ディズニー傘下の ESPN 、SNS動画へ急速シフト:2020年は500番組を公開予定

ESPNがスポーツ中継の刷新に取り組んでいる。そのために、ソーシャルメディア界の新しいスターとデジタル番組専用の新スタジオを投入した。

この米国の大手スポーツ専門局は、2020年の幕開け早々に、ブリーチャー・レポート(Bleacher Report)が運営するインスタグラムの人気アカウント「ハウス・オブ・ハイライツ(House of Highlights)」を創設したウマル・ラージャ氏の採用を発表した。さらに、ESPNの人気番組のひとつ「ファーストテイク(First Take)」が以前に使用していたスタジオの改装も行った。これで、同社のデジタル制作部門は、面積2750平方フィート(約255平方メートル)の城を持つことになった。今年、ESPNは500本を超えるオリジナルのライブ番組を制作し、自社のウェブサイトやアプリのみならず、YouTube、Twitter、Snapchat、Facebookなどの主要なプラットフォームでも配信する。この数字は、NBAのプレゲームショー「フープストリームズ(Hoop Streams)」のような番組の個々の回をも含む数字だが、同社が2019年に放映したデジタル番組400本以上という数字を上回り、しかも2018年の数字の2倍に相当する。

ESPNによるラージャ氏の採用は、スポーツメディア界全体がいかにオンラインにシフトしているかということを示唆しているが、その主な要因は、ラージャ氏のハウス・オブ・ハイライツでの活動とも関連する。オリジナルのインスタグラムのアカウント名とは裏腹に、ハウス・オブ・ハイライツは試合のハイライトを扱うにとどまらず、スポーツの世界にスポットライトを当てつつ、文化全般における自らの役割を記録した。ハウス・オブ・ハイライツと親会社のブリーチャーレポート(Bleacher Report)、バースツールスポーツ(Barstool Sports)やオーバータイム(Overtime)など、いまや多くのメディア会社が、こぞって一流のスポーツパブリケーションとしての地位を確立しようとしている。彼らの眼差しの先には、伝統的なテレビをあまり観そうにない人々、試合そのものだけでなく、選手たちの何気ないトークにも関心を持ちそうな視聴者がいる。

SNS動画を急速に拡大

ここ2年間、ESPNはオンライン上に自分たちの「声」を確立し、自社のウェブサイトやアプリ、さらにはYouTube、Twitter、Facebookのようなソーシャルプラットフォームをまたいでオーディエンスを育てようと力を尽くしてきた。こう語るのは、ESPNのデジタルおよびソーシャルメディアコンテンツを担当するシニアバイスプレジデントのライアン・スプーン氏だ。ESPNのテレビ番組「カレッジ・ゲームデー(College GameDay)」はどちらかと言えば分析よりの内容だが、Twitter向けに制作されたカレッジフットボールのプレゲームショーは、もっと娯楽性が高く、試合をめぐる周辺的なトピックをフィーチャーしている。

「同じ番組といえども、我々がテレビで作る番組とは違う」とスプーン氏は言う。「我々がカレッジフットボールの前番組としてつくってきたものと比べると、ソーシャル向けの番組はもっとくつろいだ感じがする。私が強調したいのは、純粋な『楽しさ』だ。その目的は、視聴者の関心を掻き立て、彼らを楽しませることだ」。

ESPNが所有し運営するデジタルプロパティ(ウェブサイトやアプリなど)へのトラフィックには、この1年間、それほど大きな変動はなかった。たとえば、米調査会社のコムスコアによると、ESPNのサイトとアプリが2019年12月に米国で獲得したトラフィックは、すべて合わせて1億240万人だった。前年同期比4%程度の増加である。一方、同社がソーシャルメディアで配信した動画の視聴者は、この1年で急増した。チューブラーラボ(Tubular Labs)の調べによると、2019年12月の動画ビューは、YouTube、Twitter、Facebook、インスタグラムを合わせると、22億ビューにのぼった。2018年の数字から、58%も伸びている。

