Facebookがニュースフィードでのリーチを制限していることから、パブリッシャーはコンテンツをオーディエンスの目に触れさせるために、よりクリエィティブになってきている。いま人気のその手法は、セレブに報酬を支払ってコンテンツをシェアしてもらうことだ。これが新興ビジネスとして、盛り上がって来ているという。
Facebookがニュースフィードでのリーチを制限していることから、パブリッシャーはコンテンツをオーディエンスの目に触れさせるために、よりクリエィティブになってきている。いま人気のその手法は、セレブに報酬を支払ってコンテンツをシェアしてもらうことだ。
これがいかに機能しているかを知りたければ、スタートレックのジョージ・タケイ氏のソーシャルページを見ればよい。タケイ氏はFacebook上に980万人ものフォロワーを抱えており、Facebookに参入したがるパブリッシャーのなかでも「ミック(Mic)」や「スレート(Slate)」また「ノワブル(Knowable)」といった特定の企業と、驚くほどの親和性を有している。10月の第2週の1週間だけを見ても、タケイ氏は「ミック」から12記事、また「ノワブル」からは20記事近く、自身のアカウントでシェアしているのだ。
ほかにもパブリッシャーのコンテンツ掲載の窓口となっているセレブとして知られているのが、米国人ラッパーのリル・ウェイン氏である。彼が特に興味をもっているのが、俳優のアシュトン・カッチャー氏率いる「Aプラス(A Plus)」やコンスームドメディア(Consumed Media)の「プレスルームVIP(Press Room VIP)」、そして「プロバイダー(Providr)」というサイトのコンテンツだ。
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コンテンツ拡散能力をフル活用
ウェイン氏やタケイ氏ほどあからさまではないものの、これはセレブの食物連鎖のかなり下の層まで広く行き渡った業態になっている。リアリティ番組「ジャージーショア」の元キャストメンバー、DJポーリーD氏のここ1カ月の様子を見ると、彼がインスタ投稿写真とラスベガスでプールを囲んで開いたパーティ写真のあいだに投稿したのは、ほかでもない「Aプラス」の記事だった。
セレブや多くの人気Facebookページに記事を掲載してもらい、クリックごとに報酬を支払うという戦略は、多くの小規模なパブリッシャーにとって主要な収入源になっている。また、それだけにとどまらず、「ローリングストーン(Rolling Stone)」や「スレート」など大手パブリッシャーも採用している。これらの取引はインフルエンサーのメディアネットワークで行われることもあれば、セレブが直接パブリッシャーと交渉することもある。ほかにも、パブリッシャーがコンテンポ(Contempo)のようなインフルエンサーネットワークに登録しておき、セレブが自社コンテンツをシェアしたときのみ報酬を支払う、といったケースもある。
ルールはまだ整っていない
「この配信メカニズム頼みに近いパブリッシャーは山ほどいる」と話すのは、あの「エリートデイリー(Elite Daily)」のFacebookオーディエンス規模を3倍にしたサイブリッドメディア(Cybrid Media)の共同創始者、ケン・ウォール氏だ。
理由は簡単だ。「ミック」がFacebook自社ページで、有罪判決を受けた婦女暴行犯ブロック・ターナー被告の記事をシェアしたときのリアクションは7700件でシェア回数は4400回だった。しかし、タケイ氏が翌日まったく同じ記事をシェアしたところ、リアクションの数は3倍近い2万2000件にのぼり、シェアも5000回を超えた。興味深いことに、タケイ氏は同様に人気の高い自身のTwitterアカウントではその記事をシェアしていない。

ジョージ・タケイ氏の記事投稿と「Mic」の記事投稿の画像
なお、Facebookは承認されたページのアカウントオーナーに対し、商業性のあるコンテンツをページに投稿する場合は、その旨を公表するよう求めている。しかし、彼らセレブは、そのような公表をしていない。多くの成長戦術がそうであるように、こうした戦略に対するルールはまだ整っていない。
セレブ経由の拡散サービス事業
昨年には、プロバイダー(Providr)やファンブレッド(FanBread)のような企業が登場。彼らはインフルエンサー向けにコンテンツを制作しており、前述のようなセレブがコンテンツ拡散でより高いリターンを得られるビジネスを行っている。このような企業はソーシャル上のさまざまな場所を通して広告主が求める「スケール」を生みだし、利益を得ている。これら企業のサービスは、パブリッシャーがコンテンツを配信できる最新の手段だが、同時に、その経路に特化したコンテンツを制作する新興の製作会社と競合するということにもなり得る。
もともと、セレブがソーシャルメディアのトラフィックを推進することを証明したのは、利益目的ではなかった。
