8月第4週、オーストラリアの競争規制当局は大手IT企業に対し、ニュースコンテンツを使用した際にパブリッシャーへの支払いを義務付ける法案を公布した。これを受けてGoogleは、オーストラリアでのロビー活動を強化している。
8月第4週、オーストラリアの競争規制当局は大手IT企業に対し、ニュースコンテンツを使用した際にパブリッシャーへの支払いを義務付ける法案を公布した。これを受けてGoogleは、オーストラリアでのロビー活動を強化している。
オーストラリアでこういった規制が導入されれば、世界中でそれに続く国や地域が出てくる可能性がある。それでなくとも欧州では、以前から大手IT企業への圧力が強まっているのだ。
本記事では、Googleとニュース業界にまつわる最新の規制について、世界中のパブリッシャーが知っておくべきことをご紹介しよう。
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──オーストラリアで一体何が起きている?
今年はじめオーストラリア政府は、国内のパブリッシャーとGoogleおよびFacebook間で「交渉力の不均衡」が生じていることを問題視。同国の競争消費者委員会(以下、ACCC)に対し、これを緩和するための行動規範の草案作成を要請した。
これを受けてACCCは7月31日、ニュース・メディア・バーゲニング・コードという草案を発表した。これは、GoogleやFacebookが自社サービス内でニュース記事を特集する際、ニュース系パブリッシャーが個別または一括で報酬を交渉できるようにするための規則だ。
同規則はほかにも、GoogleおよびFacebookが、ニュースの配置に影響するアルゴリズムの変更を行う場合は、28日前にパブリッシャーに警告することを「最低基準」とすることや、ユーザーがニュースコンテンツにアクセスしたときに収集したデータの提供を、Googleに求めている。
ACCCは、2社とニュース企業が交渉開始から3ヵ月以内に合意に至らない場合、強制仲裁する提案を行っている。その際の仲裁人は、各社が指名するか、オーストラリア通信メディア庁が指定することになる。2社が同規則に従わない場合、オーストラリア国内におけるデジタルプラットフォーム収益の最大10%にあたる罰金が課せられる可能性がある。
──Googleの対応は?
Googleは強い反応を見せている。8月17日には、オーストラリア国内のGoogleユーザーに向け「オーストラリア人により、Googleの使用方法が危険にさらされている」というポップアップが表示された。そのポップアップをクリックすると、警告マークとともにGoogleの豪州担当マネージングディレクター、メル・シルバ氏からの公開メッセージが表示される。
このメッセージのなかで同氏は、ニュース・メディア・バーゲニング・コードは、Google検索やYouTubeの検索結果において、ニュース企業に不当な優位性を与えるものだ主張している。パブリッシャーが、意図的にランキングを操作するのに役立つ情報を得られるようになるためだという。またGoogleは、この枠組ではデータの安全な管理を保証できず、大手ニュース企業による厳しい要求も予想されるため「無料サービスを危険にさらしかねない」と主張している。
──ACCCの反応は?
これに対するACCCの対応もまた迅速で、同日中にGoogleの公開メッセージには「誤った情報が含まれている」と回答している。ACCCは声明のなかで、ユーザーに課金を求めるかどうかはGoogle次第であり、強制ではないと述べている。また、追加のユーザーデータの提供についてはGoogleの任意だと指摘している。
──Googleのさらなる回答
Googleの回答もまた素早かった。Googleの広報担当は次のように述べている。「協議の段階で、規則に関する当社の見解がこのように表現されることに強く反対するとともに、懸念を覚える」。(このやりとりについてはオーストラリアのパブリッシャー、Mi3が報じている)。
──Facebookの対応は?
一方のFacebookは、少なくとも現時点でGoogleほど目立った対応は行っていない。
オーストラリアおよびニュージーランドにおける、Facebookのマネージングディレクターを務めるウィリアム・イーストン氏は次のような声明を発表している。「現在我々は、政府の提案が、業界や当社のサービス、そしてオーストラリアのニュース業界への当社の投資に与える影響の把握に努めている」。
──オーストラリアの決定により、米国でも同じようなことは起こりうる?
