英経済メディア「フィナンシャル・タイムズ(The Financial Times:FT)」は、ブランド向けのコンテンツ制作部門を拡張し、総合的な広告サービスを提供するエージェンシーに変えるという大がかりな計画を進めている。
FTはこれまで、ブランデッドコンテンツの配信や販売を得意としてきたが、クリエイティブな仕事は得意ではない。だが、コンテンツマーケティング動画を手がけるアルファ・グリッド・メディア(Alpha Grid Media)を6月に買収したことで、状況は大きく変わってきた。また、有料コンテンツのパブリッシャーとしては自然な考えだが、購読者データをさらに活用してコンテンツを最適化する取り組みを積極的に進めようとしているという。
英経済メディア「フィナンシャル・タイムズ(The Financial Times:FT)」は、ブランド向けのコンテンツ制作部門を拡張し、総合的な広告サービスを提供するエージェンシーとして機能させる、という大がかりな計画を進めている。
FTはこれまで、ブランデッドコンテンツの配信や販売を得意としてきたが、クリエイティブな仕事は得意ではない。だが、コンテンツマーケティング動画を手がけるアルファ・グリッド・メディア(Alpha Grid Media)を6月に買収したことで、状況は大きく変わってきた。また、有料コンテンツのパブリッシャーとしては自然な考えだが、購読者データをさらに活用してコンテンツを最適化する取り組みを積極的に進めようとしているという。
余白を売るベンダーではない
2カ月前に最高コマーシャル責任者という新たな役職を任されたジョン・スレード氏は、広告部門をあらゆるサービスに対応できるエージェンシー兼コンサルティング部門に育てることが最優先の課題だと述べている。スレード氏は同紙の特徴であるサーモンピンク色の紙面を引き合いに出して、「我々は、単にピンクや白の余白スペースを売るベンダーではない」と、米DIGIDAYに対して語った。
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スレード氏は次のように述べている。「広告業界は全体として二極化しており、真ん中の空いた場所には、直接販売で、追跡も手作業で行われるCPM(インプレッション単価)購入のインベントリー(在庫)がある。二極化した両サイドの一方には、人間味を感じさせ、リッチで奥の深いコンテンツというソリューションがあり、いまは誰もがそれに向かっている。もう一方には、自動化されたプログラマティックでハードコアなメディアが存在する。この両者はうまく協力しあえるが、我々は『どのくらいのインプレッションを購入希望でしょうか』と尋ねられるような中間地帯から、自社の広告ビジネスを引き離す必要があるのだ」。
新サービスには大手企業も出稿
FTは2015年9月に、「FTスクエアード(FT Squared)」と呼ばれるコンテンツマーケティングサービスを立ち上げた。これは「スポンサー記事」とコンテンツマッチング機能の「スマート・マッチ(Smart Match)」を組み合わせたサービスで、エネルギー大手のBPやサンタンデールUK(Santander UK)銀行といったクライアントが利用している。
たとえば、BPの場合、同ブランドを宣伝する「英国に貢献するBP(BP: Committed to the UK)」キャンペーンを展開し、「エネルギー世界の変化(Changes in the World of Energy)」や「科学者が科学に悪評をもたらす理由(Why Scientists Give Science a Bad Name)」といったBPの記事をシリーズで公開している。FTによれば、読者がこのコンテンツを読んだ時間は、延べ23万時間に達するという。
それ以来、FTではブランデッドコンテンツの売上が30%増加し、デジタル広告収入全体の10%を占めている(ただし、スレード氏は売上額を公表していない)。5月には、FTで技術およびメディア担当編集者を務めるラビ・マッツ氏が、FTスクエアードの編集ディレクターに任命された。
すべてをつなげた統合製品を作る
アルファ・グリッドの買収は「在庫のすき間」を埋めるもので、より優れたブランデッドコンテンツをクライアントのために作成できるようになるとスレード氏は説明。アルファ・グリッドは、FTの主要購読層であるグローバル企業幹部向けのコンテンツ作成を得意とする企業だ。
アルファ・グリッドの従業員はFTと同じデスクやシステムを共有する予定だが、FTが(最初に本社を構えた地である)セント・ポール大聖堂近くのブラッケン・ハウスに戻れば、常駐スタッフ用の場所ができる。現時点では、合わせて14名がFTスクエアードで働いている。
購読者データを利用したリターゲティング広告は、このところFTの主な収益源となっている。だが、そのデータをさらに活用して、ブランデッドコンテンツ製作の改善や告知を手助けしたり、コンテンツマーケティング戦略やメディアプランニングに関する意思決定を行うブランドパートナーを支援したりするところまでには至っていない。
「我々のサブスクリプションビジネスを支えている分析データは、当社のサブスクリプションビジネスだけでなく、当社のクライアントの広告ビジネスにも利用できる。私の仕事は、これらの糸をすべてつなぎ合わせて、クライアントが利用できる統合製品を作ることだ」。
マーケティングプラットフォーム
FTは高度な分析システムを利用して、編集作業やサブスクリプションビジネスに活用している。また、リアルタイムの編集データを利用して自社のサブスクリプションマーケティング計画を実施する取り組みをすでに成功させている。そして今、同じ手法をクライアントに適用できるようになったのだ。
「我々は何が読者に刺激を与え、何が読者をコンテンツに引き寄せるのかを知っており、メディア利用についての彼らの考え方を深く理解している。我々はクライアントに対し、トップニュースは何か、たとえばそれがブレキジット(Brexit:英国のEU離脱問題)に関することかどうかを教えることができる。また、どのような人々がいつどのくらいコンテンツを読むのか、動画記事やテキスト記事の最適な長さはどれくらいなのかをアドバイスできるのだ」と、スレード氏は言う。
最終的な目標は、広告主に、FT.comを単なる広告スペースを買う場所ではなく、マーケティングプラットフォームとして認識してもらうことだ。広告スペースでは規模が必要になるが、「ニュースサイドが規模で勝てるとは思っていない」とスレード氏は言う。
「誰もがライバルなのだ」
だが、これは大変な労力が必要になるかもしれない。マーケティング企業のマインドシェア(Mindshare)でパブリッシング担当責任者を務めるシャルロット・タイス氏によれば、パブリッシャーはコンテンツマーケティング製品を拡大するだけの余裕があり、FTの購読者データは「非常に貴重」であることから、FTが一定のクライアントを惹きつけるのは間違いないという。ただし、ブランデッドコンテンツは従来のディスプレイ広告キャンペーンより多くの予算を必要とする一方で、撤退することはより難しい。しかも、同じような話を宣伝している企業が(従来型の企業もそうでない企業も)ほかにも大勢いるのだ。
「Google、FT、グローバル・ラジオ(Global Radio)、JCドゥコー(JCDecaux)などと、同じピッチに上がることはできるかもしれない。誰もがライバルなのだ」とタイス氏は述べたうえで、次のように語る。「これには多額の投資が必要だ。もちろん、大きな利益を得られる可能性はあるが、この仕事に取り掛かってはみたものの、彼ら(ライバル)が撤退しなければ、莫大なコストがかかるのだ」。
Jessica Davies(原文 / 訳:ガリレオ)
Image: courtesy of the FT.