英国民投票前夜の木曜日、フィナンシャル・タイムズはブレキジット(Brexit:英国のEU離脱問題)関連ニュースをすべて、24時間閲覧無料化。そのため、トラフィックは当然のごとく、うなぎ登りとなった。
しかし、人々はコンテンツを週末のあいだ、タダ読みして去っていくだけではなかった。なんと彼らの多くは、購読契約も行ったのだ。
実際、その週末における、フィナンシャル・タイムズのデジタル版購読契約の売上は、通常の週末と比較して、600%に跳ね上がったという。つまるところ「何千もの」新規契約の獲得につながったのだ。
世界中に影響を与える、大きなニュースがあるときはいつもそうだが、英国民投票が導いた驚くべき結果により、大手パブリッシャーのトラフィックは軒並み急騰した。しかし、ことフィナンシャル・タイムズ(Financial Times)においては、それだけにとどまらなかったという。良質なニュースジャーナリズムを提供したことに対する、さらなる恩恵を獲得できたのだ。
投票前夜の木曜日、フィナンシャル・タイムズはブレキジット(Brexit:英国のEU離脱問題)関連ニュースをすべて、24時間閲覧無料化。そのため、トラフィックは当然のごとく、うなぎ登りとなった。ちなみに同社は、デジタル化20周年を迎えた2015年にも、記事の無料化を行っている。
600%向上した新規契約
今回の無料化は、まだ意思決定できていない有権者に対し、賛成派および反対派双方のディベートにアクセスする機会を提供するという、ジャーナリストとしての義務を果たすためのものだった。国民投票実施の週末にかけて、フィナンシャル・タイムズの投票追跡記事は、400万近いページビューを記録。史上もっとも注目を集めたジャーナリズム記事となった。
Advertisement
しかし、人々はコンテンツを週末のあいだ、タダ読みして去っていくだけではなかった。なんと彼らの多くは、購読契約も行ったのだ。
実際、その週末における、フィナンシャル・タイムズのデジタル版購読契約の売上は、通常の週末と比較して、600%に跳ね上がったという。つまるところ「何千もの」新規契約の獲得につながったのだ。
英国民投票をめぐる大戦略
だが、購読契約の増加は偶然ではないと語るのが、フィナンシャル・タイムズのチーフコマーシャルオフィサーのジョン・スレイド氏だ。ニュースが出て、すぐ行われたリアルタイムマーケティングプランという戦略によるものだという。
「フィナンシャル・タイムズにとって、これは時折訪れる機会だ。ギリシャ危機や中国危機のときも同じような兆候が見られた。しかし、その金曜日の朝6時30分頃、これまでに経験してきたことが、ただの練習だったように感じた」と、スレイド氏は米DIGIDAYに話した。
6月23日、イギリス国民の52%がヨーロッパ連合脱退に賛成し、世界を驚愕させたとき、フィナンシャル・タイムズは総勢70名のマーケティングチーム、オーディエンスエンゲージメントチーム、そして顧客獲得チームを編集チームとともにシンクロさせるという、かつてない戦略を実施した。
「我々はマーケティングチームをリアルタイムに稼働させた。購入パターンやソーシャルでの機会をうかがい、マーケティングの予算をかなり積極的につぎ込み、記事に反映しようと試みたのだ。そしてオーディエンスエンゲージメントチームの仕事に抵触しないよう、細心の注意を払った。そのため、オーディエンスエンゲージメントチームと編集チーム、またマーケティングチームと顧客獲得チームのあいだでは、常にやりとりが交わされていたのだ」と、スレイド氏は語る。
マーケチームが記事を宣伝
このようなことを実施するうえでチームは、フィナンシャル・タイムズのニュースルームで頻繁に活用されている、購読契約ビジネスを強化するための分析システムを大きな頼りとした。どんな記事が人々に読まれていたかという情報は、マーケティングチームにフィードバックされる。そこでは、もっとも読まれている記事を宣伝するメッセージが作成され、ソーシャルプラットフォームに発信された。
フィナンシャル・タイムズはソーシャルプラットフォームで試験的にコンテンツを無料提供するという戦略を行ってきており、昨年からソーシャルメディア経由のトラフィックが着実に伸びてきている。
しかし、問題の週末には、ソーシャルプラットフォームへのトラフィックはかつてなく跳ね上がっていた。フィナンシャル・タイムズが掲載するFacebookのインスタント記事へのトラフィックは、通常の5倍となったという。
顧客獲得チームが随時営業
ソーシャルチャンネルで使用されたクリエイティブはそのあと、顧客獲得チームにも使用された。1日を通じて統一価格や購読へのオファーといった、さまざまなメッセージが試験的に発信された。
「それらは『リアルタイム』で分析され、機会を最大限活用するため、また新規契約客のボリュームと、彼らから得られる生涯価値のバランスがとれるような統一価格と、オファーが適応された」と、彼は付け加える。
同社の代理店であるエッセンス(Essence)とも協力を行った。ペイドメディアマーケティングや新規顧客に向けたプログラマチックディスプレイ広告の提供・分析によって、有効と特定されたペイドサーチのキーとなる語の入札といった分野において、リアルタイムマーケティング努力をさらに強めたのだ。さらに既存の購読契約者に対して、リアルタイムのTwitterフィードを含む、ニュースレターやメールを送るといった、CRM活動を活発化させた。
気合を入れて成すべきこと成す
スレイド氏はフィナンシャル・タイムズが国民投票の週末に、自身のトラフィック記録を塗り替えた理由のひとつとして、多くの人々が国民投票に向けて政治家や複数のメディアによって誤った方向に導かれてしまい、それが結論に悪影響を及ぼしたと感じていたからであると考えている。
「急速に、人々が透明性と信頼できるジャーナリズムを求めているということが、はっきりとわかってきた。だから、サイトのトラフィックが上昇しているのを黙って見ているのではなく、我々のビジネスモデルで責務を果たしたいと思った」と、スレイド氏は語る。
「そのためにはマーケティング部門をニュースルームのように動かすことが、もっともダイナミックな方法だと分かった。何が起きているのか、それに対して何をすればよいのか…気合を入れてなすべき仕事にとりかかることだ」。
Jessica Davies(原文 / 訳:Conyac)
Image via Matt Brown