米国では、パブリッシャー約2000社を代表する業界団体のニュース・メディア・アライアンス(News Media Alliance:以下、NMA)が、ジャーナリズム競争保存法を推進しようとしている。これはパブリッシャーが、オンラインプラットフォームとより良い条件で集団交渉できるようにするための法案で、現在の競争法では認められない内容となっている。
NMAのCEO、デビッド・チャバーン氏は、同提案を下院は支持すると予測しており、現在は多数派リーダーのミッチ・マコネル氏を含む上院からの支持を集めるため、動いていると述べている。
──欧州の動きは?
欧州ではすでに活発な動きがみられている。今年4月、フランスの競争当局(Autorité de la Concurrence)はGoogleに対し、記事の抜粋や写真、動画といったニュースコンテンツについて、現地パブリッシャーと「誠意をもって」料金に関する交渉に入るよう命じた。
これは昨年EUが可決した、IT企業に対し権利者からコンテンツの利用許可を受けることを義務づけた、新たな著作権規制を受けた動きだ。
欧州のニュース系パブリッシャーとGoogleの関係は、これまで決して順風満帆と呼べるものではなかった。Googleは2014年、表示したニュース記事についてパブリッシャーへ支払いを行うよう求められたことで、スペインにおけるGoogleニュースのサービス提供を停止している。同年、ドイツ最大手のニュース系パブリッシャー、アクセル・シュプリンガー(Axel Springer)は、Googleニュースによる記事の引用を防ぐ措置をとったが、参照トラフィックが急落したことで、この措置をやむなく中止している。
──GoogleもFacebookも、これまでパブリッシャーにニュースの利用料は支払っていなかったのか?
一部パブリッシャーに対しては支払ってきた。ウォールストリート・ジャーナル(The Wall Street Journal:以下、WSJ)は6月、ドイツのシュピーゲル・グループ(Spiegel Group)、ブラジルのディアリオス・アソシエイドス(Diarios Associados)、オーストラリアのローカルニュースパブリッシャー、ソルスティスメディア(Solstice Media)らが、Googleとのライセンス契約に合意したと報じている。だがフィナンシャル・タイムズ(Financial Times)によれば、Googleは8月17日にオーストラリアのニュースライセンスプログラムを凍結したという。Googleの広報担当に報道についてコメントを求めたが、回答はなかった。
Googleは、いまだ米国のパブリッシャーの同プログラムへの参加を発表していない。昨年Facebookは、ニュースタブをローンチし、米国の著名なパブリッシャー数社と「複数年の財務契約」を結んでいる。同契約にはニューズ・コープ(News Corp)のWSJ、ダウ・ジョーンズ(Dow Jones)、ニューヨーク・ポスト(The New York Post)、BuzzFeed News、Business Insider(ビジネスインサイダー)などが含まれると報じられている。
だがNMAのチャバーン氏は「GoogleもFacebookもより迅速に動くべきであり、両社がオーストラリアで行動をわざと遅らせていなければ、こういった規則は必要なかった」と語る。
──ACCCの提案に対するGoogleとFacebook以外からの反対意見
GoogleやFacebookにパブリッシャーのビジネスモデルを遡及的に修正させるのではなく、自ら最適なモデルを構築したほうが良かったのではないかという疑問は残される。
スウェーデンで、ニュース系パブリッシャーをクライアントとしてデジタルマーケティングコンサルタント業務を行っている、マーカス・オーデバル氏は「パブリッシャーは、これまで本当に嫌になるほど莫大な労力をかけて、我々が行使できる権利やこれまでに起きたこと、すべきことについて話し合ってきた」と語る。「そろそろ次に進むタイミングだ」。
ブルームバーグ・オピニオン(Bloomberg Opinion)もまた、8月14日の論説で同様の主張をしている。
──これからどうなる?
草案に関する協議は2020年8月28日まで行われ、最終的な法案はその後まもなくオーストラリア議会に提出される予定だ。
[原文:Explained Google’s tussle in Australia over paying publishers for news]
LARA O’REILLY(翻訳:SI Japan、編集:村上莞)