フォーブスは2018年夏、自社開発の新CMS、バーティ(Bertie)を導入した。このシステムには、コントリビューターたちにそれぞれの過去記事に基づいて新しい記事のトピックを、さらには新しい記事の内容や写真/挿絵に基づいてその見出しを提案するシステムも組み込まれている。
フォーブスは、ニュース編集室をよりバイオニックにするためのツールに投資を続けている。
2018年、過去10年強で最大の利益を上げた、このパブリッシャーは同年夏、自社開発の新CMS、バーティ(Bertie)を導入した。このシステムには、コントリビューターたちにそれぞれの過去記事に基づいて新しい記事のトピックを、さらには新しい記事の内容や写真/挿絵に基づいてその見出しを提案するシステムも組み込まれている。加えて、記事の下書きを作成するツールについても試験を行なっており、実用化されれば、コントリビューターはある程度出来上がったものを推敲するだけで記事を作成できるようになる。
この新CMSは現在、フォーブスの編集スタッフと北米のシニアコントリビューターに使用が限られているが、2019年の第1四半期中に北米および欧州の全コントリビューターに公開される。なお、記事の下書きを作成するツールはいまだ、フォーブスの制作チームによる試験段階にあり、近々の導入予定はない。
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たとえば、自動車業界を専門とするコントリビューターの場合、バーティ(Bertie)を起動すれば、テスラに関する記事作成に必要な情報が入手できるばかりか、関連リンクや、フォーブスをはじめとするメディアに掲載済の関連記事も用意してもらえる。また、記事の注目度や読みやすさの向上に役立つと思われる写真や挿絵も、バーティ(Bertie)は提示してくれる。
AIを活用して自社スタッフがより効率的にパブリッシュでき、訪問者が自社サイトのマルチメディアコンテンツをできるだけ手軽に利用できるようにするのがフォーブスの目指すところであり、バーティ(Bertie)はその一環だと、同社の新任チーフデジタルオフィサー、サラ・ザラティモ氏は語る。「パブリッシュをより簡便に、よりスマートなものにするために、できることは何でもする」と、商品開発&テクノロジー部門の元SVPザラティモ氏は言い添える。「これは[コントリビューターに対する]当社の誠意にほかならない」。
ネットワークを重要視
コントリビューターネットワークを時代遅れとみなすパブリッシャーもいるなか、フォーブスは依然、独自のネットワークを重要視している。約1年前、同社はコントリビューター制度を改善し、約2500人のメンバー全員に月額最低250ドル(約2万7000円)を保証し、 各々が集める忠実な読者の数に応じて報酬を引き上げることにした。 こうしたコントリビューターの管理は、総勢150名近いフォーブスの編集スタッフが行なっていると、同社CEOマイケル・フェダリ氏は語る。
コントリビューターは、フォーブスが1日にパブリッシュする300弱のコンテンツの大半を担う。それゆえ、彼らのニーズはフォーブス制作チームの優先事項のひとつであり、同社はトップコントリビューターを定期的にオフィスに招いては、待遇改善について話し合っている。件のAIツールは実際、コントリビューターのニーズに応えるために開発した部分もあると、ザラティモ氏は語る。
もっとも、フォーブスはこのツールをコントリビューターや記者たちに現状のままで満足してもらうために開発したわけではない。ザラティモ氏いわく、これはむしろ思考のスイッチ役に近いもので、コントリビューターの創造力をかき立てるのが主眼だという。言い換えれば、これはAIの限界や弱点を考慮した結果であり、コントリビューターや記者の、自分の記事は自分で書きたいという思いを汲むためでもある。
AI活用の業界トレンド
記事作成のサポートにAIを利用しているパブリッシャーは、フォーブスだけではない。ワシントン・ポスト(The Washington Post)は、選挙やオリンピックの結果など、構造データに基づいた短文記事の作成ツール、ヘリオグラフ(Heliograf)を2年前に導入し、数千もの記事を世に送り出しており、ロイター(Reuter)も2018年3月以来、自社ツール、リンクス・インサイツ(Lynx Insights)を利用している。AP通信(Associated Press)は何年も前からAIを活用し、企業収益やマイナーリーグスポーツなどに関する記事を書いている。
こうしたツールが生まれ、積極的に利用されている背景には、業界全般が編集コンテンツの品質維持と効率性向上に努めざるを得なくなったという事情がある。
「コンテンツ制作に特化する企業は例外なく、時宜を得たコンテンツ作りとコスト管理の必要に迫られている」と、AIに強い市場リサーチ会社コグニリティカ(Cognilytica)のプリンシパルアナリスト、ロン・シュメルザー氏は語る。「これは、そのトレンドのまさにど真ん中の現象だ。こうした量重視されるフローに役立つツールは、この先さらに出てくるだろう」。
効率化以外のメリット
フォーブスは一方、AIツールの活用には、ほかにも利点があると見ている。同ツールの導入により、自社スタッフおよびコントリビューターの手による記事数が増えたか、との問いに対する回答はなかったが、広報によれば、毎月の忠実なビジター数――毎月1回以上サイトを訪れる人数――は、新CMSを導入した2018年7月と比べて2倍増を記録したという。また、それ以来トラフィックも増加しており、コムスコア(Comscore)によると、2018年11月には月間ユニークユーザー数6500万人という、12カ月ぶりの高数値を記録した。
Max Willens(原文 / 訳:SI Japan)