もう何年もFacebook経由のトラフィックの恩恵を受けてきたパブリッシャーだが、ついに最悪の事態が現実となった。Faccebookはパブリッシャーと読者のあいだに立ちはだかり、パブリッシャーが利益をあげるのを妨げるようになったのだ。
対抗策として、パブリッシャーは巧妙なやり方で読者と直接つながろうとしている。自社サイトに来てもらえれば、オーディエンスデータやマネタイズの面で自由が利くからだ。
もう何年もFacebook経由のトラフィックの恩恵を受けてきたパブリッシャーだが、ついに最悪の事態が現実となった。Faccebookはパブリッシャーと読者のあいだに立ちはだかり、パブリッシャーが利益をあげるのを妨げるようになったのだ。
対抗策として、パブリッシャーは巧妙なやり方で読者と直接つながろうとしている。自社サイトに来てもらえれば、オーディエンスデータやマネタイズの面で自由が利くからだ。
マーケターに顧客行動分析サービスを提供するバウンスエクスチェンジ(Bounce Exchange)のCEO、オムリ・ブロック氏は、「顧客にもっとも近い者が利益を手にする。(パブリッシャーからみると)事実上、顧客との関係をサードパーティーに握られている状態だ。パブリッシャーはみずからが存亡の危機にあることに気づいた」と言う。
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プラットフォームへの依存度を下げるためにパブリッシャーがとっている戦略は、バリエーションこそあれ、基本的には共通だ。読者のなかからサービスを強化すべき層を選別し、自社サイトやニュースレター、場合によってはオフラインの独自コンテンツにアクセスしてもらう。そこから有料購読に登録してもらうか、コンテンツの定期的な閲覧を習慣にしてもらう。
「読者に習慣をつけてもらうためにできることはたくさんある」と、NYTベータ(NYT Beta)のバイスプレジデント、ベン・フレンチ氏は言う。NYTベータはニューヨーク・タイムズ(The New York Times)のユニットのひとつで、「クッキング(Cooking)」「ウェル(Well)」「ウォッチング(Watching)」など、読者の好みに応じたニッチセクションの開発を担当している。
両刃の剣の高速記事フォーマット
FacebookとGoogleは、パブリッシャーにとってなくてはならないトラフィック供給源だ。ソーシャルアナリティクス企業 ニュースウィップ(NewsWhip)が先月発表した調査結果によれば、調査対象となったパブリッシャーの5分の1は、Facebookからのトラフィックが全トラフィックの21~40%を占めた。さらに4分の1では、Facebookからのトラフィックが全体の41~100%にのぼった。このようなパブリッシャーは、検索エンジンの王座に長く君臨するGoogleにも、強く依存している。そのFacebookとGoogleが、そろって読者をプラットフォームから出すまいと手を打ってきているのだ。
こうした動きは、パブリッシャーがどれだけオーディエンスを収益につなげられるかに重大な影響を及ぼしている。たとえば、Googleの高速記事フォーマット、AMP(Accelerated Mobile Pages)は、 すべての広告タイプに対応しているわけではない。Facebookの高速読み込み記事テンプレート、インスタント記事(Instant Articles)からの広告収入は、もとから自社サイト広告収入よりも低かったが、さらに下がり続けていると不満を漏らすパブリッシャーもいる。英紙インデペンデント(Independent)によれば、インスタント記事の広告料は今年になってから 15%以上も下落したという。
インスタント記事は、読み込みこそ速いものの、そこから提供されるオーディエンスデータは、自社サイトで得られるデータに遠く及ばないと、パブリッシャーは不満を訴えてきた。
こうした新フォーマットを避けることもできるが、それには危険がともなう。ソーシャルアナリティクス企業バズスモー(BuzzSumo)によれば、Facebookからパブリッシャーサイトに読者を誘導するリンクベースの投稿のリーチは、今年に入って急激に減少しているという。Facebookがプラットフォームを離れずに読めるインスタント記事を推奨しているためだ。
読者をつなぎ留める工夫
FacebookとGoogleがパブリッシャーにとって頼りになるトラフィック供給源であったときも、読者を引き止めておくのは至難の技だった。高い直帰率に対抗するため、パブリッシャーは読者の自社サイト滞在時間を延ばしたり、ニュースレター登録やサイトのメンバー登録といった形で読者をつなぎ留めたりしようと試みてきた。
そんななか、多くのパブリッシャーが頼りにする企業がバウンスエクスチェンジだ。創業4年の同社は、サイト訪問者に対し、コンテキストとユーザー個人にマッチした行動喚起を提供している。当初はEコマース企業向けツールとして発足したが、2014年にはそのサービスがパブリッシャーにも有用であることに気がついた。
CEOのブロック氏によれば、現在バウンスエクスチェンジは「米国内のほぼすべての主要パブリッシャー」にサービスを提供しており、顧客はコスモポリタン(Cosmopolitan)やプレイボーイ(Playboy)などのライフスタイル誌から、フォーアワー・ワークウィーク(Four Hour Workweek)やファーザリー(Fatherly)などのバーティカルメディアまで多岐にわたる(米DIGIDAYも同社の顧客だ)。クライアントは同社のツールを、ニュースレター登録、有料購読、商品購入などの増加のために使っている。「初期に顧客となったレガシー企業は大きく成長した」と、ブロック氏は言う。
