Facebookのインスタント記事の普及は、失敗に終わる恐れがある。多くのパブリッシャーは、そこでのマネタイズに大いに不満を抱いているのだ。大勢のパブリッシャーが、インスタント記事へのコミットを減らしている。こうした状況を受け、Facebookは珍しく弱気な態度を示し、パブリッシャーに譲歩しつつあるという。
Facebookによる「インスタント記事」の普及は、失敗に終わる恐れがある。多くのパブリッシャーは、インスタント記事ページでのマネタイズに大いに不満を抱いているのだ。
ニューヨーク・タイムズ(New York Times:以下、NYT)のような大手パートナーはすでに利用を中止。ほかにも大勢が、インスタント記事に送るコンテンツの量を減らしている。こうした状況を受け、この巨大プラットフォームにしては珍しく弱気な態度を示し、サブスクリプション登録を支援する新ツールなどでパブリッシャーに譲歩しつつあるという。
NYTは、Facebookが新しいプロダクトをローンチするたびに協力を求められる選り抜きのパブリッシャーだ。それゆえ、インスタント記事もひと足先にテストした。だが、2016年秋のテストで、マネタイズの面では自社サイトへのリンクが勝っていると判明。これを受けてインスタント記事の利用をやめたと、NYTのプロダクトおよびテクノロジー担当エグゼクティブバイスプレジデント、キンゼイ・ウィルソン氏は明かす。
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その理由は、インスタント記事経由よりもサイトを直接訪問したオーディエンスの方が新規登録する確率が高かったからだ。したがって、NYTにとってインスタント記事は、あまり利用に値しないということなのだろう。サイト訪問者の80%がFacebookからアクセスするリトルシングス(LittleThings)のように、Facebookに依存しているパブリッシャーでさえ、インスタント記事に割り当てているのは全コンテンツの20%にとどまる。
熱意が冷めつつあるパブリッシャー
インスタント記事への熱意はいたるところで冷めてきた。パブリッシャーが仲間入りしたくてじりじりしていた2年前とは真逆の状況だ。「我々のブランドがインスタント記事を開始するのは、時間の問題にすぎない」と、ハースト・マガジンズ・デジタルメディア(Hearst Magazines Digital Media)のプレジデントを務めるトロイ・ヤング氏は2015年5月に発言。そして同年10月、「コスモポリタン(Cosmopolitan)」がインスタント記事を利用するハーストのブランドの第1号となった。だが、いまハーストは、このプログラムから距離を置いている。収益に見合わないと判断したからだ。ハーストはこの件で公式のコメントを避けた。
ビジネスニュースサイトのフォーブス(Forbes)とクオーツ(Quartz)も、インスタント記事から手を引いた。フォーブスは昨年インスタント記事を試したものの、収益性が低いことが判明した、と最高製品責任者のルイス・ドボーキン氏は最近述べた。「マネタイズの点で大いに遺憾だった」とドボーキン氏。雑誌出版企業コンデナスト(Conde Nast)の場合も、読者を自社サイトに誘導することを優先しているため、同社のブランドはごく控えめにしかインスタント記事を使っていない。
ユーザーの滞在時間を増やしたいFacebookが、高速に読み込めるモバイル記事機能であるインスタント記事を2015年にローンチして以来、この機能は物議を醸してきた。インスタント記事において、稲妻のアイコンが付いたパブリッシャーの記事は、超高速で読み込まれる。しかし多くのパブリッシャーは、自社サイトに読者を誘導する従来のリンクに比べ、収益性が低いと述べている。エンゲージメントの点でメリットがあるかどうかもわかりにくい。
今後はサブスクリプションが焦点
Facebookはこれまで、パブリッシャーの懸念に対応する姿勢を強めてきた。その表れのひとつが、今月ローンチしたCTA(コールトゥアクション)ユニットだ。パブリッシャーはこのユニットを使うことで、インスタント記事内にニュースレターの登録やFacebookページへの「いいね!」を促すメッセージを追加できる。Facebookは今回のローンチに先立ち、年初から100社ほどのパブリッシャーの協力を得てCTAユニットをテストしていた。同社はまた、ワシントン・ポスト(The Washington Post)、ビルト(Bild)、ザ・テレグラフ(The Telegraph)といったニュースメディアとともに、インスタント記事内での試験的なサブスクリプション登録やモバイルアプリのインストールを促す動画もテストしている。
だが、この1年間で広告市場は厳しさを増し、そのせいで、多くのパブリッシャーがサブスクリプションの強化を目指している。そして、サブスクリプションはFacebookがまだ十分に対応できていない分野なのだ。デジタルサブスクリプションの無料トライアルを除き、Facebookはこれまで、パブリッシャーが有料のサブスクリプション登録をテストできるようにする意向を示さなかった。ましてや、それを実施するための予定も組んでいない。
Facebookにはまだ、パブリッシャーがインスタント記事へのペイウォール(課金の壁)を構築する手段がない。一部のパブリッシャーは、NYTが行ったように、インスタント記事のパフォーマンスを従来のリンクと比較して定期的にテストできるようになることを望んでいる(ワシントン・ポストは現在、Facebookでそうしたテストを実施している。同紙によると、この種のテストははじめてだという)。
インスタント記事でのサブスクリプション登録については、顧客関係のデータを誰が保有するのか、パブリッシャーはどんなデータを入手するのか、売上の配分はどうするかなど、さまざまな詳細を詰める必要もある、とNYTのウィルソン氏は付け加えた。「細部をおろそかにすると失敗する」。Facebookのある関係者は、デジタルサブスクリプションの無料トライアルでは当面、ユーザーが登録する際に生じる顧客関係データは、パブリッシャーが保有することになると述べた。
完全に熱が冷めたわけではない
ただし、NYTほどサブスクリプションに依存していないパブリッシャーや、高収益のダイレクト広告販売事業を手がけるパブリッシャーにとっては、Facebookのインスタント記事は依然として有望なのかもしれない。ワシントン・ポストは現在も、サブスクリプション登録の拡大に積極的で、すべての記事をインスタント記事に投稿している。そのほうが、ユーザー体験が向上するからだという。
ニュースサイトのスレート(Slate)も、FacebookのCTAをテストし、好意的な試用感を伝えている。ニュースレターの新規登録のうち41%はインスタント記事からもたらされ、これはスレートにとって大きな数字だという。今後は、ほかのニュースレターやアプリへのCTAも設置する予定だ。「我々のプロダクトを新たなオーディエンスにPRする機会が得られる」と、スレートのシニアプロダクトマネージャーを務めるクリス・シーファー氏は期待する。
パブリッシャーは依然として、Facebookを支持する姿勢を示したがっている。NYTのウィルソン氏は、インスタント記事での不調はさておき、撤退の判断は取り消せないわけではないと強調した。
「我々は、決して扉を閉ざしたわけではない」と、ウィルソン氏は語る。「さまざまなプロダクトについてFacebookと話をしている。特に最近のものについては、我々が繰り返し提起している問題に、本気で対応しているのがわかった。結局重要なのは、我々のサイトへの誘導に関して、リンク以上の成果を上げられることを示せるかどうかだ」。
Lucia Moses(原文 / 訳:ガリレオ)