財務は新しいマーケティング分野:早期支払いを実施するアドテク企業が増加中

3月、コロナウイルス危機が世界中で急速に進行していたとき私は、「今後、財務部門にはクリエイティビティが求められる」という記事を書いた。というのも、当時多くのCFOたちは資金の逼迫を解消するため、新たな現金収入の手段を模索する必要に迫られていたからだ。最近こうした動向はさらに強まり、一部IT企業では、財務施策がマーケティング的機能を果たすような事例が見られている

アドテク企業のなかには、カスタマーサービスの一環としてパブリッシャーのクライアントに早期の支払いを行っているところもある。たとえばパブマティック(PubMatic)は第2四半期、全パブリッシャーに3日早く支払いを行った。また、7月にはサプライサイドプラットフォーム(以下、SSP)のトリプルリフト(TripleLift)も、パブリッシャーに3日早く支払いを開始した。

支払い期間の延長や遅れは、オンライン広告業界に長年はびこってきたが、コロナ禍によってこの慣習はさらに顕著になった。6月に公開された米DIGIDAYの調査では、パブリッシャーの62%が、支払いの遅れに悩まされていることがわかっている。

神経質になるパブリッシャー

少なくともパンデミックの初期段階では、多くのマーケターが支出を抑制していたように、パブリッシャーもまた、きちんと支払いを行ってくれるか、アドテクベンダーを非常に細かく精査するようになった。しかしこれは、何も新しい傾向ではない。シーケンシャル・ライアビリティ(Sequential liability:順次負債)という言葉が、パブリッシャーにとって「口にしたくない言葉」として業界で流通している現状から、それは見て取れる。

シーケンシャル・ライアビリティ条項が契約に含まれることで、広告主やエージェンシーそしてDSP/SSPは、経営の悪化などでパブリッシャーへの在庫分の支払いができなくなったとき、それを拒否することができる。大手デマンドサイドプラットフォーム、サイズミック(Sizmek)が破産した際には、これを理由に多くのパブリッシャーが歯がゆい思いをした。

この問題への対処の一環として、パブマティック(PubMatic)やオープンX(OpenX)、トリプルリフトなどのSSPベンダーは、パブリッシャーに選んでもらえるよう、コロナ禍の長期化に伴うデマンドサイド・プラットフォーム(以下、DSP)の経営危機をカバーする支払い保護や保険といった商品を、新たに提供するようになっている。

遅延は驚くほど減っている

早期に支払いを行うことは、アドテクベンダーにとっても財務の健全性を誇示し、競争上の優位性を生むというメリットになる。

DSPやSSP、エージェンシー、デジタルメディア企業をクライアントに抱える、ファクタリング企業オーレックス(OAREX)によれば、5月には年初以来でもっとも多い、49%の支払いがパブリッシャーに対し早期に実施されたという。さらに同月には、支払いが2週間以上遅れたケースは18ヵ月でもっとも少なくなっている。このトレンドはそれ以降も継続している。1月から6月にかけての支払いは平均で8日遅れとなっており、平均支払い期間は59日だった。だが、7月は平均で4日はやく支払いが行われ、平均支払い期間は52日となっている。

パブマティックのチーフコマーシャルオフィサー、ジェフリー・ハーシュ氏は、同社の早期支払いは「内輪向けの側面が強く、マーケティング戦術として活用しようとしているわけではない」と語る。現在プログラマティック広告市場は、再び上昇傾向にあるが、第3四半期もパブリッシャーへの早期支払いプログラムを継続する予定はないようだ。

「必要であれば再び実施する」とハーシュ氏。「当社の収支状況は非常に好調だ。早期の支払いは、当社にとっても大きな負担にならないし、パブリッシャーにとって非常に生産性の高いやり方だった」。

トリプルリフトの最高戦略責任者アリ・ルワイン氏によれば、DSPの支払いが延滞するのは珍しいことではなかったが、最近は驚くほど延滞が減っているという。「これは非常に素晴らしいことだ」とルワイン氏は語る。「これを機に良いフィードバックループを作り上げ、お互いに通常より少しはやく支払いを行う慣習を業界全体で作り上げたい」。とはいえ、これは少々楽観的すぎるかもしれないが。

とはいえ先行きは不透明

最近オーレックスにとって(一時的ではあるが)支払い面におけるポジティブなトレンドがふたつある。まずひとつは、ここ数ヵ月のあいだ、米国では多数のベンダーが中小企業庁(SBA)の提供する給与保護プログラム(PPP)などの融資を受けていることだ(たとえば、SSPのトリプルリフトは200万ドルから500万ドル[約2億円から5億円]の融資を受けており、ルワイン氏によればこれは一時帰休の社員を呼び戻すために使われたというが、経営状態が芳しくないことが伺える)。

実際、広告主やベンダーの多くは、4月と5月に支払い期間の延長を開始した(そうなると、支払い先企業の売掛金[請求書]を買い取る機会が増えるという意味で、オーレックスの仕事にとっては追い風になる)。

また、これまで支払いが遅かった企業が支払いを早めるケースは増えたのだが、どの企業でもそうなったわけではないのが現状だ。オーレックスの請求書データによると、支払いの延滞が15日以上に及んだケースは、5月から6月にかけては54%も増えている。さらに、新型コロナウィルスのワクチンがいつ入手可能になるか、その時期も分からないなか、米国を含め多くの国で感染者数が急増し失業率も上昇していることを考えると、経済の見通しは不明なままだ。IPGのマグナ・グローバル(Magna Glo bal)は、広告市場が世界的に回復基調に入るのは2021年だが、同年の広告市場規模はコロナ禍以前よりも90億ドル(9500億円)縮小すると予測している。

より踏み込んだ話合いが必要

広告主やメディア関係のクライアントにファイナンスソリューションを提供するシルバーブレード(Silverblade)のCEO、バーナード・アーバン氏は、「早期支払いが本当の意味でトレンドになるには、現状の経済問題を解消するため、大量の流動資産を注入する必要がある」と指摘する。「現在の米国経済は停滞状態が続いているが、環境がいまより少しでも悪化すれば、停滞することすら難しくなるだろう」。

コロナ禍が終息したあと、デジタルメディア分野で早期支払いがトレンドにならない場合も、財務的な透明性の向上がトレンドになる可能性はある。競争が非常に激しく、コモディティ化が進むアドテク業界。これまでカンヌで豪華なヨットを借りたりといった派手なマーケティング戦略が行われていた世界で、優れたバランスシートを誇示することがそれに取って代わる戦略になりうるのだろうか。今年は、実際にそうなるかもしれない。

パブマティックのハーシュ氏は、コロナウイルスの危機を通じて「パブリッシャーと提携企業はこれまでより財務面でより踏み込んだ話し合いを重ねたいと考えている。当社の資金の管理方法や財務面での安定性について理解したいという欲求は大きくなったはずだ」と語り、次のように述べた。「当社は秘密保持契約(NDA)のもと、クライアントの安心と信頼感のため、以前より多くの財務データを提供している」。

[原文:Finance is the new marketing Why some ad tech companies are paying publishers early

LARA O’REILLY(翻訳:SI Japan、編集:村上莞)