オープンマーケットプレイスから大手広告主が撤退したことで、小規模な、ときには基準を下回る品質の広告がフィルターをすり抜けてパブリッシャーのサイトに表示される問題が起きている。
オープンマーケットプレイスから大手広告主が撤退したことで、小規模な、ときには基準を下回る品質の広告がフィルターをすり抜けてパブリッシャーのサイトに表示される問題が起きている。
たとえば雑誌のイミディエートメディア(Immediate Media)では、BBCグッドフード(BBC Good Food)のアプリやプレロール広告で、海外の企業によるアダルトコンテンツなどの商品をはじめとする低品質な広告も表示されていたという。同社のデジタル広告戦略ディレクターのドミニク・パーキンス氏は、ある低品質広告が表示されたコンテンツは10インプレッションのみだったとし、次のように述べている。
「ロックダウンの期間を通じ、当社にとって最大のリスクであるこうした広告などへの問題対策を行っているか提携しているサプライサイドプラットフォームに尋ねている」。
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同社には現在、広告認証で提携している企業はなく、その代わりにデータを分析する英国のアドテクコンサル企業レッドバッド(RedBud)に追跡を依頼しているという。イミディエートメディアが提携しているSSPの5社も、Google傘下のマルウェア検知企業スパイダー(Spider)や専用のAIプラットフォーム、人の目による監視などで確認は行っている。
パーキンス氏は、こういった低品質広告のすり抜けはごく少数だと強調している。一般的に、読者がこういった広告を目にするのはオープンエクスチェンジでのリターゲティング広告が多い。だが、これはクレームを入れる読者を満足させられるような回答ではないだろう。
流入増加でも総収益は減少
イミディエートメディアはオープンエクスチェンジで多くのインベントリーを扱っている。コムスコア(Comscore)によれば同社のトラフィックの74%はBBCグッドフードとなっており、オープンエクスチェンジの主力も同アプリだ。ここ2カ月、BBCグッドフードのトラフィックは増加している。これは我々が自宅の台所で過ごす時間が増えた結果だろう。同社の統計によれば、BBCグッドフードの4月の閲覧数は2億回、訪問者数は5000万人を超えた。これは2019年4月比で160%の増加だ。コムスコアは本稿の発表時点では4月のデータを発表していないが、3月のユニーク訪問者数は1550万人となっている。
この増加により、同社の3月、4月、5月のプログラマティック収益もまた前年同月比で増えているとパーキンス氏は語る。パーキンス氏のチームは、イミディエートメディアのオンライン収益の約4分の3をあげている。だが同社全体では決して好調とはいえない。イミディエートメディアは紙媒体に頼るところが大きく、同社の総収益は減少しているのだ。
これは何もイミディエートメディアだけに限った話ではない。低品質な広告が表示される問題は、トラフィック増加に伴いほかのプレミアムパブリッシャーも悩ませている。
「クリエイティブは誰も未確認」
レッドバッドの共同創業者、クロエ・グラッチフィールド氏は「安いインベントリーがあふれているため、広告品質が大幅に落ちた。低品質な広告が隙をついて入り込んできている」と語る。「新しいドメインを毎週カテゴリー分けしているが、およそ1割はアダルトに分類される。こういった広告が一般向けの雑誌パブリッシャーにも表示されているのだ」。
トラフィックの増加と大手広告主のキャンペーン自粛により、プログラマティックの価格やCPMは全体的に10から20%ほど落ち込んでいる。だが、基本価格を下げていないパブリッシャーが大半となっている。それは一度下げると価格が戻せないのではないかと危惧しているからだ。アドフラウドの調査を行うコンサルタントのオーガスティン・フォー氏は、小規模かつ低品質な広告主が入札で勝てるケースが増えており、高品質なサイトですらそういった広告が表示されるようになっていると指摘する。質の高いフラウド認証技術やマルバタイジングの専門家はたくさんいるが、ユーザーがボットかの確認や広告に悪意のあるリダイレクトのjavascriptコードが埋め込まれていないかを検証するのが一般的で、必ずしも広告のクリエイティブ面を調べることはしないという。
「広告がメッセージとして優れているかどうかは誰も確認していない」と、グラッチフィールド氏は指摘する。「あまりにも主観的な判断になるし、メッセージとして『低品質』というレッテルは誰も貼りたがらないのだ。N95マスクの偽物や、コロナウイルスの嘘の治療法などについての広告が山ほど登場しているのもそのためだろう」。
基準を引き上げる必要がある
雑誌のフューチャーパブリッシング(Future Publishing)は、低品質な広告やフラウドが増える傾向が見て取れたため、ブラックリストのより厳しい運用やパートナー企業の見直しによって問題を抑えているという。「市場でいまCPMが下がっており、それによってこういった広告がプレミアムのインベントリーにも入り込んできたのだろう。だが市場全体でCPMが改善すればやがて消えていくはずだ」と、同社の最高収益責任者、ザック・サリバン氏は語る。
広告認証企業ザ・メディア・トラスト(The Media Trust)の欧州担当ゼネラルマネージャーを務めるマット・オニール氏は広告を低品質と判定するのは主観的なプロセスなため、サプライチェーンで基準を引き上げる必要があると語る。「3月中旬から数百万の広告をカテゴリー分けしてきた。その間、パートナー企業全体でアダルト関連の広告は倍増している」。
「パブリッシャー業界全体の傾向として、過去は品質や広告カテゴリーを理由に掲載を拒否していた広告も受け入れるようになっている」と、オニール氏は語る。「需要が落ち込みオープンマーケットの価格も低下しているなかで、現在の経済環境にあわせて規制を緩和したという話はほぼすべてのパブリッシャーから聞いている」。
大手ブランドが戻れば解消する
大幅なトラフィック増加によって、フィルターをすり抜ける低品質な広告以外に、偽物や悪意のある広告で収益化を狙う詐欺も横行するようになっている。こういった広告は仮想通貨や返金についてのお知らせに見せかけて、個人情報の抜き取りなどを画策する。こうした業者は検知対策として、URLのマスクやクリックジャッキング、偽ドメインへの自動リダイレクトなど、より洗練された手法をとるようになっている。
フラウドや低品質な広告といったリスクは、オープンマーケットで取引を行う際についてまわる問題だ。だが、大手ブランドが早い段階でオープンマーケットプレイスに戻ってくれば、このリスクは低減すると思われる。
パーキンス氏は「5月が一番厳しくなると予想している。直販から、より高品質なインベントリーがあるオープンエクスチェンジに乗り換える広告主が増えると考えられるためだ」と語る。また4月は英国の会計年度で最終月であり、広告予算が使われる月でもある。「だが6月には小売の客足が戻り、収益も増えると考えている」。
LUCINDA SOUTHERN(原文 / 訳:SI Japan)