伝統的なレガシーモデルが課題に直面するなかで、メディアオーナーたちは常に収益モデルを最大化し、クリエイティブであろうとする」とシラー氏は言う。
ディズニーのような企業は、従来型テレビで二重の収益源を享受してきた。広告から収益を上げるだけでなく、同社のネットワークを放送するためにいわゆる「ネットワーク使用料」を支払う有料テレビプロバイダーからも収益を上げている。そのため、ひとつの収益源からでも複数の収益源からでも、少なくともこれと同じくらいの収益をストリーミングで上げる方法を見つける必要があった。有料テレビの加入者数が減少し、テレビネットワークが販売しなければならない広告の数が制限され、有料テレビプロバイダーから受け取る配信収入が減少する可能性があるため、このニーズはより緊急性を帯びている。
ユーザー1人あたりの平均売上高
一方、ストリーミング市場では、Huluや最近ではディスカバリー+が、サブスクリプションベースで広告対応プランを通した売上増を示している。どちらのストリーミングサービスも、ユーザーが有料かつ広告付きのプランを利用している場合の方が、有料かつ広告無しサービスを利用している場合よりも、ユーザー1人あたりの平均売上高が大きくなっている。
2019年1月にラスベガスで開かれたCES(家電見本市:Consumer Electronics Show)において、Huluの当時広告営業部長だったピーター・ネイラー氏は、筆者が広告無しプランの加入者であることを(ジョークとして)揶揄した。 「(わずかに安い限定コマーシャルプランに加入することで)あなたが広告を見てくれれば、当社はより多くの収益を上げられる。広告を視聴するオーディエンスは非常に…(言い換えて)多くの広告を販売している。我々はそれが得意だ」とネイラー氏は当時語っていた。
ディスカバリーは昨年、同社の広告付き加入者のARPU(ユーザー当たり平均収入)が月間10ドル(約1200円)だったのに対し、広告のない加入者を含めると月間7ドル(約840円)だったことを発表し、収入の上昇をより明確に示した。最近では、コムキャスト(Comcast)のCEOブライアン・ロバーツ氏が、ピーコックの有料化かつ広告対応プランは、広告無しプランよりも加入者当たりの収入が(わずかながら)多いと述べた。
「セーフティーネット」にもなり得る
このストリーミングのふたつの収入のトレンドをさらに加速させているのは、(もし低価格の広告付きプランがサブスクライバーを増やすのに役立つならば)ストリーミング各社が、広告が足りていないと感じていている広告主の市場に売るための追加の在庫を与えるという事実だ。とある広告エージェンシーの幹部は「よく言われることだが、プレミアムテレビの在庫はまだ足りない」と語った。
追加収入以外にも、低価格で広告対応型のサブスクリプションサービスを運営することで、毎月ユーザーが解約しているストリーミングサービスに「セーフティーネット」を提供できると、あるストリーミング企業幹部は述べた。同幹部は、「『サブスクリプション疲れ』は実際に起きている。Netflixやディズニープラスを含め、誰もが価格を上げている。ある時点で、ユーザーたちは『これ以上いくらまでなら払ってもいいか』と自分に問いかけるだろう」と述べた。低価格帯のプランを提供することで、既存の契約者は実質的に支払いを減らすことができ、またディズニープラスやNetflixなどのストリーミングサービスでは契約者数の伸びが鈍化しているなかで、新規契約者への参入障壁も低くすることができる。
「(ディズニープラスの広告対応プランが)消費者を増やし、サブスクライバーを増やし、ARPUを増加させるならば、我々は間違いなく歓迎する」と、ディズニーのシニア・バイスプレジデントでCFOのクリスティン・マッカーシー氏は、3月7日のモルガン・スタンレー・テクノロジー・メディア・アンド・テレコム・カンファレンス(Morgan Stanley Technology, Media & Telecom Conference)で述べた。
これらを考慮すると、ディズニープラスが広告対応プランを追加したことは自明のことであり、ほぼ驚きも無いように思われる。そして、ストリーミング業界のお気に入りの質問のひとつが、人々の頭に必然的にのぼることになる:「Netflixはいつ広告を追加するのか?」。
過去には、その答えは決定的な「決してあり得ない」のように思われた。
Netflixはいつ広告を追加するのか?
Netflixは2019年7月、株主宛ての書簡で「我々は、HBOのように、広告が無い」とし、「それは我々独自のブランドの奥深い部分であり続けている。当社が広告販売に乗り出しているという憶測に基づくニュースを読んだときは、それは間違いだと確信していい。我々は、広告収入を得るために競争するのではなく、オーディエンスの満足を得るために競争することに全面的に集中することで、長期的にはより価値のあるビジネスになると確信している」と述べていた。
そして今、NetflixのCFO、スペンサー・ニューマン氏がモルガン・スタンレーのイベントで先日行ったスピーチでは、「(何事であれ)決してあり得ない、ということはない」と答えている。
[原文:Future of TV Briefing: Disney+ ad plan underscores the emergence of streaming’s dual-revenue stream]
Tim Peterson(翻訳:塚本 紺、編集:長田真)