読売、朝日、毎日などの新聞社に加え、集英社、講談社、小学館などの出版社におけるデジタル担当エグゼクティブが一同に会した「DIGIDAY PUBLISHING SUMMIT 2016 IN KYOTO(略称:DPS)」。国内外における有数のレガシーパブリッシャー32社が、それぞれのチャレンジを持ち寄り、業界の未来について話し合った。
すでに1本、大きなトレンドを紹介した記事を公開している。だが、本記事ではDPSにおける最終コンテンツとなった「5 things we’ve learned(私たちが学んだ5つのこと)」をもとに、DIGIDAY[日本版]編集長・長田の視点で、今回のイベントを振り返ってみたい。
題して、「日本のパブリッシャーがいますぐ取り組むべき5つのこと」。以下に、その5つをまとめる。
読売、朝日、毎日などの新聞社に加え、集英社、講談社、小学館などの出版社におけるデジタル担当エグゼクティブが一同に会した「DIGIDAY PUBLISHING SUMMIT 2016 IN KYOTO(略称:DPS)」。国内外における有数のレガシーパブリッシャー32社が、それぞれのチャレンジを持ち寄り、業界の未来について話し合った。
すでに1本、大きなトレンドを紹介した記事を公開している。だが、本記事ではDPSにおける最終コンテンツとなった「5 things we’ve learned(私たちが学んだ5つのこと)」をもとに、DIGIDAY[日本版]編集長・長田の視点で、今回のイベントを振り返ってみたい。
題して、「日本のパブリッシャーがいますぐ取り組むべき5つの課題」。以下に、その5つをまとめる。
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1. 2022年までに「デジタルシフト」を本格化させる
DPSでは、パブリッシャーのデジタル化について、さまざまな観点で話し合いがもたれたが、印象的だったのは各社におけるデジタルシフトのレベル感の違いだろう。DMPなどを導入し、オーディンスデータをビジネス活用しはじめている会社もいれば、まずは新しいデジタルメディアの立ち上げに腐心している会社もいた。
しかし、どんなにデジタルへ深く傾倒している会社であっても、日本のパブリッシャーでデジタル収益が紙の収益を上回るところは、ほとんどない印象だった。そうした状況のなかで、デジタル化のタイムリミットを「2022年」と設定したのが、毎日新聞社の取締役・小川 一氏の講演「6年後にやって来る新聞揺るがす巨大地震」である。
現在、日本人の平均寿命は、男女ともに80歳を超えているが、自立して生活できる期間を示す「健康寿命」という指標もある。その健康寿命の平均は、2013年の統計で、男性が71.19歳、女性が74.21歳。現在の新聞購読を支えている団塊の世代が、1947年から1949年生まれだとすると、ちょうど2022年くらいにその年齢を超えるというのだ。
小川氏いわく。「新聞業界には、『介護止め』『入院止め』『死亡止め』という言葉がある。これは、新聞購読が打ち切られるための理由のことだ。メインの新聞読者である団塊の世代が『健康寿命』を超える2022年前後には、これらが多発することが予想される」。ちなみにこれは、新聞社に限った話ではないだろう。出版社・テレビ局も同じ問題にさらされている。
なお、セッション「グローバル化するForbesの狙い」において、同社マネージングディレクターのアラン・グリフィン氏は、「すでにForbesにおける収益の80%はデジタルだ。紙の割合は10%しかない」と教えてくれた。また、イギリスの高級紙「インディペンデント」が紙の販売を停止し、完全にデジタルへ移行したニュースも記憶に新しい。日本のパブリッシャーも、いまのうちにデジタルシフトを推し進め、2022年頃には若いデジタル世代を収益源としなくてはならないのだ。
2. 「分散型モデル」を相互発展の見込めるものにする
GoogleやFacebookなどのプラットフォームが台頭するいま、パブリッシャーにとって分散化モデルは頭の痛い問題だ。なにしろ、グロースするには彼らの力を借りるのが一番の近道だが、ブランディングとマネタイズについては、明確な保証がされていない。今回のDPSでは、やはりこの点についても、多くの議論が集まった。
そんな状況に楔を打ち込んだのが、日経新聞社執行役員の渡辺洋之氏のセッション「『日経電子版』、成功の要因」である。プラットフォーマーに対して、ある一定の距離を置くというスタンスで、次のような発言をしていた。
