ワーナー・ブラザース(Warner Bros.)が去る10月16日、ドラマフィーバー(DramaFever)のサービスを直ちに閉鎖すると発表した。韓国ドラマを中心とするサブスクリプションによる動画ストリーミングサービス、ドラマフィーバーは、ニッチなファンを掴んでいたが、事業は閉鎖されることになった。
2013年10月10日夜、マンハッタンのガーメント地区にある320スタジオズ(320Studios)は騒然としていた。150人ほどがそこに集まり、韓国の連続ドラマ『相続者たち(Heirs)』のプレミア上映を観た。この作品は、韓国ドラマを中心とするサブスクリプションによる動画ストリーミングサービス、ドラマフィーバー(DramaFever)にとって大きな節目だった。韓国のスタジオ、ファ&ダムピクチャーズ(Hwa & Dam Pictures)との共同制作により、ドラマフィーバーとしてははじめての「オリジナルシリーズ」だったのだ。
これはパーティーに値する、ということで実際にパーティーが開かれた。オープンバーが設けられ、ブランドのTシャツからGoogleのChromecastまでさまざまな賞品が用意され、エピソードのパイロット版のあいだ中、人々は歓声を上げていた。ドラマフィーバーは好調だった。ストリーミングサービスの利用は増加中だったし、1年前のシリーズBラウンドで600万ドル(約6.8億円)を調達し、この時点で総額750万ドル(約8.5億円)の支援を受けていた。
それから5年が経ち、韓国ドラマの熱心なファンは健在なものの、1万3000回のエピソードを擁して12カ国に展開するなど、こうした番組の最大の提供者になったドラマフィーバーはもうない。2016年にドラマフィーバーを買収したワーナー・ブラザース(Warner Bros.)が去る10月16日、ドラマフィーバーのサービスを直ちに閉鎖すると発表したのだ。ワーナー・ブラザースは広く報じられたプレス声明のなかで、「ビジネス上の理由」により、「同サービスの番組の中核である韓国ドラマのマーケットプレイスが急速に変化していることを考慮し」、サービスを閉鎖すると説明している(ワーナー・ブラザースにこの記事のために追加のコメントを求めたが断られた)。
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突き詰めると、ドラマフィーバーのサービスが閉鎖されたのは、オーディエンスがいなかったからでも、利益が出なかったからでもない(オーディエンスはいたが、利益は出ていなかった)。OTT(オーバーザトップ)によるストリーミング動画の競争が激化してコストが増え、ニッチな比較的小さなサービスがやっていくのが難しくなっているのが理由だ。親会社は、10億ドル単位の規模のサービスに力を入れている時に、100万ドル単位の規模のサービスのことを考えている時間はない。ドラマフィーバーに近い情報筋が語ったように、OTTは「もはや大手の商売」なのだ。
ドラマフィーバーのファン層は熱心だが規模が小さい
ドラマフィーバーは、ゲームの理論のアルゴリズムから生まれた薄っぺらいメディアブランドではなかった。成功の持続が可能なメディアビジネスの特性を数多く備えていた。このメディアが力を入れているニッチ分野には忠実なオーディエンスがおり、コンテンツにお金を払う層をたくさん抱えていた。
ドラマフィーバーのストリーミングサービスは、広告なしのサブスクリプションプランを月4.99ドルのものから複数、提供しており、同社のビジネスを直接知る複数の情報筋によると、閉鎖時には有料サブスクリプションの契約者が40万人を超えていた。これは、ほとんどのプレイヤーにとってまだ比較的新しい市場であるニッチな動画のストリーミングサービスとしてはかなりの規模のオーディエンスだが、クランチロール(Crunchyroll)よりは少ない。クランチロールは、サブスクリプション契約者数を最後に報告した2017年2月時点で、有料会員が100万人を超えていた。
ドラマフィーバーのファン基盤は、小さいが熱心で安定していた。米国のコムスコア(comScore)のデータによると、過去3年間、デスクトップの月間ユニーク視聴者数は30万~40万人で推移していた。
ドラマフィーバーが閉鎖されると報じられると、記事のコメント欄やレディット(Reddit)にたくさんのファンが押しかけ、驚きと不満を表明した。この記事の締め切りの時点で、バラエティー(Variety)の記事はコメントが500件を超えており、「ドラマフィーバー、戻ってきてよ」、「なぜそんな必要があるのか。私はドラマフィーバーを楽しんでいた。復活させろ」といった反応があった。
