コロナ危機に際して、パブリッシャーのなかには、これまで課していた広告購入の最低額を撤廃したり、提供プログラムを割引したりするところが出てきた。また、広告支出のベース額を出しさえすれば、業績を確約する企業もいる。収益を巡る必死の接戦が開始され、各社、どれだけ融通を利かせるかが勝負のポイントとなっている。
NBA選手ジェームズ・ハーデン氏は、鋭く切り返すユーステップを使っての得点で有名だ。ディフェンス側を翻弄しながら、少しの隙を生み出して点数に結び付けていく姿は、多くのバスケットファンを魅了している。ここ最近のパブリッシャーにおける収益部門のリーダーたちは、スポーツファンを魅了こそしないものの、少しの隙から収益につなげようと必死になっており、それはハーデン選手のプレイを思わせるものがある。
パブリッシャーのなかには、サイト上の広告購入にこれまで課していた最低額を撤廃したり、提供するプログラムの割引を導入したりするところが出てきている。また、広告支出のベース額を出しさえすれば、セールスなど業績を確約するパブリッシャーもいる。収益を巡る必死の接戦が開始され、各社、どれだけ融通を利かせるかが勝負のポイントとなっている。
状況はますます流動性を生み出しており、パブリッシャーが他のパブリッシャーと企画コラボレーションを検討するケースも出てきている。広告主たちの興味を維持するために、各社の利用できる広告在庫を組み合わせ、ブランデッドコンテンツを共同で作る、といった具合だ。
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多くのブランドたちが広告支出を一時停止しているなか、収益部門のリーダーたちは営業チームに対し、大規模かつ詳細にわたるパートナーシップ事業からフォーカスを離すように指示を出している。その代わりに明確に広告支出を出しているブランドとの、小規模な完全一括契約を追求する方向性に切り替えているという。1万ドル(約100万円)の広告掲載申し込みが、かつての追い求められた100万ドル(約1億円)契約のポジションについている。
「大規模な7桁(100万ドル)単位のパートナーシップ契約の話をしていた人々のためにも、状況がもとに戻ったときにその可能性は残しておきたい。しかし現時点では、1点、2点、を積み重ねることにフォーカスして欲しい」と、バースツール・スポーツ(Barstool Sports)の最高収益責任者であるディードレ・レスター氏は言う。
市場全体が不安定な状況
広告支出を一時停止している最高マーケティング責任者たちだけではないものの、不安定な経済状況はメディア業界全体に悪影響を与えている。3月後半にIABによって発表された研究によるとデジタル広告支出は33%低下、そして従来型は39%低下となっている。四半期の開始、新しい月のはじまりは通常、支出の低下という形で影響を与えるが、それも合わさって状況にプレッシャーが増えている。
通常なら四半期がどんな業績を出すか2〜3%の誤差で分かるが、現在では20%の誤差となっていると、米DIGIDAYにとある大手パブリッシャーの最高収益責任者のひとりが語った。
コロナウイルス関連のコンテンツが広告インプレッションの大部分を占める一方で、広告主たちはウイルス関連のコンテンツの近くには広告が表示されないようにブロックをしている。そのためニュースパブリッシャーたちには特にプレッシャーがかかっている。なかには「悪いニュース」はすべてブロックする広告主も出てきている。これはほとんどのニュースが、それにあたる。コロナウイルス関連のコンテンツは、それ以外のコンテンツと比較しても生み出す収益が30%少なくなると、ふたりの最高収益責任者が別々に推測した。
広告業界への最終ダメージ
コロナウイルスの広告業界へのダメージはすぐに現れているものの、最終的な影響がどのようなものになるか、具体的な考えを持っているビジネスリーダーの数は少ない。(多くはかなり悲観的な予測を持ってはいる。前述のIABのリサーチでは、回答者の75%近くがコロナウイルスが広告支出に与える悪影響は2008年の経済危機よりも大きくなるだろうと答えている)。
状況をめぐる不確実さがあるため、多くの最高マーケティング責任者たちがスピードを緩める判断をしている。マーケティング予算は数カ月や複数の四半期でまとめて組むのではなく、1カ月もしくは2カ月ごとにしか割り当てない、といった具合だ。広告主たち自身が、自らのビジネス上の困難さを抱えている。なかにはサプライチェーンが乱され、プロダクトを作ることができるかもわからない状況の企業もいる。パブリッシャーたちは広告主たちにフレキシブルに対応しようとするが、広告主側は用心深い動きを取っている。