「優良なコンテンツは、どこまで行っても有料である。他社に『目次』を預けてしまっては、パッケージとしてメディアを販売できない。また、インターネットの本質は、技術を伴う流通革命である。これも他社に依存してしまうと、技術がさらに発展したときに取り戻せなくなる。この2つの理由によって、すべてを内製化し、デジタル化に本気で取り組んできた」。それを体現するために、紙よりもデジタルの価値を高める努力を重ねてきたと渡部氏。おかげで、世界でも類を見ないプレミアムな価格・月額4200円で、「日経電子版」を成功へと導くことができたという。
しかし、そんな同社も最近、オープン化を標榜する新しいブランド「NIKKEI STYLE」を起こした。こちらのコンテンツは、しっかりと分散化を行い、さまざまなプラットフォームに友好的な姿勢を見せている。ウォールドガーデンを築いたのはいいが、そのさらにもっと上をいく形で、巨大なプラットフォームの勢いが増してきたからだ。「日経電子版」という本丸を守りつつ、新しい出城で時代の趨勢を占うということなのだろう。
結局のところ、すべてのパブリッシャーを救済できるような、分散化に対する明確な答えはまだ出ていない。しかし、プラットフォーマーといえども、人間が根幹にあるのは変わらないはずだ。相互発展をしていくために、業界一丸となって、実験や交渉を続けていくのは重要なことだと思われる。
3. 「量」を求めることなく「質」を高めていく
「量より質」は、とくに多くのシーンで話題となった。そのため、別に1本記事をまとめてある。まずはそちらを確認してほしい(参照:「パブリッシャーのデジタル化、成功のカギは「量より質」:「DPS 2016 KYOTO」レポート」)。
こちらのレポートにある通り、「質」といってもさまざまなとらえ方がある。しかし、意味するところは、変わらない。巨大なプラットフォーマーに立ち向かっていくためでも、広告主の満足度を高めるためでも、読者のユーザー体験を向上させるためでも、デジタル化によって多くの情報を数値化できるようになった現代だからこそ、すべてにおいて分かりやすく「質」を示すことが肝要だということだ。
4. デジタルを理解する「エディトリアル」人材を育成する
レガシーなパブリッシャーにおいて、デジタルを理解するエディトリアル人材を確保するのも、緊急課題のひとつだ。プリントに携わってきた人は、プリントに固執する傾向が強く、デジタルに馴染まない場合も多い。また、デジタル専用の人材を新たに雇用しても、逆にパブリッシャーとしての矜持を理解できるとも限らない。
セッション「トップランナーたちが語る出版ビジネスの未来」では、コンデナスト・ジャパン代表取締役社長・北田 淳氏が、この課題について、かなりアグレッシブな方法で取り組んだ経験について明かしてくれた。「デジタルシフトするにあたって、まずやったことは、デジタルの専門家を呼んできて、そのやり方を教わること。そして、逆にやらなかったことは、デジタル専門の部署を作らなかったことだ。紙をやる人は、デジタルもやる。紙だけをやりたい人は、他所でやってほしい。これは社内のスタッフだけでなく、社外のスタッフについても、しつこく浸透させた」。
同じセッションで共演した、ハースト婦人画報社CEOのイヴ・ブゴン氏は、北田氏の発言に対して、こう続けた。「パブリッシャーがデジタルシフトするには、トップダウンで全社的に、その意思を浸透させることが必要だ。そのうえで、すべての組織、プロセスを変えていかなくてはならない」。
職人気質のクリエイターたちを、新しい時代に馴染ませるというのは、並大抵のことではない。しかし、アナログだけでは立ち行かないという現実は、すでにそこにある。パブリッシャーとしてデジタル時代を生き抜くには、覚悟をもって大きく舵を取るしかない。
5. このようなパブリッシャーの集まりを絶やさない
今回のDPS終盤において、そこかしこから聞こえて来た感想が、「こんなイベント、かつてなかった。これは、続けていかなくてはいけない」というものだ。いま我々は、業界そのものの生き残りを掛けた厳しい時代に生きている。そんな、いまだからこそ、新しい未来を切り拓くために、一致団結することが大切なのだろう。
なお、この「DIGIDAY PUBLISHING SUMMIT」は、来年2月にも開催することが予定されている。デジタルの世界は、半年もあれば状況が一変するからだ。おそらく、次回のDPSでは、今回「C Channel」社長の森川亮氏や小学館の取締役・大西豊氏に語ってもらった動画コンテンツなどが、さらなる盛り上がりを見せると思われる。ぜひとも楽しみにしてもらいたい。
Written by 長田真
Image from Thinkstock / Getty Images