VOX Mediaは、ベンチャーキャピタルの支援を受けて、2019年の年末にファーストパーティのデータソリューション「フォルテ(Forte)」を発表した。新型コロナウイルスの感染拡大が顕著になり始めたこの時期は、製品リリースには不適切なタイミングだったかもしれないが、フォルテはいいスタートを切っている。
VOX Mediaは、ベンチャーキャピタルの支援を受けて、2019年の年末にファーストパーティのデータソリューション「フォルテ(Forte)」を発表。2020年3月に正式リリースした。
結果論に過ぎないが、もし未来が予測できたならば、このタイミングでのリリースはなかっただろう。新型コロナウイルスの感染拡大が顕著になり始めたこの時期は、製品リリースには不適切なタイミングだったと言わざるを得ない。
しかし逆風のなかでも、フォルテはいいスタートを切っている。実際、2020年には100社以上がキャンペーンを利用してフォルテを導入している。VOXのCEOであるライアン・ポーリー氏によれば、同社のディスプレイ広告収益の半分近くがフォルテを介したものとなっている(VOX Mediaは、具体的な数字については公開していない)。
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Cookie終焉が追い風に
さらに、2021年にはサードパーティCookieが段階的に利用できなくなるとされている。各社は代替サービスを模索しており、フォルテにとって大きな追い風が吹きそうだ。このように力強いスタートを切ったVOX Mediaだが、現在、フォルテの得意分野やユーザー企業にとっての効果的な活用方法について分析を急ピッチで進めているという。これまで、セカンドパーティデータプロジェクトをいくつか遂行するにとどまっているフォルテだが、これをVOX Mediaのエコシステムにとどまらず、さらに導入先の業種・業界を拡げたいと考えている。
フォルテを通じ、VOX Mediaはクライアントから安定した収益獲得が可能だ。ただし、これまでフォルテの契約を更新したクライアントや、リピートユーザーの数について、ポーリー氏は明かしていない。
「昨年は、採用件数を重視した」と、同氏は語る。「販売パートナーだけでなく、我々自身もフォルテのもたらすデータの有効性について分析し、さまざまな利用シーンについて検討した」。
フォルテが消費者の興味や行動の動機を予測するにあたり、基軸のデータベースとして動いているのがVOX Mediaと同社が2019年に買収したニューヨーク・メディア(New York Media)のコンテンツで利用されている消費者データだ。
だがそれだけでない。たとえばVOX Mediaの食のサイトであるイーター(Eater)が開催したイベント、「ヤングガンズ(Young Guns)」の参加者データや、ニューヨーク・メディアの登録者データ、コマースブランドのストラテジスト(The Strategist)が収集したデータなども組み込んでいる。
広告主必須のソリューションとなるか
スレート(Slate)をはじめ、ファーストパーティデータを利用し、より精度の高いプレミアム・ソリューションを有料で提供しているパブリッシャーは少なくない。だがフォルテの場合、同様のサービスでありながら追加料金は設定していない。これは、なるべく多くの企業にサービスを利用して欲しいからだという。
「初めは抵抗感を抱いた企業もあった」とポーリー氏は明かす。「そういった企業にも利用してもらえるように、『無料で利用できるから、まずは導入して使い勝手を比較して欲しい』と提案してきた」。
フォルテは、各業種がカバーする特定カテゴリーの限定して展開される広告に多く使用されている。たとえばiPhoneやSamsung Galaxyのレビュー記事の読者は、スマートフォンの新製品に興味を持っている場合が多い。VOX Mediaが有するコンテンツはこのような固有の事項について確度の高いものが多いため、広告主は同コンテンツとフォルテを組み合わせて広告を打つことが多いという。
同社の収益担当兼製品担当バイスプレジデントのメーガン・ウォルトン氏は、「誰だって、仕事で成果を上げ、結果を残したいだろう。フォルテを使用すれば、ニッチなあまりこれまで手が届かなかった製品本来のターゲットへのアクセスも可能になる」と語り、フォルテの強みを強調する。
このように消費者のカテゴライズに長けているフォルテだが、その「強み」への需要がなければ、これまでのような好調は続かないだろう。確かに広告バイヤーは、フォルテについて「力強いスタートを切った」と評している。だが、メディアプランニングにおいて必須のソリューションとなるほどではない。これは、パブリッシャー向けのソリューションの大半が直面している課題だ。
苦戦も予想されるが
コミュニケーションエージェンシーのクレーマー=クラッセルト(Cramer-Krasselt)でプログラマティックメディアディレクターを務めるトム・スイムゼウスキー氏は、これまでクライアントのニーズからフォルテの利用に慎重だったが、その理由として「さらに細かい調整ができれば使用したいが、現段階では難しいだろう。また、規模の面でも限界があるのではないか」と指摘する。いずれにせよ、2021年には多くのブランドがフォルテを試すことになるだろう。
新たな広告フォーマットや消費者のカテゴライズツールに、あまり多額の予算が投じられるとは考え難い。しかし、サードパーティCookieの制限までのカウントダウンが始まっている今、フォルテのような新しいソリューションの効果を既存のサービスと比較できる期間も限られている。ブランドも、ぐずぐずはしていられない。
ケプラー・グループ(Kepler Group)の戦略的キャンペーン業務担当バイスプレジデントを務めるピーター・ライス氏は次のように語る。「今であれば、より広範囲なエコシステムと比較することで、フォルテの効果をより正確に見定められる」。
また、フォルテがどれくらいの消費者カテゴリーを用意するかにも注目が集まっている。現在、プライベートマーケットプレイスやプログラマティックギャランティード契約でインベントリーにアクセスしているクライアントは多い。
「現時点では、消費者カテゴリーに関する高精度のインベントリーソースと評価できる」とライス氏は語る。「フォルテは可用性に優れているため、よりオープンな環境へ組み込んでの利用も想定される。もし実現すれば、さらにカテゴリーデータの価値が上がっていくはずだ」。
[原文:With Forte, Vox Media looks to drive a majority of display revenue with its first party data]
MAX WILLENS(翻訳:SI Japan、編集:分島 翔平)