広告売上が順調に伸びている時期ならば、パブリッシャーは発行部数の拡大にさほど注力しなくても許される。しかし、そうした時期が過ぎ去ったいま、「エコノミスト(The Economist)」のようなパブリッシャーは、顧客維持戦略にシフトしている。
広告売上が順調に伸びている時期ならば、パブリッシャーは発行部数の拡大にさほど注力しなくても許される。しかし、そうした時期が過ぎ去ったいま、「エコノミスト(The Economist)」のようなパブリッシャーは、顧客維持戦略にシフトしている。
エコノミストは昨年、2020年までに発行部数による利益を倍増するという目標を打ち立てた。この目標を達成するために同社は、発行総数150万部のうち約35万部を占めるデジタルの購読者数を拡大し、さらに購読解約数を減らさなければならない。解約者の穴を埋めるにはコストがかかるからだ。今回のプロジェクトを指揮するのは、エコノミストで顧客体験・製品戦略担当エグゼクティブ・バイスプレジデントを務めるアナ・ローリング氏である。
同氏は今回のプロジェクトについて次のように語っている。「3年ほど前に戦略の見直しに取りかかり、発行部数と購読者数の拡大に一層重点を置くようになった。ただし目標は数そのものの拡大ではなく、それによる利益の拡大だ。以前ももちろん利益目標があったが、どちらかというと、部数と読者を増やして広告売上を底上げすることが主眼だった」。
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購読頻度がカギ
ローリング氏には直属の部下が32人おり、現在はそのうち半数の16人が購読者の維持に注力している。エコノミストを1年間にわたって購読した人は、その後も購読を続ける傾向が高いという。ただし、そのあいだには、16人のスタッフによる細やかな営業努力が必要だ。たとえば彼らは、購読者が解約しそうなタイミングで、適切な回数のコンタクトを取らなければならない。購読者がクレジットカード払いで自動更新を選択していれば4回、自動更新を選択していなければ12回がちょうどよいコンタクト回数だという。また、更新率を高めるために、どの程度の頻度で読んでもらうのが最適かを見極めることも重要な仕事だ。
購読者の維持に重点を置きはじめたエコノミストでは、特に後者の「読者の読む頻度」という問題に注目するようになった。そこで同社はまず、購読開始時の顧客体験の改善をめざした。現在では、新規購読者は編集者からの「ウェルカムメール」のほかに、エコノミストの紹介動画を受け取ることになっている。
さらに、主力モバイルアプリのプロモーションにも力を入れるようになった。アプリユーザーのほうが更新率が高く、ロイヤリティの高いユーザーを囲い込むことができているからだ。ローリング氏は具体的な数字は明かさなかったが、テスト的に新規購読者へのウェルカムメールと紹介動画の配信をはじめたところ、味気ない購読受付確認だけを行った場合と比較して、1ケタ台の維持率の改善が見られたと述べている。
部門間コラボも促進
購読者収益を重視した結果、これまで分断されていた部門間のコラボレーションも進みつつある。ローリング氏によるとエコノミストでは、アプリ、Webサイト、ニュースレターという3つのプロジェクトで、部門横断的な3つのチームが協働しているという。各チームには編集、製品、マーケティング、アナリティクス、デザインのエキスパートが参加。アプリのデザインを見直し、ユーザーにより定期的な利用を促すなどの施策に従事しているそうだ。
たとえば、エコノミストの全記事を毎週更新されるタイプのアプリに統合するという施策を検討中だ。これにより、このアプリのユーザーは、Webサイトはもちろん、毎日更新されるエコノミスト・エスプレッソに掲載される最新ニュースも見逃す心配がなくなる。
モバイルアプリの改良に加え、エコノミストは毎日・毎週発行のニュースレターへのテコ入れも活用し、購読者の維持を狙っている。この課題については、熱心な読者の多さが有利に働くだろう。とはいえ、定期的に読む習慣を読者に身につけてもらうのは簡単ではない。現在同社は、毎週木曜のエコノミスト発行日と、時間のある週末の両方に読んでもらえるよう、ニュースレターを利用して読者を促す方法を模索中だ。「『エコノミスト』はボリュームがある。その点が購読者を維持するうえで障壁になっているようだ」と、ローリング氏は分析している。
LUCIA MOSES(原文 / 訳:SI Japan)