いまでは約50人のセレブやインフルエンサーにパブリッシャーのコンテンツを配信するソーシャルエッジ(The Social Edge)も、当初は創始者のロレンソ・シオーネ氏がプロデュースするブロードウェイを舞台に出演したタケイ氏のFacebookやTwitterのフォローを手伝っていたことがきっかけだ。また、サイブリッドメディアのウォール氏も、数百万のフォロワーを抱えるFacebookのブランドページを複数運営するビジネスマネージャーと個人的な関係があったことがサービス化の発端だ。
しかし間もなく、これが大きなリスクなく利益を得るチャンスだということに誰もが気づいた。なにせ、パブリッシャーはFacebookに広告掲載するよりもはるかに低コストで、インフルエンサーからトラフィックを買い取ることが可能なのだ。デジタルパブリッシャーの「バイラルノバ(Viral Nova)」はこれを利用し、2014年にセレブやインフルエンサーのページからトラフィックを買い取り、わずか数カ月で何百万というオーディエンスを獲得。同社のオーディエンスの90%はFacebook経由だ。これは一見異常な数値だが、情報サービス会社のニュースホイップ(Newswhip)によると、調査対象となったパブリッシャーの10%近くは、トラフィックの75%以上をFacebook経由で得ていると答えた。
Facebook広告より効果が高い裏技
当時、マーケティング企業フレッドアンドファリッド(Fred & Farid)でコミュニケーション戦略代表のコリン・ナージ氏は「バイラルノバ」の成功を「マトリックスの誤作動」となぞらえた。Facebookの承諾なしに、Facebookが提供するよりも低価格で広告を載せてしまっていたからである。いまのところFacebookはこのバグを抑え込むことはできていない。現在、ある情報筋によると、パブリッシャーがリル・ウェイン氏のような王道派やタケイ氏のような「ザ・インターネット」派、またダラスカウボーイズのファンクラブといった特殊派から、Facebookユーザを自社サイトに誘導するのにかかる費用はわずか1セント程度だといわれている。これはFacebookと直接取引するよりはるかに安い。
そうして、このようなプロセスは非公式のうちに主流派になった。シオーネ氏は先月ソーシャルエッジ単独のページビューは1億5000万で、前年9月の7300万から倍増した。現在、同社は「スレート(Slate)」や「アントレプレナー(Entrepreneur)」「ミック(Mic)」など、約100のパブリッシャーと連携し、200件近くのビジネスをこなしてきた。シオーネ氏は上質なコンテンツにアクセスすることがインフルエンサーとパブリッシャー双方にとって有益であり、それこそが成功の理由だと考える。「我々はFacebookと強い共生関係にあると考えている」と、ソーシャルエッジ(The Social Edge)のシオーネ氏は語った。
早い者勝ちの市場になりつつある
今後数週間、ソーシャルエッジとともに仕事をするパブリッシャーや同業者は活気づいてくると考えられる。彼らの多くが第四四半期には可能な限り最大のオーディエンスを広告主に提供しようとするはずだからだ。しかし、彼らは厳しい競争に直面することになる。インフルエンサー向けコンテンツを社内制作する、プロバイダーやファンブレッドという新興企業を利用するセレブやインフルエンサーが増えてきているからだ。
ファンブレッドはコンテンツをセレブ向けに制作し、セレブ専用に作ったソーシャルページ上に掲載する。またプロバイダーについていえば、セレブ自身のソーシャルページ上に制作したコンテンツを掲載する。そしてセレブは、読者が訪れることで発生したソーシャルリーチの売上の割り当て金を得るという仕組みだ。
プロバイダーの共同創設者、ゲリー・リポベトスキー氏は同社サイトを利用するインフルエンサーには訪問者数に応じて、ほかライバルの誰よりも高額なリターンを提供できると主張する。その要因として、プロバイダーがマシンラーニングを利用して対象のインフルエンサーのページを訪れる読者層に合わせて、サイトの外観や雰囲気をカスタマイズし、長期間サイトに滞在してもらうことでより多くの広告を提供している点が挙げられると話す。「我々のAIはユーザがどんなことにより楽しいと感じるかを学んでいる」と同氏。
今後、多くのパブリッシャーがこのようなインフルエンサーのフィードにアクセスしたいと望むようになれば、より高額な対価を支払わなければならなくなるのは必至だ。さもなければ、彼らはより高価でエンゲージの少ないほかのトラフィックソースに戻らなければならない。
「500万人の読者をもつWebサイトをとるか、500万人のファンをもつインフルエンサーをとるか」。ミニッツメディア(Minute Media)のプレジデント、リッチ・ルートマン氏は、同社が「12UP」と「90MiN」というスポーツのバーティカルメディアのコンテンツを、全世界にいるインフルエンサー700人のネットワーク経由で配信している。同氏いわく「どちらを選ぶべきかは明確だ」だそうだ。