「DIGIDAY Publishing Summit Kyoto」は6月30日~7月1日に開催された。新聞・出版業界を中心とした国内主要パブリッシャー(媒体社)とデジタル・マーケティング業界のパートナーが集い、パブリッシングの未来について議論を交わした。
「量ではなく質」は、本イベントで交わされたたくさんの議論のうちのひとつ。最初は欧米系媒体社が口火を切ったが、日系媒体社からも異論反論が湧き上がり大きく盛り上がるトピックになった。
はじめて日本で実施された「DIGIDAY PUBLISHING SUMMIT(略称:DPS)」は、去る6月30日~7月1日に京都で開催された。新聞・出版業界を中心とした国内主要パブリッシャー(媒体社)とデジタル・マーケティング業界のパートナーが集い、パブリッシングの未来について議論を交わした。
「量ではなく質」は、本イベントで交わされたたくさんの議論のうちのひとつ。最初は欧米系媒体社が口火を切ったが、日系媒体社からも異論反論が湧き上がり大きく盛り上がるトピックになった。
グローバルにみるとGoogleとFacebookの2社がデジタル広告収益の半分を占め、成長に関しては7割以上を占めている。日本でもコンテンツ流通とそれに伴う広告事業に関しては、ヤフージャパンが高収益型ビジネスを走らせる。Google、Facebook、ヤフージャパンがもつデータは個々の媒体社(広告主、代理店とも)とは規模が異なる。この巨人たちに対して、媒体社には「質」という差別化が必要になる。
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日本経済新聞とファイナンシャル・タイムズ(FT)はともに高所得者層のオーディエンスを有料会員にすることで「質」を確保している。FTは強固なペイウォールによるサブスクリプション(定額制)と広告をミックスしたビジネスモデルを採用している。日本経済新聞電子版担当執行役員の渡辺洋之氏は、テック企業との競争するため、月額4000円を超える「高額」を払う有料会員40万人超の定額制モデルを構築し、700万超のIDを取得していることを誇った。
時間単価:アテンションを通貨に
アテンション(注目)はCPM(インプレッション単価)に失望する媒体社の注目を浴びた。情報量が指数関数的に増大するなかで、人々は1日に24時間しか持っておらず、メディア接触に当てられる可処分時間の取り合いになっている。
CPMはしばしば、数に限りがないことや質が必ずしも担保されなかったこともあり、また世界共通の状況や日本市場特有の状況から、値崩れしやすい。FTのグローバルマーケティング・ディレクターのサシャ・ブナチャン氏は、同社が業界に先んじて導入したCPH(コストパーアワー:時間単価)の有効性を誇った。CPHはビューアビリティ(視認可能性)に加えて、ユーザーがマウスを動かしたり、スクロールしたりするアクティブ性の担保が必要になるなど、厳格な運用が基本になるが、在庫価格を押し上げるのに役立っているという。
ビューアビリティは媒体社の不満の種だが、うまく活用できれば、一部の媒体社がもたらす在庫(インベントリー)の無尽蔵な増大に歯止めをかけられる。画面に実際には表示をされなかったり、UXを損ねたりする「悪い在庫」を排除することにつながるはずだ。プレミアムな媒体にとっては、枠の価値を上げる可能性があり悪い話ではない。後はそうやって著しく質が向上し、厳選された在庫に対して、広告主・代理店らが予算を積み増す準備ができているかどうかだろう。
ソフトウェアを売るのも質
「質」は広告商品に関してだけの議論ではない。老舗出版社アトランティック傘下の経済メディア「クォーツ(Quartz)」発行人のジェイ・ラーフ氏は、広告主がスポンサーになったグラフを作成し、エンベット(埋め込み)できる新しい広告商品を開発したと、会期中に明かしている。グラフはクォーツ独自のソフトウェアで生成され、スポンサーのロゴが入る。内容がGDP、不動産価格指数などの硬派なものなので、スポンサーはリテラシーの高い利用者のシェアを期待できる。
デジタルメディアがソフトウェアを販売するなどの傾向は、デジタル化が進んでいる米媒体社では、トレンドとはいかないまでもシグナル(兆候)である、とラーフ氏は説明する。ベンチャーキャピタル支援型の新興パブリッシャーVox mediaは独自製作のコンテンツ管理システム「コーラス(Chorus)」を他媒体に対し、販売し始めた。ワシントンポストはジェフ・ベゾス氏改革の一環で生まれたコンテンツ管理システム「アークパブリッシング(arc publishing)」を含むソフトウェアの販売を狙う。背後では紙事業の収益減が厳しく、今後3年で紙に投じている予算を5億ドル(約500億円)カットするという。
グローバル戦略
「インド、インドネシア、中国は次のマーケットだ」とブルームバーグメディアグループ・マネージングダイレクターのパリー・ラヴィンドラナタン氏は語った。同氏は中国なら微信(Wechat)、インドならWhatApp、豪州ならSnapchatなど、国ごとで支配力のあるアプリへの対応が重要だと強調した。
デジタル広告まわりのエコシステムが膨張し、一方で消費者の接触メディアでは強烈なフラグメンテーションが起きており、収益化しづらい状況にあると指摘。動画化にはブルームバーグTVをさらに拡大すると語った。2Gメインのインドですらもインフラの進歩により動画化しており、サミットの直前に発表された、動画メインのデジタル・メディア「VICELAND」がインド地元最大紙タイムズ社と合弁会社をつくったことを評価している。
なお、今回のイベントを総括して、DIGIDAY[日本版]編集長の長田が、「日本のパブリッシャーが、いますぐ取り組むべき5つの課題:「DPS 2016 KYOTO」を終えて」という記事を執筆している。本記事と合わせて、一読してほしい。
Written by 吉田拓史
Photo by 編集部