デジタルメディア業界で勝ち残るために多くのパブリッシャーは、かつて量で競争をしていた。しかし、記事の数が増えるほど内容は、ほかとの区別が付かない一般的なものになる。そこでNBCニュースは、バズっても自社サイトへ読者を連れて来ない記事よりも、読者が自社サイトに残るようなストーリーへとフォーカスを移してきた。
ページビュー数からメディア愛着度へと、フォーカスを移すパブリッシャーが増えている。最近の例ではNBCニュースがそうだ。
「ある意味、ニュースを提供する会社がたくさん幅広く存在していることは、素晴らしいことだ。しかし一方で、その群れのなかで差別化をし、目立つことは、ますます難しくなっている」と、NBCニュースのデジタル部門シニア・バイスプレジデントであるニック・アシャイム氏は言う。2015年11月に現職に任命され、アシャイム氏はニュースのアプローチを再考しはじめた。それ以降に起きた変化は次のようなことだ。
ストーリーの本数を減らす
デジタルメディア業界で勝ち残るために多くのパブリッシャーは、かつて量で競争をしていた。しかし、記事の数が増えるほど内容は、ほかとの区別が付かない一般的なものになる。そこでNBCニュースは、ソーシャルメディア上でパフォーマンスが良くても、自社サイトまでリーダーを連れて来ない記事よりも、リーダーが自社サイトに残るようなストーリーへとフォーカスを移してきた。また、デジタルビデオの自動再生もユーザーに嫌われていることを知り、2015年後半にやめた。全体では、1日に出しているストーリーの数は25%少なくなったと、ニュース・政治部門のデジタルエグゼクティブエディター、キャサリン・キム氏は語る。
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「以前のアプローチは(ニュース・出来事に対して)反射的に反応する形だった。そのため編集チームにとっては、非常に大きなカルチャーシフトとなっている。現在ではより計画的なアプローチがとられている。『大きいストーリーは何か? それを計画的に報道するにはどうしたらよいか?』ということを考えるのだ。『柱のひとつになるか? 今日の事件だけで終わらない、それ以上の何かを伝えることができるか? 議論や問題の中心を明確にし、リーダーに分かりやすく伝えられているか?』という質問に答えるのだ」と、キム氏は言う。
たとえばNBCニュースは、警察官の発砲ニュースを報じるにしても、いまではストーリーのフォーカスは一つひとつの事件というよりは、より大きな社会正義に関するテーマに据えられている。データに基づいた、深く掘り下げた”スペシャル”レポート、ドナルド・トランプのゴルフについてのレポートなども同時に行っている。
「過去であれば『この記事がバイラルしているから、最大限利用しろ』という指示を出す傾向にあった。いまのアプローチは、クリック数について心配するのは少し減らし、良いストーリーを伝えることに集中しようというものになっている」と、アシャイム氏は言う。
新しいサブ・ブランドたち
それと平行してNBCニュースは速報ニュース以外の報道の力を見せるためのサブブランドをローンチしている。「マッハ(Mach:科学関連)」「ベター(Better:健康関連)」、そして「シンク(Think:論説関連)」がそれらだ。
また経験の長いジャーナリストたちも多く雇っている。そのなかには、ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)、ファイブサーティエイト(FiveThirtyEight)出身のデーヴィッド・ファイヤストーン氏やクオーツ(Quartz)出身のメレディス・ベネット−スミス氏、そしてCNNポリティクス出身のグレッグ・バーンバウム氏が含まれる。
このエディトリアルにおける変化は広告主たちのあいだでの変化とも噛み合っている。また新しいバーティカルサイトたちは、NBCニュースが自動車、テック、製薬会社以外の広告主を獲得する助けとなっていると、NBCユニバーサルのニュースグループ、広告売上の責任者であるマーク・ミラー氏は言う。「デジタルマーケターたちは今日、スケール以上のものを探しているのは間違いない。ビューアビリティ、ロイヤリティ、エンゲージメントといった指標に注意を払っている。また広告主たちは1回限りの取引は求めていない。均質な環境において、オーディエンスの愛着、エンゲージメントなどを提供してもらうことを求めている」と、長期的な視点でこの変化に取り組む必要性を説いた。
新しいパフォーマンス目標
長年に渡って定着したニュースレポートに関する習慣を変えるために行われたのが、新しいパフォーマンス目標を設定することだった。かつてはユニーク訪問者数、ページビュー数が目標として使われていた。NBCニュースは、いまではひとりのユーザーが月間に消費するコンテンツの量で定義される「深さ」という指標やビデオ視聴開始アクション、そしてサイトを連続して2カ月以上に渡り、月に5回以上訪問するユーザーの数によって測る「ロイヤリティ」に注目している。
ビデオ視聴開始アクション数は月間1億回であったが、2015年後半に自動再生が停止されたあと、45%ほど減少した。しかしそれ以降、また回復し、その後の10月に1億1000万回、5月に1億3000万回、そして6月は1億2000万回となっている。アシャイム氏は詳細な数字を教えてはくれなかったが、ロイヤルユーザーの数は2016年後半以降、年比較でひと桁成長を続けてきているという。ユニーク訪問者数という面でも新しい目標が設定されてから、特に苦しんではいないようだ。コムスコア(comScore)によると、NBCNews.comのユニーク訪問者数は、5月で3660万人だった。これは2015年の5月と比べると、29%の上昇となる。
こういった新しい目標を知れ渡らせるために、NBCニュースは目標をフライヤー形式で印刷して従業員に配ったという。また全ビデオの視聴開始アクション数を12週単位の平均数で従業員たちへデータ公開している。また、パフォーマンスが低いストーリーについても従業員たちとデータをシェア。これによって人々が何が良いストーリーで、何が上手く行っていないかが分かる。週に1回、月に1回のミーティングも新しく設定され、ここでは編集部のリーダーたちが集まって、数字データをシェアしあうという。
「ジャーナリストになるような人であれば、ほとんどが私たちの新しいアプローチに惹かれている。しかし、重要業績評価指標(KPI)を変えないといけない。スタッフがページビュー数や週に出すアウトプットで評価されていると考えている限り、変化は期待できないからだ」と、アシャイム氏は言う。
Lucia Moses(原文 / 訳:塚本 紺)
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