しかし、ドラマフィーバーはワーナー・ブラザース・デジタル・ネットワーク(Warner Bros. Digital Networks:以下、WBDN)グループのビジネス全体からすると小さな一部分でしかなかった。WBDNグループにはドラマフィーバーのほかに、DCユニバース(DC Universe)、ブーメラン(Boomerang)、フィルムストラック(FilmStruck)といったストリーミングサービスがあったし、エレン・ デジタル・ベンチャーズ(Ellen Digital Ventures)や、レブロン・ジェームズ氏のアンインタラプテッド(Uninterrupted)のようなデジタルメディア企業もあった。ドラマフィーバーは2018年、約2500万ドル(約28億円)の収益になる勢いだった。その約3分の2が広告ではなくサブスクリプションだ。しかし、それでも通年の黒字化はできない見込みだった。
ドラマフィーバーが設立された2009年当時、情報筋によると、韓国ドラマのシリーズのライセンス料は約8万ドル(約900万円)というのが普通だった。それが現在、高騰してタイトルあたり100万ドルからその数倍になっているという。収益が2500万ドル程度だと、ひとつのタイトルに100万ドルを使うのを正当化するのは難しい。しかも、韓国ドラマの愛好者のみを相手にしているニッチなサービスであることから、事実上、選択の余地はない。そのため情報筋によると、ドラマフィーバーは2018年、「100万~900万ドル」の赤字になる見込みだった。
Netflix(ネットフリックス)とAmazonの韓国ドラマ市場への参入はドラマフィーバーを助けることにはならなかった。本流の超大手である両社は使える資金が多く、コンテンツにニッチ向けストリーミングサービスのドラマフィーバーを上回る条件を提示できる。
リップル・コレクティブ(Ripple Collective)の最高クリエイティブ責任者のロバート・グリーン氏は、「Netflixの時代にはキュレーターとなるサービスが重要になると誰もが考えていたが、Netflixの力があまりに強くて実際には問題にならないと判明したというのが全体像だ」と語る。「あまりに多くのアプリがある世界の、もうひとつのアプリにすぎない」と同氏。
Netflixが韓国ドラマに関心をもったことで、実はこうした番組への人々の関心は高まったのであり、結果、ストリーミング大手2社よりも包括的な韓国ドラマのライブラリーをもつドラマフィーバーには、最終的には恩恵があったのだと主張する声もある。
Netflixのある元従業員は、「Netflixで韓国ドラマを体験して好きになれば、もっと観るためにドラマフィーバーやビキ(Viki)にやってくるだろう」、「ドラマフィーバーはHulu(フールー)とライセンス契約を結んでいたが、共食いにはなっておらず、我々がより多くのユーザーにマーケティングするのに役立っていた」と語った。
情報筋たちによると、ドラマフィーバーの閉鎖は、韓国の連続ドラマに市場が関心をもたなかったことによるものではなかった。事実、このジャンルに関心を示すようになったメインストリームのプラットフォームが増えたことで、韓国の放送局はライセンス料を上げはじめているという声もある。KBS、MBC、SBSの放送局3社は提携し、ドラマフィーバーやビキに対抗するストリーミングサービス、ココワ(Kocowa)を共同で立ち上げた。基本のサブスクリプションプランが年間35ドルのビキは、ココワを含むサブスクリプションプランを年間100ドルで提供している。
ドラマフィーバーの元従業員は、「韓国の放送局はライセンス料をつり上げることで支配力を行使しようとした」、「コストが100万ドルを超えると、サブスクリプション契約者が500万人、1000万人、あるいはそれ以上いないとやっていけない」と語った。
新しいオーナーは規模の大きさを優先
ドラマフィーバーにとって不幸だったのは、所有者が変わっていくなかでビジネスに要する資金が増えていったことだ。2016年にドラマフィーバーを買収したワーナー・ブラザースが、今度はAT&Tの傘下に入った。そのAT&TのOTTにおける野心は、ワーナー・ブラザースとはまた異なる。
