6月21日、東京都千代田区で、ファクトチェック・イニシアチブ(FactCheck Initiative Japan, FIJ)の発足会見が行われた。FIJは誤報や虚報といった、いわゆるフェイクニュース(偽ニュース)の対策に取り組むため、スマートニュース、東北大学らを中心とした専門家の連携によって運営される。
6月21日、東京都千代田区で、ファクトチェック・イニシアチブ(FactCheck Initiative Japan, FIJ)の発足会見が行われた。FIJは誤報や虚報といった、いわゆるフェイクニュース(偽ニュース)の対策に取り組むため、スマートニュース、東北大学、大学教授らを中心とした専門家の連携によって運営される。
インターネットの成熟や政治状況の変化によって、世界でフェイクニュース問題が深刻化している。昨年の米大統領選挙で、さらにその問題が顕著になった。
日本でも、医療系メディアのコピペ騒動など、報道された情報の事実検証を問われる問題がメディア業界を揺るがした。デュークレポーターズラボ(Duke Reporters’ Lab)によると、北米や欧州でこうした情報を検証する団体は116ほど存在するというが、日本には2012年に設立した日本報道検証機構のみで、報道の検証機関はほとんど存在しなかった。
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ファクトチェックをジャーナリズムの一部とすべし
会見ではFIJの発起人で日本報道検証機構の代表も務める楊井人文氏が、FIJ設立の目的と今後の活動方針についてあいさつ。誤報・虚報の拡散防止、ジャーナリズムの信頼性向上、言論の自由の基盤強化をFIJ発足の目的とし、ファクトチェックのレビューをされた情報を集約し、データベース化したオープンソースの体制構築に取り組んでいく。
具体的には、ガイドラインの作成と評価方法の検討、そして、ファクトチェック機能を有する団体を支援するシステム(オープンなデータベース)作りで、将来的には法人化を目指す。
ファクトチェックの対象となるのは、政治家の発言、当局の発表、有識者の言明、メディアの報道、広告企業発表、一般人の発信情報で、ソーシャル上の発信を含むことになる。しかし、こうした端緒情報は膨大で、すべてのファクトチェックの作業工程を人間に委ねるには限界がある、と藤村氏。
そこで、東北大学大学院情報科学研究科が自然言語処理技術によって前段階のデータ処理を行ない、スマートニュースがもつリソースと連携してシステムを立ち上げる。また、同氏は、「ソーシャルで確認されるさまざまなフェイクニュースに関する情報と、スマートニュースの広範囲にわたるコンテンツの情報を重ね合わせる」ことで、フェイクニュースと疑わしき情報のオープンなデータベースを生成するという。
FIJの使命はファクトチェック団体の支援
スマートニュース株式会社執行役員 メディア事業開発担当の藤村厚夫氏は、システムで収集した端緒情報を「一方的に偽ニュースと決めつけるのではなく、そのレビューを、適切にファクトチェックを行なう団体に引き渡すことで、より専門的な視点をもってその情報の真偽を確認していくプロセスの支援ができる」と同団体設立の主旨を説明する。
発足メンバーに関する質門で、FIJは既存マスメディア各社が初期メンバーに入っていないことについて、藤村氏は「一部の既存メディアが発起メンバーに名を連ねてしまうと、ほかメディアが参加しにくくなるのではという考慮から、発起人のメンバーは専門家のみになった」と語る。今後は、テクノロジー系企業、Googleなどの大手プラットフォームとの連携も進めていき、商業メディア企業や研究機関など、参加する団体を増やしていく、という。
また、FIJ発起人のひとりである、早稲田大学教授、瀬川至朗氏は、「民主主義の土台として、ファクトチェックジャーナリズムがあるべき。役割は、既存メディアを萎縮することではなく、ニュースの質を確証すること」と話す。発起人には東北大学大学院教授、乾健太郎氏やNPO法人アイ・アジア代表の立岩陽一郎氏ら10名が加わっている。
選挙前に国を挙げてフェイクニュース対策をする欧州
フェイクニュースが消費されるエコシステムの一端を担うプログラマティック広告が、今後一層普及すると見込まれている状況で、メディアはこの問題を今後、ますます深刻に捉えなければならない。たとえば、ノルウェー、イギリス、フランスなどでは、大きな選挙前に大手メディアやプラットフォームがコラボレーションしてフェイクニュース対策の強化に取り組んでいる。
ソーシャルメディアも責任の一助となっている。BuzzFeedと調査会社イプソス・パブリック・アフェアズ(Ipsos Public Affairs)が実施した調査によると、Facebookを主要なニュース源としている利用者の85%がフェイクニュースを信じてしまっている。これに対処するために、Facebookはフェイクニュースと疑わしき投稿には警告表示などで対策を取るという。
まとめサイトはフェイクニュースの温床になるのでは
質疑応答では、キュレーションとフェイクニュースの関係性について追求された場面もあった。スマートニュース内に設けられたチャンネルのひとつである、まとめサイトの質について質問をされた藤村氏はスマートニュースの代表という立場から話すと前置きし、「社内では3段階の内容確認チェックを行っている。最初に提携する外部のパートナーが、情報提供者の絞り込み、その後パトロール業者に委託し、内部のガイドラインを参考に検証を行なう。そして、最後に社員によって検証している」と語った。
まとめサイトに問題があるのではなく、コンテンツ単位で検証されていくべきという認識だという。
楊井氏は、「個別の記事をチェックすべきで、まとめサイトが一律に問題があるというわけではない。まとめサイトのファクトチェックの結果、真か偽かの確率の実証をすべき。大手メディアと比較して、どのくらいその確率が違うのかという数字を出さなければならず、そうでなければ、自由な言論にも関わる問題だと思う」と答えた。
また、報道において、情報の取捨選択の編集権限はどこまであるのか、という質門については、ファクトチェックする側が偏っていると見られないよう、ガイドラインの作成基準で検討すべき課題になると同氏は答えた。
Written by 中島未知代
Image from Getty Images