エコノミスト(The Economist)はペイウォールをより厳しいものにした。以前は1週間に3本までは記事が無料で読めたが、それが1カ月につき5本へと変更された。登録ユーザーがサブスクリプションへと移行することを促すためだ。6カ月の試験運用のあと、従量課金のシステムを変更したのが1月の末のことだった。
エコノミスト(The Economist)はペイウォールをより厳しいものにした。以前は1週間に3本までは記事が無料で読めたが、それが1カ月につき5本へと変更された。登録ユーザーがサブスクリプションへと移行することを促すためだ。
6カ月の試験運用のあと、従量課金のシステムを変更したのが1月の末のことだった。読者の調査で明らかになったのは、サブスクリプションを決定する前に平均的なユーザーは5本の記事を読むということだった。でなければ、すぐに登録してしまうということも分かった。加入せずに読めるコンテンツの数をさらに増やしてしまうと、潜在的な顧客がペイウォールに直面しない可能性が出てくる。
「このアプローチのおかげで、私たちはふたつのことが可能になった。サブスクリプションへの顧客の加入促進と、リーダーボードといった重要な配置場所が平等に人の目に触れることだ」と、グローバル配信のマネージングディレクターであるマリーナ・ヘイデン氏は言う。
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エコノミストはこれまで、コンテンツの提供という点では非常に寛大な態度をとってきた。ペイウォールの外にコンテンツをたくさん出し、ソーシャルプラットフォームでもシェアをして、サブスクリプションを促す。ジャーナリズムこそが彼らが持つ最良の資産だと考えてのことだ。デジタルとプリントのサブスクリプション登録者は160万人にのぼる。そのうち79万人がデジタルサブスクリプションとなっている(出版部数監査局[Audit Bureau of Circulations]調べ)。過去5年間に、配信・発行収益は2倍に伸びた。
「顧客維持がもっとも重要」
現在の目標はこの成長を継続させることだと、ヘイデン氏は語る。そのためのアクションのひとつがサブスクリプション加入者を増やすこと、そしてもうひとつがすでに加入している顧客を維持することだ。新規加入者を獲得するよりも既存の加入者を維持するほうがコストが低い。そして成長を継続させるための手段のもうひとつがサブスクリプションの利用料を上げることだ。
「成長する軌道上に我々は存在している。現時点でのフォーカスは量ではなく価値にある」と、ヘイデン氏は言う。そしてニューヨーク・タイムズ(The New York Times)やテレグラフ(The Telegraph)が行ったように、おおやけに大仰な目標を打ち出すということはしないと、ヘイデン氏は付け加えた。「私たちは顧客獲得に関して、非常に強いフォーカスを据えてきた。顧客維持がもっとも大きな戦略上の優先事項だ。野心的になるためには、改善を行う必要がある。1年目の顧客の維持率を改善したい。1年サービスを使い続けた顧客の維持は非常に強い結果を見せている」。
この動きは広告から遠ざかり、ダイレクトなオーディエンス収益へと向かう業界全体の動きを反映している。あらゆる規模のパブリッシャーたちがサブスクリプション制度を展開し、弱まっている広告ビジネスを補強するかのようにメンバー登録プログラムをはじめている。しかし、エコノミストはこれまでも常に、デジタルコンテンツに対しては課金をしてきた。ペイウォール前に読める本数を減らす、という今回の判断はより一層ダイレクト顧客収益へと戦略を移行することを意味している。
ユーザーがサブスクリプションに加入したあとの12週間に、毎日プロダクトを利用する習慣を見に付けてもらうことを目指し、そこにエコノミストはエネルギーを注いでいる。編集長からの歓迎のメッセージが届き、プロダクトの詳細、そしてアプリのセットアップ方法の丁寧な解説、そしてニュースレターのポートフォリオが届く。それ以降は毎週、彼らのプロダクトをより理解してもらうためのさまざまな通知がメールされる。
予算と人材のバランス
3月に入り、エコノミストはサブスクリプション料金を20%値上げした。これは3年ぶりの値上げとなる。これは支払っている値段よりも高いクオリティを得ていると読者たちが認識していることがリサーチの結果分かったからだ。値段は1年179ポンド(約2万6000円)に上昇する前、12部を12ポンド(約1770円)で契約できるという導入用のオファーを長年行っていた。
今年、エコノミストは予算と人材といったリソースのバランスを図り、30%が新規顧客獲得に、70%が顧客維持に取り組むようにする。ヘイデン氏によると、グローバルでは45人が新規獲得の担当となっている。2018年、彼らは6カ月かけて、2800万ポンド(約41億円)のマーケティングを展開。フルプライスのサブスクリプション加入を呼びかけた。これは9月のもっとも最近の財務報告による。この予算のうちいくつかは顧客維持、顧客体験、オペレーションの改善に向けられるだろう。しかし、その後も新規獲得のための予算は、かなりの規模にとどまるだろう。105人が顧客維持、顧客体験、デジタルプロダクトに取り組む。
サブスクリプション加入を増やすのは記事の見出しだが、定期的なエンゲージメントにつながり、収益安定へとつながるのはカルチャーといったトピックをより深く人々が知ろうとするときだと、ヘイデン氏は解説する。アプリ、ポッドキャスト、ニュースレターといったプロダクトを使って、これらのトピックを強調する。サブスクリプション登録者向けのアプリ、そして毎日更新されるポッドキャスト「インテリジェンス(The Intelligence)」をローンチしている。ポッドキャストはアプリの一部として組み込まれている。ポッドキャストのエンゲージメントは好調だ。しかし詳細を公表するにはまだ早いと、彼女は言った。
エコノミストの課題
「エコノミストの課題は、彼ら自身が成熟したデジタルプロダクトとなっていることだ」と、エンダーズ・アナリシスのCEOであるダグラス・マッケイブ氏は言う。「より幅広い人々にリーチするためにアプローチを変えたり、プロダクトを希釈するというハマりやすい罠を見事に避けてきた。彼らのクオリティがアドバンテージだ。すでに存在するたくさんのサブスクリプション登録者ベースはその価値の証明として目に見えている形だ」。
エコノミストは解約率は明かさなかった。ペイウォールに取り組むパブリッシャーを助けるピアノ(Piano)によると、パブリッシャーにおける解約率は約10%だが、サブスクリプション提供の内容やマーケティングキャンペーンによって大きく変動するという。
ほかのサブスクリプションベースのパブリッシャーの多くと同様、トランプ大統領やブレグジットといった政治騒動は2018年前半まで続く長い成長を促したが、それも減速傾向にある。
「消費者行動には変化が見られている。より知識を得ることが必要とされていた人々のグループのあいだでは麻痺のような状態が生まれている。感覚が麻痺したような、無感覚な状態になることを選んだ人々がいるように感じられる。以前と比べるとマーケットの厳しさは増している。下落傾向を見せているわけではないが、これまでのブームのような傾向は減った」と、ヘイデン氏は言う。
Lucinda Southern(原文 / 訳:塚本 紺)