ESPNのソーシャルメディアチャネルの視聴者は、ラージャ氏の採用によって、さらに膨れ上がることが予想される。2019年12月にインスタグラムの各種アカウントを通じて79万4800万人のフォロワーを追加したESPNは、インスタグラム上に最速で成長するフォロワー基盤を携えて、2020年を迎えた。チューブラーラボによると、同じ時期、YouTube、Twitter、Facebookのうち、上乗せしたフォロワー数が34万人を超えたものはひとつもない。ラージャ氏は、ESPNのインスタグラムアカウント「スポーツセンター(SportsCenter)」で中心的な役割を果たすことになるだろう。そして、先にハウス・オブ・ハイライツのインスタグラムアカウントで活発なコミュニティを育てた手腕を、ここでも存分に発揮することを期待されている。「平たく言えば、彼には、これまで我々がやってこなかったことをやってほしいと思っている」と、スプーン氏は打ち明ける。

コンテンツもデジタル化

テレビの広告主が、テレビ離れの進む若者層への訴求を目的に、より多くの予算をオンラインにシフトさせつつあるいま、デジタルチャネルでのライブ番組を増やし、ソーシャルメディアでのプレゼンスを拡大しようというESPNの取り組みは、当然、同社の事業にもプラスの影響を与えるだろう。

「数年前も、[ESPNは]ソーシャル[メディア]上で、多くのコンテンツを配信していたが、それはリニア放送のコンテンツを、ソーシャルメディアでそのまま再利用していたにすぎない」と、ピュブリシス・スポーツ&エンタテインメントのバイスプレジデント、チップ・ジョンソン氏は指摘する。今回、ESPNは「本腰を入れて、ソーシャルファーストのコンテンツ制作に取り組んでいる」。

ESPNはテレビ番組の話をするためだけに、広告主と協議の場を設けたりしない。テレビが同社の稼ぎ頭であることに変わりはないが、Snapchatのようなプラットフォームでもオーディエンスの開拓に注力してきた。いまやESPNは、広告主に対して、リニアな放送網ではリーチが難しい視聴者にリーチする能力を売り込むことができるのだ。

「Snapchatで『スポーツセンター』を視聴する人の70%から80%は、リニアなチャネルをまったく利用しない」。こう指摘するのは、ディズニー・アドバタイジング・セールス(Disney Advertising Sales)でスポーツブランドソリューションを担当するバイスプレジデントのショーン・ハンラハン氏だ。現在、ESPNはSnapchatの視聴者のテコ入れをもくろんでいる。そのさきがけとして、1月にSnapchat版スポーツセンターの夕方版を開始した。試合が行われる夜を通じて、随時新しい映像を追加するという。

広告主の意識も変化

だが、デジタル番組のスポンサーシップについて協議することは、広告主にとっては軌道修正にもなりうる。彼らにしてみれば、自分たちのブランドはテレビで露出されるものと相場が決まっている。従来と比べて堅苦しくないのは、ESPNのデジタル番組にとどまらない。その広告もまた同様なのである。

たとえば、ESPNは11月に、カレッジフットボールプレイオフのランキングの発表に合わせて、デジタルのライブ番組を制作し、チーズイット(Cheez-It)のスポンサーシップを獲得した。番組では、ホスト役のジェイソン・フィッツ氏とマイク・ゴリック・ジュニア氏が、チーズイットのクラッカーを入れたロゴ入りのボウルを間に挟み、カウチにくつろぐ姿で登場した。「10年前なら、考えもしない趣向だ」と、ハンラハン氏は語る。

2017年以来、ESPNは、広告主に対し、デジタルコンテンツのライブ配信のスポンサーシップについて、折に触れて打診してきた。そして2019年、ようやく潮目が見えはじめる。昨年、同社は初めてTwitterで配信したカレッジフットボールのライブ番組で、3つある広告枠をすべて売り切った。スポンサーにはコカ・コーラ(Coca-Cola)、サムソン(Samsung)、チーズイットが名を連ねた。ESPNの広報担当者によると、2019年、デジタル番組の全体的な好調により、同社のデジタル収入は前年比92%増を達成したという。

「誰もが成長分野を模索している。そして誰もが、テレビで予算を増やすより、ソーシャル[メディア]を頼みにしたがる」と、ピュブリシスのジョンソン氏は述べている。広告主に言及した言葉ではあるが、この態度はESPNにも言えることかもしれない。

Tim Peterson(原文 / 訳:英じゅんこ)