そのためパブリッシャーたちのなかには値段を下げることになったところもある、と取材に応じた複数の情報源が語った。「ここ2〜3週間において、競合他社が展開するディスカウントの程度が非常に加速していると言える」と語ったのはメレディス・マガジンズ(Meredith Magazines)のプレジデントであるダグ・オルソン氏だ。オルソン氏は特定の競合他社の名を挙げなかった。
メレディスの涙ぐましい努力
メレディスの反応は逆だ。4月第2週、メレディスのプリント版発行物の2つから5つ以上の広告を購入した広告主は業績保証をすると、マーケットにオファーした。この業績保証には、プロダクト購入数、ウェブサイト訪問数、医薬プロダクトに関する医者とのミーティングなど多岐にわたる。
どの発行物か、そしてどの種類の広告かによって値段は異なるものの、このような企画の値段は通常は数十万ドルからのスタートとなるとオルソン氏は言う。
「バリューバイヤーと我々が呼んでいるバイヤーたちが現状の買い手の大多数となっている。多くの大手広告主たちの間で見られるのは、(広告支出において)コスト効率をよくできるかどうかを尋ねてくる、という現象だ」と、オルソン氏は言う。
パブリッシャーたちは企画を遅らせることで、収益を理論上は入ってくる形でキープしようとしている。制作が一層困難になっており、神経質な広告主がメッセージ内容を変更しようとするなか、多くのブランデッドコンテンツ企画は一時停止されている。しかし3月から第2四半期にかけて予定されていたこれらの企画は、秋になって渋滞を起こす可能性がある。一度に動かせる企画の数は限られている。7月の夕方近くになると、マンハッタンとニュージャージーを結ぶホランド・トンネルは自動車がびっしりと詰まって動かなくなるが、パブリッシャーたちが抱えている未来予想図はベストケースでもそのような渋滞状況となるだろう。
試される各種マネタイズ手法
コロナウイルスの危機のなか、以前であれば「微小な」として軽視されていたコンテンツライセンシングのような収益源からの収益をさらに増やそうとパブリッシャーたちは取り組んでいる。とあるひとつの中規模パブリッシャーは、MSNやヤフー(Yahoo)といった、ニュースコンテンツの興味が集まるなか、ライセンス料を支払う余裕があるポータルへのニュースコンテンツのライセンシングに少しの成功を見出している。
コマースももうひとつの希望である。Amazonからの圧迫も大手パブリッシャーは感じているなか、とあるパブリッシャーは取材に対して「自主隔離」方向に転向することで収益が伸びているところもある、と答えた。
メディア企業のなかには、ほかとコラボレーションをすることで広告主の興味を引こうとしているところもある。スケールを広げることで支出の一時停止を解除させることが狙いだ。
「競合他社たちがコラボレーションをしたがっていることを確認している」と、スポーツ関連のパブリッシャーの最高収益責任者は述べた。「複数のサイトにおける在庫やパッケージを合わせること。片方はリニアに長けていて、もう片方はストーリーテリングに長けている、といった具合だ」。
「新しい思考法を導入すれば(新しいビジネスを)開拓することができるカテゴリーがあると我々は信じている」。
この最高収益責任者はまた、NFLドラフトが近づくなかで、広告主向けのキャンペーンに関して複数のパブリッシャーたちがコラボレーションをしようとする試みが多く模索されていると語った。
重要なのは役に立つこと
コロナ危機へのアプローチはパブリッシャーによって異なるものの、すべてのケースにおけるもっとも重要な項目は広告主にとって役に立つこと、広告主の頭に浮かぶ存在であり続けること、だとも語る。「来年、また自分のことを自己紹介しないといけない状況は避けたい」。
メレディスの場合、これはパートナーたちに配る消費者に関する分析やリサーチを調整するという形で表れている。今後数カ月経ったあとに役に立つような分析よりも、現時点で起きていることにフォーカスする、といった具合だ。
「通常であれば、クライアントとの仕事はより長期のスパンに注目する。先月転換したのは、1日、もしくは1週間というスパンの思考法だ」と、メレディスの最高ビジネス・データ責任者であるアリーシャ・ボーサ氏は述べた。
Max Willens(原文 / 訳:塚本 紺)