FTは今年5月にFacebookへの支出を削減すると発表した。これは、Facebookがパブリッシャーの宣伝投稿を政治や問題関連の広告と同列に扱うとしたことを受けてのものだ。このポリシーはジャーナリズムと政治的アドボカシーとの境目をわかりにくくするとして、FTを含むパブリッシャー7社が反対を表明している。
フィナンシャル・タイムズ(The Financial Times、以降FT)が、購読者数を増やすための大規模キャンペーンをはじめて数週間が経過するが、キャンペーン費用は少なくともアメリカ国内ではFacebookには使われていない。
「購読するまで決めないで(Don’t decide until you subscribe)」と銘打たれたこのキャンペーンでは、屋外でのデジタル広告、LinkedIn(リンクトイン)、Twitter、音声広告、ポッドキャストに投じられる費用が大きくなっている。ブランド各社がこれまで多用してきた人目を引くことを目的とするキャンペーンとは異なり、同社のキャンペーンはもともとFTにある程度馴染みがあり、購読してくれる可能性が高い層を対象としている。同社は、これまで行ってきたユーザー調査に基づいてユーザーを性質ごとに多数に分類してきた。たとえば職業上の理由からFTを必要としている読者を指す「プロ読者」といった区分のほかに、「深い分析を好む読者」や「自説を曲げない新聞記者」といった区分が存在する。
FTは今年5月に、Facebookへの支出を削減すると発表した。これは、Facebookがパブリッシャーの宣伝投稿を政治や問題関連の広告と同列に扱うとしたことを受けてのものだ。Facebookのこのポリシーは、ジャーナリズムと政治的アドボカシーとの境目をわかりにくくする恐れがあるとして、FTを含むパブリッシャー7社が反対を表明し、同様の決定を行っている。Twitterにも似たようなポリシーがあるが、パブリッシャーは免除されている。それによって本来はFacebookに流れるはずだったパブリッシャーの宣伝費用の獲得に成功している。Facebookのポリシーは、当初はアメリカ国内での広告にのみ適用されるものだった(FTはアメリカ国外では、いまもFacebookで広告を行っている)。
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パブリッシャーの立ち位置
ミネアポリスのスタートリビューン(Star-Tribune)からインベストペディア(Investopedia)まで、パブリッシャーにとってFacebookは購読者を増やすのに欠かせない存在だった。
ローカル・メディア・アソシエーション(Local Media Association)でCIO(最高イノベーション責任者)を務めるジェッド・ウィリアムズ氏は「収益モデルのカスタマーセントリックスなシステムへの移行と多様化を目指すメディア企業自身が、Facebookにおける重要なカスタマーとなっている場合が多い」と指摘する。
FTはFacebook以外のソーシャルネットワークに加えて、ポッドキャストでも広告展開を開始した。番組司会による広告の読み上げや、エーキャスト(Acast)やパンドラ(Pandora)で配信している既存のクリエイティブのダイナミック広告挿入といった形式だ。FTはキャンペーンに費やす総額や、以前Facebookに支払っていた金額については明かさなかった。
ターゲティング重視の展開
収益の一部は、ロンドンやシンガポールといった主要都市での知名度向上のために使われている。実際、同社はロンドンのカナリー・ワーフ駅やシンガポールのデジタル広告掲示板をはじめとする屋外のデジタル広告に過去最大規模の支出を行っている。かつてFTは、国全体を対象としたキャンペーンを行っていた。
だが、FTのB2Cグローバルマーケティングディレクターを務めるフィオナ・スプーナー氏は、「当社はオーディエンスがどこにいるのかをはっきりと認識しており、今後はそこを狙っていく」と語る。
デジタル版の購読者は、FTにとって極めて重要だ。FTの購読者は93万人を超えており、そのうちの4分の3は1週間あたり6.45ドル(約727円)からスタートするデジタル版の購読者となっている。
Max Willens(原文 / 訳:SI Japan)