Facebookの「インスタント記事(Instant Articles)」が失敗に終わったという噂は、かなり誇張されていたようだ。Facebookは12月15日、同社が長く提供しているこのモバイルコンテンツフォーマットが成長していることを示す統計データと今後の計画を発表した。
Facebookの「インスタント記事(Instant Articles)」が失敗に終わったという噂は、かなり誇張されていたようだ。
Facebookは12月15日、同社が長く提供しているこのモバイルコンテンツフォーマットが成長していることを示す統計データと今後の計画を発表した。
主なポイント
- なによりも重要なのは、インスタント記事が(より多くの)お金を生みしているということだ。インスタント記事のRPM(インプレッション収益)は、米国とカナダでこのフォーマットを利用しているトップ100のパブリッシャーで前年比48%の増加となった。世界のトップ500のパブリッシャーでも、前年から27%増加したとFacebookは述べている。
- インスタント記事を利用するパブリッシャーの数は今年に入って増えており、5700社以上のパブリッシャーが利用を開始または再開した。世界全体では、およそ5万件のFacebookページがインスタント記事を利用中だとFacebookは報告している。
- Facebookによれば、来年にはさらに多くの機能を開発する計画があるという。これには、より高度な動画広告機能や分析機能も含まれており、スクロール深度やパフォーマンスの高い記事など、より多くの情報が「クリエイタースタジオ(Creator Studio)」経由で提供されることになりそうだ。
Facebookがインスタント記事に関する大きな発表を行ったのは、今年に入って2回目だ。最初の発表は1月のことで、パブリッシャーの収益を拡大できる可能性に応じて、CTAボタンまたは広告を記事のさまざまな場所に挿入する自動広告配信ツールの導入など、いくつかの機能改善を明らかにしていた。
Advertisement
この1月の発表で、Facebookはインスタント記事のコンテンツとFacebookのほかの部分の統合を進めるふたつの変更点にも触れていた。たとえば、パブリッシャーのコンテンツの利用時間を増やすために、新たな関連記事ボタンがインスタント記事テンプレートの右下に追加された。また、毎日3億人が利用しているというFacebookストーリーズ(Stories)で、インスタント記事のページがサポートされるようになっている。
下半期に収益が増加
インスタント記事の収益パフォーマンスが改善していることについて、明確な説明はない。Facebookの広報担当者は、さまざまな要因が、さまざまなパブリッシャーの収益改善につながったと述べたものの、その詳細は明らかにしなかった。
ただし、FacebookのRPMではCTAボタン経由で得られる収益が計算に含まれないため、インスタント記事そのものから収益が生み出されている可能性がある、とこの広報担当者は指摘している。
一方で、広告主におけるインスタント記事への需要は収益の改善に寄与していない。あるメディアバイヤーは、「ダイレクト広告を利用できるか、パートナーとの提携によってコンテキスト面からブランドセーフティを確保できる状況でない限り、(インスタント記事への)投資は躊躇せざるを得ない」と述べている。インスタント記事は今もあらゆるパブリッシャーに開放されているため、クライアントは慎重な姿勢を崩していないというのがこのバイヤーの見解だ。
要因は定かではないが、収益の増加が始まったのは2020年下半期に入ってからだ。政治パブリッシャーのサロン(Salon)で最高売上責任者を務めるジャスティン・ウォール氏によれば、サロンのインスタント記事ページのRPMは、春には8ドル(約826円)ほどで推移していたが、8月に入って上昇を始めたという。
さらに、3カ月前から再び大きな上昇が起こったおかげで、サロンのインスタント記事のRPMはいまや15ドル(約1550円)を超え、モバイルサイトのRPMより30%高くなっている。この現状について、ウォール氏は「なんの不満もない」と語った。
インスタント記事経由での需要が大きく高まっていることから、サロンはインスタント記事を、メールアドレスを収集したり、サブスクリプションを拡大したりするツールとして活用するのではなく、純粋に広告収入を得るために利用しているとウォール氏はいう。「これをやめてしまう理由はない」と、同氏は付け加えた。
長い低迷から脱却
数年前まで、インスタント記事はパブリッシャーから過去の製品とみなされていた。当初はニューヨーク・タイムズ(The New York Times)やワシントン・ポスト(The Washington Post)といった大手ニュースパブリッシャーを惹きつけたものの、収益が期待はずれだったことやFacebookがネイティブ動画に重心を移したように見えたことから、パブリッシャーの支持を急速に失っていた。
だが、2018年に入って、インスタント記事の収益は改善を見せ始める。2019年にはプログラマティックのフィルレートが上昇し、パブリッシャーによってはオープンエクスチェンジの収益よりもインスタント記事のRPMのほうが確実に高くなることもあった。「着実な上昇が続いた」と、メディアとアドテクが専門のコンサル企業ビースポーク(Bespoke)の創設者、グラント・ホイットモア氏は振り返る。
信頼できる製品になるか?
Facebookはメディア企業との関係修復に力を入れているが、収益が改善した要因がはっきりしないこともあり、多くのパブリッシャーはインスタント記事の成長を慎重に見定めようとしている。
「インスタント記事の平均CPM(インプレッション単価)が第4四半期に上昇しているのは間違いないが、この上昇が市場の需要によるものなのか、製品の強化によるものなのかははっきりしない」と、インスタント記事フォーマットを利用しているパブリッシャーの幹部は、(取引関係のあるFacebookについての話題であることから)匿名で語ってくれた。
この幹部によれば、インスタント記事で実際に見られたCPMは前年比で10%ほど上昇したという。同幹部は需要が急増した理由として、広告支出が増えることの多い年末であることに加え、選挙関連の政治広告支出が多かったことが考えられると指摘した。
今年見られた収益の伸びが今後も続くかどうかは不明だが、一部のパブリッシャーにとって、インスタント記事の成長はすでに十分に満足できるレベルとなっている。「当社が(インスタント記事を)使い続けている大きな理由は、収益面でメリットがあるからだ」と、先の幹部は語った。
[原文:Cheat sheet: Facebook Instant Articles revenues rise for publishers]
MAX WILLENS(翻訳:佐藤 卓/ガリレオ、編集:長田真)