印刷出版業界が利益を生み出す方法に苦難する時期にこそ、英経済誌「エコノミスト(The Economist)」は真価を発揮する。エコノミストには5年で収益を倍増させる野望があると、同企業のCMOであり発行部数を管理するマイケル・ブラント氏は語る。
2015年の終わりには、エコノミストグループは総収益を約3億3000万ポンド(約532億円)と報告し、また、過去5年間の利幅は18%から20%の間であったという。新聞雑誌部数公査機構の報告によると、「エコノミスト」の世界的発行部数が30万3500部を突破し、30.8%の成長につながっているという。「エコノミスト」の読者数はまだ少なく、飽和状態になるまでにはほど遠い。
成長を続けるためにも、「エコノミスト」はデジタル版の登録者数を増やすことが課題だ。また、紙媒体の既存購読者をデジタル版に移行させることができれば印刷費用を削ることができ、顧客1人あたりの取得原価も安くなる。
印刷出版業界が利益を生み出す方法に苦難する時期にこそ、英経済誌「エコノミスト(The Economist)」は真価を発揮する。エコノミストには5年で収益を倍増させる野望があると、同企業のCMOであり発行部数を管理するマイケル・ブラント氏は語る。
2015年の終わりには、エコノミストグループは総収益を約3億3000万ポンド(約532億円)と報告し、また、過去5年間の利幅は18%から20%の間であったという。新聞雑誌部数公査機構の報告によると、「エコノミスト」の世界的発行部数が30万3500部を突破し、30.8%の成長につながっているという。「エコノミスト」の読者数はまだ少なく、飽和状態になるまでにはほど遠い。
成長を続けるためにも、「エコノミスト」はデジタル版の登録者数を増やすことが課題だ。また、紙媒体の既存購読者をデジタル版に移行させることができれば印刷費用を削ることができ、顧客1人あたりの取得原価も安くなる。
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浸透率の強化がカギ
メディア分析企業エンダーズ(Enders)のCEO、ダグラス・マケイブ氏は、「エコノミスト」はターゲットへリーチするための正しい方向に進んでいると話す。また、マケイブ氏は「エコノミスト」の5カ年計画を達成可能と指摘し、「紙からデジタルの移行に成功した数少ない出版企業」だと評価している。
ブラント氏は、「エコノミスト」はイギリス国内だけで1億3200万人もの潜在顧客たちを発掘可能だが、現状、「エコノミスト」のイギリスでの浸透率は3%ほどだと説明する。また、海外での成長の可能性も模索中だ。アジアでの浸透率は現状0.2%ほどしかないが、日本で人気のメッセージアプリ「LINE」や、中国人ユーザーのための中国語翻訳版アプリ「エコノミスト・グローバルビジネスレビュー(The Economist Global Business Review)」を利用しての流通戦略を練っている。もっとも、「エコノミスト」にとって、最大の市場はアメリカであるが、そこでも浸透率は1.5%と低い。
コスト削減と新たな料金体系
紙媒体からデジタル版に移行することにより、すでに印刷コストや流通コストの削減につながっている。また、高級ホテルや航空便に無料で納入する予定であったサンプルも10万部削減し、コスト削減に貢献している。しかし、無料サンプルの削減は広告収入の効果を損なう可能性があると、マケイブ氏は認める。広告収入への悪影響は、今後極力抑えなくてはならない。
しかし、新たな料金体系が収益増加に貢献している。「エコノミスト」は料金体系を見直し、紙媒体とデジタル版の両方を購読する読者に対し、価格の25%を上乗せしている。新たな購読者の3分の2が、紙媒体とデジタルの両方を四半期あたり46ポンド(約7470円)で購読している。残りの3分の1の購読者は、紙媒体またはデジタル版を購読するという形で半々に分かれている。こちらは四半期あたり38ポンド(約6171円)だ。
新規獲得はアドテクで
世界的に見ても、紙媒体で購読している読者が、いまだ130万人もいるため、これらの読者をデジタル版へ移行させる機会は十分にある。しかし、「エコノミスト」は、Appleの「News」のようなニュースアグリゲーションアプリを注意深く見守っている。なぜなら、浸透率が低い「エコノミスト」にとって、このようなアプリは購読者数を減らさずに、新たな顧客へリーチする機会を与えてくれるためだ。しかし、永遠にこれが続くとは限らない。
「エコノミスト」は、より費用対効果の高いターゲティング広告を採用することにより、ここ2年間でデジタル版の購読者の取得原価を半分にすることに成功した。これはエージェンシー、プロキシミティ―(Proximity)との共同作業で達成することができた。プログラマティックで購入した広告を、2億人にリーチすることができたのだ。その後、ユーザーは改めてターゲットとされ、購読を案内するメールが送られている。結果、「エコノミスト」は数千人もの新規購読者を獲得している。
さらなるデジタル戦略
ブラント氏によると、紙媒体での収益悪化は、その分野での「第一人者(ソートリーダー)」であり続けるソートリーダーシップ(Thought leadership)戦略による収益で相殺することができるという。この「エコノミスト」のソートリーダシップ戦略は、世界最大のコングロマリット企業ゼネラル・エレクトリック(GE)などの大企業からも信頼を得ている。これにより、ほかの出版企業が広告価格を引き下げるなか、「エコノミスト」はプレミアムな広告価格を維持することができたのだ。
新たなペイウォール戦略の一環として、「エコノミスト」はいくつもの有料デジタル商品を提供している。これにより、講読料を払っていない読者たちからも収益を図ることができるのだ。同社の「ベッドから出る前の5分で読めるニュースアプリ」として知られる「エスプレッソ(Espresso)」(1カ月あたり2.29ポンド、もしくは371円)は、すでに110万ダウンロードを達成していて、エコノミスト購読者の40%に当たる20万人が毎週「エスプレッソ」にアクセスしている。このアプリには顧客価値があるとマケイブ氏はコメント。「この世界の会話は、短いコミュニケーションによって成り立っているからだ」と、同氏は最後に付け加えた。
Lucinda Southern(原文 / 訳:BIG ROMAN)
Image via HonestReporting