ファイナンシャル・タイムズは10月中旬、ナレッジビルダー(Knowledge Builder)というポイント獲得システムをサブスクリプション登録者のうち13%の会員に導入した。ユーザーたちはこれを使って、自らの知識がファイナンシャル・タイムズ上でどのように構築されているかをトラッキングできる。
オーディエンスが賢くなれば、それにポイントを与えているのがファイナンシャル・タイムズ(The Financial Times)のスタイルだ。
ファイナンシャル・タイムズは10月中旬、ナレッジビルダー(Knowledge Builder)というポイント獲得システムをサブスクリプション登録者のうち13%の会員に導入した。ユーザーたちはこれを使って、自らの知識がファイナンシャル・タイムズ上でどのように構築されているかをトラッキングできる。これによって、エンゲージメントを高めることが目的だという。ファイナンシャル・タイムズにとってのエンゲージメントとは頻度、経過時間、そして訪問ごとに閲覧する記事のボリュームで定義される。
ナレッジビルダーの機能
各記事のポイントはトップ部分に表示され、末尾ではユーザーの知識が成長したプログレスを示すバーが表示される。また、ファイナンシャル・タイムズが現在カバーしている1000ほどのトピックの知識をどう増やしていくか、についてのオススメ記事も表示される。
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ポイントはふたつの基準で決定される。記事がファイナンシャル・タイムズが伝えるトピック全体をどれほど網羅できているか、そして記事がそれまでの文脈に沿った論点やテーマに触れていれば、得点は高くなる。このひとつ目の基準によって、ある事象について親しみが浅い読者でも、重要な要素を説明してくれる記事へと誘導することができるわけだ。ふたつ目の基準は、個々のユーザーにとってトピックがどれほど新しい分野か、だ。ユーザーがこれまでも何度も読んでいる内容についての記事であれば、そのユーザーにとってのポイントは低くなる。
「これがナレッジビルダーが持つ、フィルター・バブル(自分の興味・関心や志向に偏った情報ばかりを得てしまうこと)を破壊してくれる要素だ。すでに知っている内容からユーザーを離し、まだ知らない分野へと誘導してくれる」と語るのは、ファイナンシャル・タイムズのグループ・プロダクトマネージャーであるジェームズ・ウェッブ氏だ。
解約率の改善がゴール
究極的には、登録会員のエンゲージメントを高めることで退会の可能性を抑えることがゴールだ。ウェッブ氏によると、データサイエンティストたちの推算では1万から2万人のエンゲージメントしなくなった会員たちをエンゲージメントしている層へと導くことで、毎年190万ドル(約2.1億円)の収益を上乗せできるという。
「この数字には、ディスプレイ広告収益に関するポテンシャルは、含まれていない。いまプロジェクトを開始して以来、アルゴリズムが効率的に、いつ読んでも有益な記事コンテンツをユーザーに読んでもらう作業を行っていることが分かった。特に我々のスペシャル・レポート(Special Reports)がそうだ。現状のトライアルが成功すれば、どれくらいの追加広告収益が見込めるかを見極めているところだ」と、ウェッブ氏は語った。
ファイナンシャル・タイムズが抱える有料サブスクライブ会員数は93万人。そのうち74万人がデジタル会員となっている。そして、会員の登録料は彼らが所属する企業によって支払われている。ファイナンシャル・タイムズによると、収益の60%はコンテンツとサービスから来ているという。
導入後に見えてきた効果
ウェッブ氏によると、社内リサーチの結果、読者たちは自分が読んでいる記事がどれほど自分の知識に貢献しているか関連付けられていないことが分かったそうだ。今回のツールはGoogleによるデジタル・ニュース・イニシアチブ(Digital News initiative)から資金を受け取っている。また、テック企業クラックス(CRUX)がファイナンシャル・タイムズの記事のメタデータから、そこに含まれる知識を定量化している。
さらに、いまのところ実験の初期段階だが、これまでナレッジビルダーによって届けられた記事は、読了率が高くなっているという。ナレッジビルダーに取り込まれている記事の場合は、訪問ごとに読むページ数の中央値がスタンダードな記事の2倍になっている。具体的な数字に関しては本稿の公開までには伝えられていない。
オススメ記事に関しても記事のクリックスルー率を最新記事と継続して比較する予定だ。同様に、記事を最後まで読むユーザーの割合、一度サイトを訪れたときにどれだけの量の記事を読むか、そしてエンゲージメントが低いユーザーに対してビジュアル的な掴みが役に立つか、などについても最新記事のデータと比較する。
独特なゲーミフィケーション
ユーザーの好みに基づいてオススメ記事を提供するのは、ほとんどのサブスクリプションビジネスが行っている。しかし、サイモンークッチャー・アンド・パートナーズ(Simon-Kucher & Partners)で戦略・マーケティングコンサルタント部門のディレクターを務めるグレッグ・ハーウッド氏は、ファイナンシャル・タイムズはそのゲーミフィケーションとビジュアル化という点で独特であると指摘する。「オススメシステムの多くは、ユーザーベースの行動に基づいて、ユーザーのセグメントごとにどのようなコンテンツが消費されているかのパターンに類似点を見出し、そこからオススメを提案する。今回のマシーン・ラーニングによるアプローチは、それをひとつ上のレベルに昇華させている」。
サイト利用の深さや頻度を増やすための試みは、多くのパブリッシャーが取り組んでいる。「これまでであれば、ゲーミフィケーションはコメントができるレベルやコメントの表示などのコントロールができる権限といった形で、ユーザーの参加を促すのに使われていた」と、ロイター・インスティチュート・デジタル・ニュースレポート(Reuters Institute Digital News Report)のニック・ニューマン編集員は言う。ガーディアン(The Guardian)が2009年に政治家たちの経費をクラウドソーシングでまとめた例や、読者がどれだけの量の文章を読んだかを示す成績表といった取り組みを彼は挙げた。
Lucinda Southern(原文 / 訳:塚本 紺)