メディア企業改革には、「平等な機会」という信念を持て

米国メディア業界では、奴隷制度廃止の記念日である6月19日、ジューンティーンスを祝日とするのが通例となっており、米DIGIDAYもまた同様だった。だがこの日を、単なる初夏の3連休の1日として終わらすべきではない。いま、ダイバーシティ・アンド・インクルージョン、平等や機会といった価値観が改めて問われており、大規模な抗議や改革への働きかけが進行している。だが、コロナウイルスとの戦いや経済活動再開、11月に行われる米大統領選挙について議論が続くなかで、現在の情熱を人々がいつまでも抱きつづけられるわけではない。それでも、ジューンティーンスにその思いを新たにすることはできるはずだ。

いま、メディア各社の決意が試されている。各社が唱える進歩的な言葉が単なる上っ面ではなく、業界にはびこる悪習を取り払うための取り組みを実行できるかが問われているのだ。6月第2週の記事でも書いた通り、経営陣の考えがどうであれ、特に若い社員はこういった変化に向けて口をつぐみ続けるとは考えづらい。エージェンシーやパブリッシャーも、そのムーブメントに向き合い、多様性に関する統計を公開する必要があるだろう。メディア企業は雇用だけでなく、給与格差問題にもただちに取り組むことが求められているのだ。

いまの危惧は企業が保身に走ること

たとえばコンデナスト(Condé Nast)は、かつてパブリッシャーにおける華やかさの代表とも呼べる存在だった。同社の元役員からは昇進後に無料でBMWが自宅の車庫に運ばれてきたといった話をよく耳にしたし、別荘のローンの肩代わりや購入する衣類の値引きといったこともよく行われていたという。もちろん一般社員までもがこういった信じられない特典を受けられたわけではないが、コンデナストのカフェテリアはメディア業界における華やかさの象徴のような存在だった。だがいま、同社の社員のあいだで大きな反発が起きており、何百という社員が情報提供を行い、給与のスプレッドシートが作られている。

#MeToo のときと同様、多数の企業における問題が白日のもとにさらされているのだ。米DIGIDAYでも、 創設12年のテックニュース・レビューサイトであるデジタルトレンズ(Digital Trends)における社員の問題について記事を掲載した。いま、危惧されるのは企業が自己保身に走ることだ。社員からの訴えに耳を傾け、改革の機運の高まりとして捉えるのではなく、個人への法的措置へと動くのではないかという懸念がある。

そんななかニューヨーク・タイムズ(The New York Times)は審議会を立ち上げ、ニュースルームや報道における多様性やインクルージョンについてのレポートを作成中だ。同社は2014年にも自己批判的な改革レポートを発表して社内の改善につなげている。

多様性と給与の監査が大切なのだ

今回のことに限らず、改善について話し合ううちに、協調戦術のようなものが生まれることは少なくない。たとえばインスタグラムでは、真っ黒な写真を投稿する「ブラックアウト・チューズデー」を呼びかけたり、人種について語る時に「black」の単語を大文字で表記するよう呼びかけたりして、ジューンティーンスの意識向上を狙っている。こういった活動は重要だ。シンボルとなるものの価値は大きい。しかし、抗議行動は構造的な問題に根ざしており、定義上、意味のある方法で取り組むのは難しい。

だからこそ、多様性と給与の監査が大切なのだ。私たちが提唱する理想論とマイノリティが直面している現実とのギャップを埋めるにあたって、企業の取り組みは欠かせない。米最高裁判所は6月16日に、性的指向を理由とした差別は違法であるとの見解を下した。これが進歩であることに疑いの余地はない一方で、日常生活において企業が果たす役割もまた非常に大きい。

企業は平等と機会を単なる「ビジネス上の課題」として終わらすだけでは不十分だ。それではダイバーシティ・アンド・インクルージョンはまたしても、ただのお題目で終わってしまう。企業内にはびこる不平等について真剣に頭を悩ませる必要がある。こうした問題は何十年にも渡って企業のトップが生み出してきた問題であり、社員より投資家に目を向けてきたことにも責任がある。だからこそ多くの企業で社員が反発しているのだ。一般社員と経営陣との間の信頼関係はもはや崩壊しており、不意をつかれて逆上した経営陣がここ数週間で態度をひるがえすのを私たちは目にしてきた。

メディア企業が取るべきアプローチ

もしメディア企業が本気で変化を起こしたいと望むのであれば、平等な機会という信念を企業の中心に据えて習慣化しなければならない。チャールズ・デュヒッグ氏は書籍『習慣の力(The Power of Habit)』のなかで、1980年代にポール・オニール氏が社員の安全へと焦点を絞ったことで、アルコア(ALCOA)が大きく進歩したと述べている。オニール氏はアルコアを世界でもっとも安全な企業にするという信念にとりつかれた人物だ。同氏の安全への信念は、アルコア内のあらゆる企業活動へと浸透していった。同社ではたとえばミーティングのときですら、非常出口の確認から始まるのだ。アルコアはこうして世界一安全な企業となり、生産性と業績は大きく伸びた。

これこそがメディア企業が取るべきアプローチだ。企業のいかなる課題においても、解決するためには数値化が欠かせない。そうしなければ改善したかを知ることも、説明責任の確保もできない。そしてアルコアのオニール氏のように、雇用から給与、リテンション、昇進にいたるまで一挙手一投足まで自分たちの行動を平等と機会という核心的な習慣にもとづいて精査すべきだ。この大きな痛みと不当行為によってもたらされた反省の機会を、決して無駄にしてはならない。

BRIAN MORRISSEY(原文 / 訳:SI Japan)