英エコノミスト誌はチャート/データ可視化の重要性を熟知している。新たなオーディエンスを自社サイトに誘ったり、記事の信頼性を強化したりするほか、数々の大切な役割をチャートは果たしているのだ。今年1月に読者調査を実施したところ、チャート数のさらなる増加を求める声が多く聞かれたという。
英エコノミスト誌はチャート/データ可視化の重要性を熟知している。新たなオーディエンスを自社サイトに誘ったり、記事の信頼性を強化したりするほか、数々の大切な役割をチャートは果たしているのだ。
「グラスシーリング指数」 や「世界でもっとも危険な都市」といった記事は、ページビュー数と滞在時間のいずれにおいても、同誌でもっとも人気が高いという。今年1月に読者調査を実施したところ、チャート数のさらなる増加を求める声が多く聞かれた。回答者の半数はデータジャーナリズム業界外の人々であり、彼ら読者は記事の内容を伝えるのにデータがどう使われているかに関心を寄せていることがわかったと、同誌のデータジャーナリズム部門長アレックス・セルビー=ブースロイド氏は語る。
「我々にとってデータジャーナリズムは、極めて重要だ。データへのアクセスがスピーディかつ手軽になったいま、データジャーナリズムは一般にますます普及しつつある」と、セルビー=ブースロイド氏は述べる。「いまや、業界以外の多くの人々もデータをツールとして利用しているのだ」。
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紙では90年も前から
エコノミスト誌は、オンラインでは22年程前から、紙媒体では90年も前から独自にチャートを作成している。ソーシャルメディアの幅広いオーディエンスに向けて本格的に発信を始めたのは昨年末のことで、専門のデータジャーナリスト、マリー・セガー氏を雇い入れ、セルビー=ブースロイド氏率いる12人体制のチームに加えた。
同誌はGIFアニメーションや動画を主に、TwitterとFacebookにアップする。最大の目的は、読者を登録またはサブスクリプションが必要とされる自社サイトに引き戻すことだ。同サイトの「本日のチャート」コーナーには、日々、チャートがひとつ、300語の説明文を添えて掲載される。先週、英ルイ王子の誕生後には、ロンドンはセント・メアリー病院の特別病棟リンド・ウィングよりも米国で出産するほうが高くつくことを示すチャートが載った。
同チームは、いくつかのチャートを含む、長い記事をオンライン用に週に最大7本、紙媒体用に最大5本作成する。最近ではたとえば、親向けの英ウェブサイト、マムズネット(Mumsnet)における下品/不快な言葉遣いの増加を詳細に示すチャートを、複数の広告主がスポンサーを降りたとのニュースが流れてから2時間で作成し、紙媒体で出版した。
「データジャーナリストは1日の9割をデータ整備に、残りの1割をデータ整備についての不平不満に費やすと言っているよ」と、セルビー=ブースロイド氏は笑う。セガー氏が加わった昨年11月以降、チャートの配信/出版数自体はほぼ変わらないが、より長いスパンのプロジェクトに携われるようになったという。
現代のチャートづくり
ソーシャルメディア用のチャート作りには、微調整が欠かせない。エコノミスト誌が紙媒体/オンライン用に作成するチャートの約2割は、理解するまでに最長1分の滞在時間を要する。だが、ソーシャルメディアでそれはありえない。そこで、スクロールするだけで要点が掴めるよう、チャートを簡略化し、示すポイントをひとつに絞るよう工夫している。
また、チャートおよびインタラクティブグラフをデザインする際に、モバイル機器の画面を念頭に置く必要もある。マクドナルドの人気商品ビッグマック1個の価格を通じて各国の経済力を測る独自の指標「ビッグマック指数」も然りだ。同誌はこれを30年前から年2回発表しているが、現在、そのインタラクティブチャートのデザインをモバイル画面に合わせて見直しており、次のチャートを発表する今年7月の完成を予定している。読者1000人に対してアンケートを行ない、スクリーンショットやヒートマップを用い、どのようなデザインが好まれるのかを割り出したという。
さらに、読者およびデータジャーナリストファンをより多く取り込むための努力も怠らない。チャートのデザイン変更コンテストを独自に実施し、米国に上陸したハリケーンに関するチャートの新デザインを読者に呼びかけたところ、60人からさまざまな案が送られてきたと、セルビー=ブースロイド氏は言う。

エコノミスト誌が作成したハリケーン「アーマ(Irma)」の予想進路図
エコノミスト誌の方法論
間もなく発表されるビッグマック指数は、読者が生データをダウンロードできるものになるという。セガー氏はTwitterアカウントにおける同誌のチャートの活用にも積極的で、業界の人々とチャットしたり、エコノミスト誌の方法論を説いたりしている。データ一般の例に漏れず、人間の声を足すことで、作成したチャートをより身近に感じさせられるという。
セガー氏いわく、「出典元が明らかで、理路整然としたものであれば、読者は数字、統計、チャートを客観的裏付けと見なしてくれる」。
Lucinda Southern(原文 / 訳:SI Japan)
Image: The Economist via Medium