広告表示によって無料で視聴できるストリーミングTVサービス(FAST)の台頭は、転換期を迎えつつある。これまで、それのサービス提供者は、競合他社と同じコンテンツを配信することを厭わなかったが、24時間ストリーミング配信をするチャンネルを提供するよう依頼するパブリッシャーの数を増やしつつある。
広告表示によって無料で視聴できるストリーミングTVサービス(FAST)の台頭は、転換期を迎えつつある。バイアコム(Viacom)のプルートTV(Pluto TV)、ズーモー(Xumo)、ロク・チャンネル(Roku Channel)、サムソンTVプラス(Samsung TV Plus)、そしてAmazonのIMDbテレビといったサービスは、競合他社と同じコンテンツを配信することを厭わなかったが、24時間ストリーミング配信をするチャンネルを提供するよう依頼するパブリッシャーの数を増やしつつある。広告売上のフルコントロールから限定プログラムに至るまで、さまざまな手を使って、飽和しつつあるマーケットのなかで抜きん出ようと尽力している。
AmazonはIMDbテレビにおいてリニア配信をするパブリッシャーを求めて交渉をしている。こういった要求に応えられるパブリッシャーへの需要が高まっている証拠のひとつだ。パブリッシャーのチャンネルの広告売上のコントロールをAmazonが持ち、結果として生まれた収益をパブリッシャーとシェアする。こういった収益シェアのモデルは、確立したセールスチームを持たなかったり、自らのチャンネルの在庫を利用するような動画数を持たない小さなパブリッシャたちにとっては良い。しかし、大手パブリッシャーやテレビネットワークたちは、自らの在庫を売ることが防がれているなかで、Amazonの要求は過酷過ぎるとイラ立ちを覚えているようだ。
FASTマーケットでチャンネルプロバイダーを増やそうと交渉しているのはAmazon以外にも存在する。テレビネットワークや、パブリッシャー、制作スタジオのエグゼクティブたちの話によると、IMDbテレビ、プルートTV、サムスンTVプラスを含む、FASTサービスたちは、彼らのチャンネルのための限定プログラムや新しいコンテンツを提供できるパブリッシャーがどれくらいいるか、探りはじめているという。すでに存在しているチャンネルのプログラムをより頻繁に更新するように、という要求と、特定のサービスのためのプログラムを提供する、という要求に加えて、FASTサービスたちは自分のプラットフォームで最初に配信されるオリジナル番組も探している。こういったプラットフォームでプレミア配信が行われたあとに、パブリッシャーたちはほかのサービスによるリニア配信へと回すことになる。
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アメとムチの戦略
こういった限定プログラムといった特別コンテンツ扱いの要求を、エグゼクティブたちは現時点では「試験的だ」と描写している。「全員が、状況を吟味している」とひとりのメディア・エグゼクティブは語った。しかしFASTマーケットがより飽和するにつれて、こういったリクエストは必要不可欠になってくるだろう。いままでのところ、パブリッシャーたちは複数のサービスにおけるコンテンツのシンジケート展開が可能であった。プルートTV上のパブリッシャーのチャンネルが、ズーモーやロク・チャンネルといったほかのサービス上のプルートTVのチャンネルが同じでも良かったのだ。この結果、リニア・ストリーミング・チャンネルは中規模メディア企業がコネクテッドTVへと参入するための入り口となっていた。しかしAmazonによるIMDbテレビが戦いに参入し、NBCユニバーサル(NBCUniversal)のピーコック(Peacock)も検討を開始し、テレビメーカーのサムスンとヴィジオ(Vizio)もそれぞれのFASTサービスを成長させようとしている。そんななかで、視聴者がなぜ他ほかではなく、自分たちのサービスを選ぶのか、理由を求めて競争は激しくなりつつある。「全員、自分たちが特別だと感じたいのだ」と、前述のメディア・エグゼクティブは語った。
パブリッシャーたちに、リニア配信チャンネルを自分たちのサービス用にカスタマイズするよう説得しようとするFASTサービスたちだが、アメとムチの両方を見せている形だ。限定プログラムの提供に対して支払いをするサービスや、他サービスと比べたときのコンテンツの更新頻度を上げれば、視聴者やマネタイゼーションに関するアナリティクスの内容を改善・向上する、というサービスがある。限定コンテンツを提供するチャンネルに関しては、ほかのチャンネルよりもプロモーションをすると、パブリッシャーに言うサービスもある。メディア・エグゼクティブたちはこれをアメでありムチであると捉えているようだ。この提案の裏に見えるのは、自分たちがサービスに対して特別なカスタマイズを行わなかった場合、他のチャンネルがプロモーションを受けることになる。その結果、自分たちのチャンネルの存在感は相対的に下がることになるからだ。
少なくとも現時点では、FASTサービスたちの要求を必ずしも守らなければいけないわけではない。特にクオリティが高いプログラムを提供しているパブリッシャーたちにとってはそうだ。こういったFASTサービスがテレビに流れるような広告支出を得たい場合、彼らはテレビレベルのクオリティだったり、実際のテレビからのコンテンツが必要だ。それによって、テレビレベルのオーディエンスを集めることが期待できるからだと、メディア・エグゼクティブたちは説明する。「FASTチャンネルにおいて適切なオーディエンスにリーチできているという確信は持てていない。そのため我々はFASTマーケットにおける投資を著しく減らしている」と、ひとりのエグゼクティブは語った。
パブリッシャー側が有利
FASTマーケットにおけるパワーバランスは、テレビネットワークとパブリッシャーの方に傾いていることを彼らは認識している。そして、それを利用する意図がある。同時に、FASTサービスが独占プログラムを要求するなかで、メディア企業たちはどのサービスがもっとも財務的に良い条件を提示するか、比較検討している。パブリッシャーがチャンネルの在庫の少なくとも一部を販売することができるような条件を出すサービス、もしくはパブリッシャーに入ってくる収益がもっとも大きいサービス、といった具合だ。
「(サービスが)必要としている、もっとも価値のあるアセットをこちらが握っている形だ。そのため我々のいわゆる最高のコンテンツをどこに提供するかは、財務的な判断と条件の内容による」と、テレビネットワークのエグゼクティブのひとりは語った。
しかし、メディア企業たちが現時点での優位な地位を持っている一方で、この状況は変わるかもしれないことも気付いている。FASTサービスが視聴者を獲得し、広告を販売することにより長けることで、「長期的には交渉はよりパワーバランスが双方に均等になっている状況を私は予想している。その結果、我々のようなプロバイダーたちの方にかかるプレッシャーも増えるだろう」と、テレビネットワークのエグゼクティブは言った。
Tim Peterson(原文 / 訳:塚本 紺)