FOXスポーツはオハイオ州立大学v.s.オクラホマ大学のフットボールの試合を、生放送すると同時にVR配信も行なうという新しい試みを行った。専用アプリを通して、仮想スイートルームでの視聴体験ができる。今回大学フットボールの試合を配信したことで、多数の視聴獲得とVRの普及に狙いをつけたようだ。
オハイオ州立大学バックアイズがオクラホマ大学スーナーズと対戦した9月第3週の夜、多チャンネル放送サービスのFOXスポーツ(Fox Sports)は、あたかも試合会場にいるかのような体験をファンに提供した。1試合丸ごと、VR(バーチャルリアリティ)で放送したのだ。
この放送を視聴するために、ユーザーはFOXスポーツVRのモバイルアプリを立ち上げ、携帯電話をサムソン(Samsung)の「ギアVR(Gear VR)」ヘッドセットかGoogleのローエンドVRデバイス「カードボード(Cardboard)」に装着する必要がある。それで、あますところなく実体験さながらの試合観戦ができた。
ヘッドセットをもっていない人でも双方向通信を行うことが可能で、360度動画環境を視聴できる。こうした取り組みは同社が今季の通常放送に加えて、3〜4本予定しているフットボール試合のVR放送第1弾となるものだ。
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FOXスポーツがVRライブという大胆な放送を行ったのは今回がはじめてではない。今年すでに全米自動車競争協会(NASCAR)のデイトナ500カーレース(Daytona)の一部始終をライブストリーミング配信。また、全米オープンゴルフの5ホールの模様や、ブンデスリーガ(ドイツ国内のトップリーグ)のシーズン初戦をVR放送した。
しかし、オハイオ対オクラホマ戦が、ほかと一線を画しているのは、ライブストリーミング上でインタラクティブな環境を提供したこと。視聴者はスタジアム全体に散らばった数々のビューポイントにアクセスできたのだ。
VRのなかでテレビを視聴する
「我々がこれまでの経験から学んだことは、人々はVRで何をできるのかに関心をもっていることだ」と話すのは、FOXスポーツのテックやオペレーション部門でシニア・バイスプレジデントを務めるマイケル・デービーズ氏。「家のなかにいながら、特等席に座れれば最高だ。我々が提供できるのは、まさにそういうもの。しかし現在は、『インタラクティブな何か』も期待されている」。
双方向通信は、VRテック企業ライブライク(LiveLike)とのパートナーシップで実現。これにより、VR体験による「仮想スイートルーム」を生み出すことができた。この技術で視聴者は、特等席やフィールド上にある4つのビューポイントから試合観戦できる。
さらにFOXスポーツはオクラホマ大学のメモリアルスタジアムにある巨大ディスプレイにテレビ放送を組み込み、視聴者がVR体験をしながら、同時にテレビの内容を観られるようにした。ほかにも、試合のハイライトや統計資料などを別画面で見られるオプションもある。

FOXスポーツのアプリでオハイオ州立大学対オクラホマ大学の試合を「仮想スイート」で見る。
VRの制作費は意外と経済的?
フィールド上では、デービーズ氏率いる12人のフィールドテック作戦チームが、FOXスポーツの制作物を技術面で全面的に監督。このチームは、FOXスポーツが空撮用ドローンを利用した際もサポートしており、今回もVR映像のキャプチャを任された。翌日、オクラホマ大学メモリアルスタジアムで行われた試合では6人体制で臨んだという。
スポーツ中継を行う場合、VRを使用しても制作コストが大幅に増えることはないとデービーズ氏はいう。これはVRが3Dやほかの流行りものと異なり、カメラの横に操作者がいなくても良い、ということがひとつの要因だ。
「VRの評価ポイントとして、経済的であるということも挙げられる。安いとはいわないが、制作におけるコストパフォーマンスは高い」。そのようにデービーズ氏は話したが、詳細なコストについては明言を避けた。
テレビとは異なる試みとして認識
過去2年間でFOXスポーツは8本のVR作品を制作。これまでは、大部分がサムスンの「ギアVR」を利用するものだったため、オーディエンスはかなり限定されてきた。今回、オハイオ対オクラホマの試合で提供する360度動画が、その追い風となったはずだ。
「実体験のように感じられるという点が我々とっては重要で、このようなデバイスは珍しい。我々はこの体験をより多くのオーディエンスに提供できる方法を見つけたい」と、デービーズ氏。VRのオーディエンス数は多くはないが、それでもFOXスポーツはこの技術を試すべきだと感じている。
当初、同社はVR体験をFOXスポーツで配信したとき、テレビとは異なる試みとして認識してきた。たとえば、ブンデスリーガのライブストリーミング配信を行った際、同社は独自の放送チームを組んだという。
「我々にとって大切なのは時間と労力と経費をかけ、VRとはどんなものか、そして我々のビジネスにとってどんな意味をもつかを理解することだ」と、デービーズ氏は語る。「その知識を利用することで、人々のあいだでVR視聴が広まったときに、成功を掴めると思う」。