報道で引用され取り上げられている、ワーナーメディア(WarnerMedia)のCEO、ジョン・スタンキー氏の最近の発言がある。ワーナー・ブラザースとターナー(Turner)のコンテンツを使うHBOブランドの新しいストリーミングサービスの発表のなかで、同氏がAT&Tは「規模で劣る(DTCの)取り組みからリソースを統合する」ことになると語ったのだ。有料サブスクリプション登録者が40万人のストリーミングサービスは、AT&Tからすると、たとえ登録者が熱心でも、NetflixやAmazonなどのテック大手と張り合うことを目指す世界では、端的に規模が足りていないのだと情報筋らは語る。
「AT&Tの上層部の誰かが意識するような規模まで(ドラマフィーバーが)大きくなるような実際の道筋はない」と、ドラマフィーバーとワーナー・ブラザースに詳しいある情報筋は語る。「このような大きな企業の文脈で、わざわざ時間を浪費する理由があるかということだ。たしかにコアなファン基盤の共感は集めたし、数字はよかったが、これを面白がるのは、AT&Tがやろうとしているものよりずっと小さなビジネスをやっている人のほうだ」。
それにドラマフィーバーは最近、ビジネス拡大のために隣接するコンテンツやほかの分野を検討するのではなく、主な収益源である韓国ドラマへの注力を強めることを決定していた。これは実質的に、ドラマフィーバーのオーディエンスに上限を設けるものだった。オーディエンスと収益、どちらも成長の道筋がなかったと情報筋らは話している。
メディアアドバイス企業クリエイティービー・メディア(Creatv Media)のファウンダーであるピーター・キャシー氏は、「コンテンツだけでは不十分なのだ」と語る。「いまの市場はブランドの構築が不可欠だが、新しいメディア企業はさらに、最初のルーツを超えたイノベーションを続けていく必要がある」。
ドラマフィーバー自体は形を変えて続いている
ドラマフィーバーは、消費者ブランドやストリーミングサービスとしては終わったが、会社自体は、ワーナー・ブラザースのなかに生きている。
ドラマフィーバーの幹部たちはこの数年、ドラマフィーバーの成長に寄与したのと同じ技術、インフラ、モデルを使ってほかのストリーミングサービスにテクノロジーを提供する企業へと、会社の転換を開始していた。その技術は現在、AMCネットワークス(AMC Networks)のシャダー(Shudder)、ワーナー・ブラザースのDCユニバース、ターナーのブーメランといったサービスを支えている。担当しているのはWBDN内のワーナー・ブラザース・デジタル・ラボ(Warner Bros. Digital Labs)というユニットで、スタッフの3分の2をドラマフィーバーの元従業員が占めている。
ワーナー・ブラザースはプレス声明で、デジタル・ラボは「WBDNの多くの事業を支える技術エンジンとして機能しており、役立っている」と説明した(バラエティーの記事によると、ワーナー・ブラザースは今回の閉鎖に伴い、ドラマフィーバーの従業員110人のうち22人の解雇を進めている)。
ドラマフィーバーとワーナー・ブラザースの両方に詳しい情報筋は、「ドラマフィーバーというと、ほとんどの人がもともとのOTTサービスを連想するが、実際の中核ビジネスは存続する」と語った。
とにかく、OTTがメインストリーム化し、テクノロジー大手に対抗するため巨大メディア企業が統合を進めることで、事業を成功させるのに必要なコストは増える一方だという、市場の新しい現実がもう広がりはじめている。
このような文脈では、潜在的な成長力が巨大な企業は、採算性があまり問題ではなくなる。エンターテインメント業界全体を飲み込むべく取り組んでいるNetflixは、結局のところ数百億ドルを借金している。これに対し、情報筋らによると、ドラマフィーバーは過去数年間のオーディエンスと数字からわかるように、すでにリーチを限界まで広げてしまっていた。
「OTT分野は我々の最初の数年間、メディアビジネスの澱み(よどみ)だったが、それがいまは、業界のなかでももっとも重要な分野になった」と、ドラマフィーバーの元従業員は語る。「そして、OTTはひどい市場になった。利用者に請求できる金額には限度があるのに、コンテンツのためのコストもユーザー獲得のコストも増える一方なのだ。エンジニアもデザイナーもプロダクト担当者も高くなった。このような環境で生き延びるには規模しかない。規模がなければ、死ぬしかない。それを避けることはできないんだ」。
Sahil Patel (原文 / 訳:ガリレオ)