読者のメールアドレスを手に入れたあとも、パブリッシャーにはやるべきことがたくさんある。メールへの反応には個人差があるため、フュージョン(Fusion)やベンチャービート(VentureBeat)といったパブリッシャーは、イテラブル(Iterable)などのツールを利用して、ニュースレターの口調や雰囲気や文体に、読者の反応に応じた変化を加えている。「世の中のほぼすべてのパブリッシャーが同じことをやっている」と、イテラブルのマーケティング担当バイスプレジデント、デビッド・ランゲル氏は言う。
パーソナライズと総合性のジレンマ

200社以上のパブリッシャーが、読者のメールアドレス取得のためにバウンスエクスチェンジを利用している。
自社サイトを訪れたユーザーには、興味を持ちそうなコンテンツを確実に見てもらう必要がある。ニッチメディアにとって、これはさほど難しいことではない。たとえば料理サイトなら、ファーストパーティーデータやときにはサードパーティーデータをもとに、どの読者がヴィーガンか、グリルが好きなのは誰かといったことを推量し、それに沿ってユーザーが閲覧するサイトの外見やコンテンツを調整できる。
だが、総合メディアにとって、ページのパーソナライズは難題だ。英国のEU離脱の記事を読んだユーザーにすすめるべきは、ジェームズ・ボンド映画のレビューだろうか? それともタイカレーのレシピだろうか? それだけでなく、ユーザーの好みに合わせるのか、それともサイトの幅広い内容を知ってもらうのかというジレンマも生じる。
ウォールストリート・ジャーナル(The Wall Street Journal)が出した答えは、画一的な有料購読モデルから、内容の異なる複数のデジタルメンバーシップへの転換だ。ファーストパーティーデータとサードパーティーデータを利用した読者の迅速な分類がこれを可能にした。読者へのおすすめ記事も個人に合わせたものへと移行しつつある。
別の答えとして、各セクションの見た目や雰囲気を変え、独立したメディアのような空間をつくるという方法をとるサイトもある。ニューヨーク・タイムズの「ウェル」、「クッキング」、「ウォッチング」など、NYTベータが統括する6サイトは、間違いなくすべてNYTのドメイン内にあり、しかもその大部分はNYTウェブサイトに先に掲載されたコンテンツをもとにしている。だが、それぞれの印象はまったく違う。
「総合メディアとは実際のところ、ニッチ特化型メディアの複合体だ」マーケッターおよびパブリッシャー向けの機械学習サービスを手がけるブームトレイン(Boomtrain)の共同創業者、ニック・エドワーズ氏は言う。「総合メディアは、扱う分野それぞれの専門性を高めなくてはならない」
ルールに則って戦う
もちろん、サイト上の小さなコミュニティを厚遇し、彼らが友人を引き込んでくれることを期待しているだけでは、効果はたかが知れている。現在パブリッシャーが利用しているプラットフォームは、やはり手放せないものだ。「オウンドメディアや運営メディアは氷山の一角だ」と、スリリスト・メディアグループ(Thrillist Media Group)共同創業者のアダム・リッチ氏は言う。
実際、プラットフォームベースのオーディエンスをしっかりと築くことができれば、いまいましいアルゴリズムのことはさておき、そこから学ぶことは多い。米放送局CBSのデジタル部門CBSインタラクティブ(CBS Interactive)が運営するゲームサイト「ゲームスポット(GameSpot)」は、お粗末だったFacebook動画のプレゼンスを、ここ2年の間に月間1億4000万ビューを叩き出すまでに増大させた。Facebookのアルゴリズムで有利なショートクリップに力を入れたおかげだ。
ゲームスポットのFacebookページのエンゲージメントは非常に高く、ユーザーにゲーム機の好みを尋ねる調査をゲームスポットが実施した際には、メールや本家サイトを含めた全チャンネルのなかで、Facebookからの回答がもっとも多かった。回答を得たゲームスポットは、読者がもっとも使っているゲーム機、読者の関心がもっとも高いゲームジャンルを明確に把握し、こうした情報を広告提携企業にすぐに提供することができた。「出発点として申し分ないものだった」と、CBSインタラクティブのシニアバイスプレジデントを務めるマイケル・パワーズ氏は言う。
FacebookとGoogleは、間違いなく今後もアルゴリズムや製品を変更し続けていくだろう。プラットフォームとパブリッシャーの両者が、オーディエンスを必死につなぎ留めようとするなかで、個々の訪問者から利益を上げようとする圧力は強まっていくだろう。市場調査企業ニールセン・マーケティングクラウド(Nielsen Marketing Cloud)のエグゼクティブバイスプレジデント、マーク・ザゴースキー氏は、「客が減るのがわかっているなら、来てくれる客にはできるだけお金を落としてもらうべきだ」と語る。
Max Willens(原文 / 訳:ガリレオ)
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