FTが、教育に特化したコンテンツを制作したり、斬新な工夫としてボードゲームを発行するなど、学生への訴求に力を入れている。成果のひとつとして、この取り組みを通じて、読む習慣を身につけた学生が、同紙が提供する大学生向けのパッケージを購読するようになっている。
フィナンシャルタイムズ紙(The Financial Times:FT)が、教育に特化したコンテンツを制作したり、斬新な工夫としてボードゲームを発行するなど、学生への訴求に力を入れている。成果のひとつとして、この取り組みを通じて、読む習慣を身につけた学生が、同紙が提供する大学生向けのパッケージを購読するようになっている。
「FTスクールズ (FT Schools)」は16歳から19歳の学生向けのプログラムで、オンラインアカウントを開設するとFTのコンテンツにアクセスできるようになる。2017年6月に英国で開始され、2018年1月にグローバルな取り組みへと拡大された。現在、101カ国にまたがる2800校で4万人を超える学生がアカウントを開設している。プログラムに登録した学生には、経済学、政治学、あるいは環境問題など、それぞれの研究分野と直接関係のあるコンテンツが毎週、電子メールで配信される。また、動画コンテンツのほか、試験や面接で役に立つ記事など、より実戦的なアドバイスも提供している。
「絶え間ないフェイクニュースの攻撃にさらされる時代、FTスクールズには、質の高いジャーナリズムへのアクセスを提供する一方、信頼性の高いニュースソースとしてのFTをアピールできるという効能がある」と、同紙グローバルエデュケーションエディターのアンドリュー・ジャック氏は言う。「大学生向けのサブスクリプションを求める声が高まっている。それが次に向かうべき、もっとも自然な方向だ」。FTは大学生向けのサブスクリプションを週2.65ポンド(3.27ドル)で提供している。また、大学その他の高等教育機関にはエンタープライズ型のパッケージを用意している。ジャック氏によると、関心が向けられているのは後者で、18歳から20歳の年齢層で伸びているという。なお、本稿の執筆時点で、具体的な伸び率は開示されなかった。
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ファネルの空白を埋める
基本的に、FTスクールズはフィナンシャルタイムズ紙の既存のコンテンツを活用し、学校のカリキュラム、および読者の関心や学習のテーマに合わせて、そのコンテンツを再構成している。今後さらに注力する分野として、卒業後のキャリアアドバイスと金融リテラシーのふたつを予定しており、その一環としてボードゲームを発行した。「億万長者への道(Road to Riches)」と題されたこのボードゲームは、学生たちを退屈させずに、資産の管理と運用を教えることを目的としている。FTスクールズに登録済みの学生と教師は無料で使用できるが、そうでなければ28ポンド(34.38ドル)の費用がかかる。フィナンシャルタイムズによると、10月2日のリリース以来、400件を超える申し込みがあったという。
フィナンシャルタイムズは現在、FTスクールズにさらなる弾みをつけるため、王立地理学会や英国政治学会などの提携団体と、8つの論文コンテストを共催している。直近では、王立経済学会と共同で、その年の最優秀若手エコノミストを選ぶ論文賞を開催している。最優秀賞を獲得した論文はフィナンシャルタイムズ紙に掲載される。「既存の読者層が若い世代を洞察する機会ともなる」と、ジャック氏は言う。「彼らも若い人々の新鮮な意見に触れることができる」。
フィナンシャルタイムズのサブスクリプション事業は盤石だ。購読者数は100万人を超え、うち4分の3は電子版を購読している。反面、読者の多くは実業界の人々で、男性と中高年層に偏っている。活字版と電子版を合わせた読者の平均年齢は48歳前後だ。多くの出版社同様、将来的な成長を確実にするためには、ファネルの空白を埋める必要がある。
「次世代という課題は、どのニュースメディアにも付き物だ」と、エンダーズアナリシス(Enders Analysis)のCEO、ダグラス・マッケーブ氏は言う。「ニュースなんて自分たちの日常生活と関係ないと、若者は考えがちだ。インターネット時代の到来で、この問題はさらに肥大化した。若者がニュースのアジェンダとエンゲージする方法は増えているのに、ニュースメディアとの関わりはその限りでない。しかも、アジェンダに対する若者全体の声は、強まるどころか弱まっている」。
FTスクールズの実像
FTスクールズは、週間ページビューと会員登録数を見る限り、確かに成長している。しかし、(登録者)4万人という数字はプログラム開始以来の累積数であり、学生や教師は卒業したり離職したりするため、実際の数字はもっと小さい。フィナンシャルタイムズは、本稿の執筆時点で、アクティブユーザーの登録数を開示しなかったが、学生は各校のメールアドレスでアカウントを開設するため、学校を離れたあとに、継続して連絡する方法はない。
ジャック氏によると、英国のある経済学の教師は、毎日始業前にフィナンシャルタイムズを開くのが日課となっており、さらにFTスクールズのウィークリーニュースレターで送られてくる2つか3つの課題案と関連記事を参考に、その週の宿題を決めているという。
人気のあるトピックはフィナンシャルタイムズの読者層全体と一致する。ジャック氏はそのいくつかの例として、ブレグジット(Brexit)、ヨーロッパの政治問題、テクノロジー業界の著名人の紹介、巨大ハイテク企業の規制に関する問題、温暖化の危機などを挙げた。フィナンシャルタイムズは常時更新されるリソースの役割を果たすものだが、試験官や面接官は、現実世界の実例を教室内の理論に当てはめる重要性を高く評価する。
「対価を支払う正当な理由」
ロイターの「デジタルニュースリポート (Reuters Digital News Report)」によると、英国でニュースメディアを定期購読する国民は7%にすぎない。有料でニュースを読むのは、いまとなっては昔の習慣らしい。FTのプログラムには、質の高いコンテンツをタダで読む習慣を付けるのとは、逆の効果があるとジャック氏は考える。
「デジタルディストラクション(デジタル機器がもたらす注意散漫)とフェイクニュースは、いまそこにある大きな脅威だ」と、彼は言う。「しかし結果として、質の高いニュースソースの価値が認められるようになり、価値あるニュースには投資が必要だという理解も深まりつつある。対価を支払う正当な理由と言えるだろう」。
Lucinda Southern(原文 / 訳:英じゅんこ)