蘭ニュースメディア「デ・コレスポンデント(The Correspondent)」は、コメント欄で有識者のコミュニティーを育成し、レポーター直配信のフリースタイルなメルマガによって読者の心を掴んだ。新規会員を毎月約1000人ずつ獲得しているという。会員数5万人の大台に年末までに到達する勢いだ。
オランダのニュースサイト「デ・コレスポンデント(The Correspondent)」は現在、新規会員を毎月約1000人ずつ獲得している。会員数5万人の大台に年末までに到達する勢いだ。
「デ・コレスポンデント」では、回転の速い日々のニュースを追うのではなく、日々継続的に読者に影響を与えるトピックを取り上げている。「天気ではなく、気候変動をカバーしている」と、共同創設者で発行者のエルンストヤン・ファウス氏は説明した。
「デ・コレスポンデント」では現在、フルタイムの記者20人とフリーランスのネットワークによる体制で、約2000ワードの記事を1日に5本程度公開している。2013年9月のローンチ時は記者が8人だったが、2015年には総スタッフ数が倍増して31人になった。
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この数カ月は、「ISISと戦うスナイパーの1日」、「無料Wi-Fiネットワークへのログインと引き替えに我々が手放しているもの」といった英語記事を週に1本公開し、国際展開に向けて需要を調べている。
紙媒体出身のファウス氏は、広告がいかにコンテンツを損ねるかを充分に見てきた。一般メディアにおいて、旅行やキャリアのセクションが次々と誕生したのは、読者のニーズのためではなく、それらが存在するおかげで広告を売りやすいからだ。
「デ・コレスポンデント」は広告がなく、年額60ユーロ(約6800円)か、月額6ユーロ(約680円)を払う会員4万7000人からの収益が、全体の90%を占める。残りの10%は、書籍の販売によって同社に入ってくる利益だ。年間のリテンション率は83%と高い。
以下で、「デ・コレスポンデント」がどのように読者を集め、維持しているのかを見ていく。
柔軟なペイウォール
有料会員は、あらゆる記事を自由にシェアすることができる。サービスにお金を払っている会員の権利だとファウス氏は説明するが、記事のシェアを禁止しようとしても無駄だという現実もあるのかもしれない。
シェアされたリンクをクリックすると、その記事だけは全文読むことができる。そして、シェアをした有料会員の名前が表示され、入会を促す。「デ・コレスポンデント」では、これが新規会員獲得の一番の発生源になっているという。毎週、シェアボタンは1万回ほどクリックされ(ほとんどはFacebookへのシェア)、そのうち約300シェアほどが新たな有料会員獲得につながっている。
成功の原因は、突き詰めるとジャーナリストと読者のあいだのコミュニティ意識だとファウス氏は確信している。「我々はサービスとしてのジャーナリズムを提示し、読者の協力がなければ存在し得ないことを明らかにしている」。
「ウチが何をやろうとしているかは最初から説明しているとおり。それは読者と力を合わせてより良いジャーナリズムを作ることだ」と、ファウス氏は続ける。「我々ジャーナリストは、対話するためのリーダーとなり、読者はそれぞれが専門家として貢献する」。

「デ・コレスポンデント」の記事には、リンクをシェアした有料会員の名前が表示される。
インタラクティブなジャーナリズム
同メディアの記者は自分のプロフィールページにて、今後の約1カ月間どんなストーリーに取り組むのかを読者に明らかにしている。たとえば、オランダとヨーロッパのセキュリティ産業、医療システムにおける官僚主義、音楽業界における無名の有力プレイヤーといった具合だ。
そして、週刊のニュースレターで情報源やアイデアを募集する(「デ・コレスポンデント」には実に49種類のニュースレターがある)。音楽産業に関する記事では何百件もの反応があった。「医療システムにおける官僚主義」の記事を公開したときには、複数の医者が連絡してきて、保険会社のための事務手続きに毎週丸1日を費やしていると不満が綴られた。
記者は、週一の電子メールにて、読者へ取材に関する進捗状況を共有。当座の状況報告なので、形式は決まっていない。インタビューの文字起こし、その時点でもっとも興味深い引用の紹介、関連画像など、フォーマットはさまざまで、取材での笑い話が含まれることもある。
これらは新しい手法であり、すべての記者が取り入れられるものではないが、うまく行っているようだ。ほとんどの「デ・コレスポンデント」のカテゴリーのニュースレターには、約6000人の購読者がついている。たとえば気候を担当する記者のニュースレターは開封率が58.6%でCTRが14.8%。これは「デ・コレスポンデント」のニュースレターの典型例だ。eメールマーケティング会社のメールチンプ(MailChimp)による業界のベンチマークは、開封率が17~27%でCTRは1桁の前半、「デ・コレスポンデント」よりもはるかに低い。

記者紹介のページには、連絡先情報が掲載されている。
専門家のためのプラットフォーム
公開記事の大半は文末が質問で終わっており、コメント欄につなげている。会員の投稿は実名と決まっており、ゲスト記事の執筆を会員に依頼することも少なくない。「我々のゴールは、悪質な人々のたまり場になりがちなコメント欄で、人々に知識を共有してもらうことだ」とファウス氏は説明する。
「デ・コレスポンデント」が歓迎している読者の投稿は、経験の共有、質問、別の情報源へのリンクの共有の3つだ。単なる意見の表明は奨励されていない。量が問題にされるわけではないが、記事へのコメントの投稿数は10~500件と幅がある。
もちろんトロール(荒らし)がいないわけではない。しかし、この3年間で約8万件の投稿があったが、「デ・コレスポンデント」が出入禁止にしたのはわずか10人ほどだ。その理由は他者への罵倒が多かった。
「デ・コレスポンデント」の次なる段階は、プラットフォーム上でより多くの専門家を見つけられるよう、適切なテクノロジーを構築することだ。たとえば、記事の調査プロセスで読者が有用な情報提供に貢献したときに、スコアカードのようなものを利用して、読者のプロフィールに専門家という肩書きを追加するような仕組みだという。
ファウス氏にいわせると、読者との関係はウィンウィンの状況になっている。「ビジネス面では読者のロイヤリティーが高まり、ジャーナリズム面では情報源の増加や知識の共有になるからだ」と同氏は語った。
Lucinda Southern (原文 / 訳:ガリレオ)
Image courtesy of The Correspondent via Facebook, photo credit Lisa Klaverstijn.