英国の情報コミッショナー局(IOC)は6月、アドテク業界に対して、RTBを介するプログラマティック広告取引における、個人情報の現行の取り扱いがコンプライアンス違反であると通達。さらに9月、同機関のアリ・シャー氏はイベントで、アドテク企業に当局への歩み寄りを促し、そうすれば罰金は科さないと約束した
一般データ保護規則(GDPR)のコンプライアンスを、いまだ軽く考えているアドテク勢もいるようだが、タイムリミットは刻々と迫っている。
英国の個人情報保護監督機関である情報コミッショナー局(IOC)は6月、アドテク業界に対して、オープンエクスチェンジ市場における、とりわけリアルタイム入札(RTB)を介するプログラマティック広告取引について、個人情報の現行の取り扱いがコンプライアンス違反である旨を通達した。同局は企業らに対して、6カ月の猶予を与え、問題の改善を要請した。その期日まで約4カ月となっている。
ExchangeWire(エクスチェンジ・ワイアー)が、ロンドンで9月9日に開催したATSカンファレンスにおいて、ICOテクノロジー&ポリシー部門のトップを務めるアリ・シャー氏は、いまだ「正当な利益」の例外を主張するアドテク企業に対し、当局への歩み寄りを促し、そうすれば罰金は科さないと約束した――ただし、あと4カ月以内に歩み寄れば、の話だ。
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RTBでの現行のデータ乱用を非難してアドテク業界に波紋を呼んだ先の報告書について、シャー氏はICOによる広範な調査の結果に基づくものである旨を強調。オープンエクスチェンジ市場におけるプログラマティック広告取引の場合、アドテク企業に「正当な利益」の例外は適用されない点を明確にした。報告書には、改善が必要なアドテク企業が依然数多く存在する事実をICOが把握している点も明記されていた。「正当な利益」の例外が適用されるとの確信の下でRTBを利用しているアドテク企業は、ICOに対してその旨を説明する必要があると、シャー氏は語った。
「もしも[残り4カ月以内に]有意義な変化が見られない場合、我々は持てる執行力をフルに活用することになると断言しなければ、私は職務怠慢のそしりを免れない」と、シャー氏はATSロンドンの壇上で語った。
本気を伺わせるICO
GDPRの下、ICOには違法行為を働く企業に対し、最高2000万ユーロ(約24億円)またはグローバル収益の4%のいずれか高額な方を科す権力が与えられている。実際、ICOはすでにGDPR違反でブリティッシュ・エアウェイズ(British Airways)とマリオット・インターナショナル(Marriott International)に罰金を科す用意があることを発表しており、金額はそれぞれ1億8300万ポンド(約244億円)と9900万ポンド(約133億円)と言われている。ICOはすでに、以前のデータ保護法における最高額である50万ポンド(約6600万円)をFacebookに科してもいる。
シャー氏はまた、企業が消費者に有用なツールとサービスを提供しているなか、業界の技術革新を妨げる意図はICOにはないとも言い添えている。ICO実施による広範な消費者リサーチでは、協力者2000人のうち63%がパーソナライズド広告に個人データが使われることに問題は感じないと回答した。ところが、自身のデータが――広告サプライチェーンのなかで複数のデジタル広告パートナーによって――具体的にどう利用されているのかを伝えたところ、その数は半減したと、シャー氏は語った。
氏はさらに、ICOがこの数年間で新たに数百名を加えて技術的専門知識を強化した点を強調し、現在のスタッフ総数は約700名に上ると語った。ICOは現在、全世界のデータ保護当局(DPA)のなかでも屈指の規模であり、シャー氏によれば、これは当局が個人データの保護を、そして企業が自社利益のためにこれを乱用しているか否かの見極めをそれだけ重要視している事実の表れだという。
「もはや様子をうかがっている時ではない。猶予の時間は消え失せようとしている」と、氏は語った。
「満ち潮は近い」
今年11月、6カ月の期限が切れる直前、ICOはパブリッシャー、アドテクベンダー、エージェンシー、広告主に向けたフォーラムを開催し、企業の改善努力が、とくにRTBに関し、コンプライアンス違反か否かを判断する基準について説明する。
ただし、ICOにもするべきことはまだあるようだ。上記の発言前、シャー氏が件のICO報告書を読んだかどうか会場の人々に訊ねたところ、半数しか手を上げなかった。しかも、シャー氏が壇上に上がるなか、無視できない数の人々が会場を後にしたという皮肉な事実も、何人かの参加者によってツイートされている。
とはいえ、同カンファレンスに出席した他のアドテクベンダー幹部らに話を伺うなか、ICOが対話にオープンな姿勢を示しており、釈明の機会が与えられると知ったことによる安堵の思いは確かに感じられた。そこには前提として、ICOはデジタル広告業界が至極複雑である事実を完全には理解していない、という彼らの強い思いがある。
「満ち潮は近い、あと半年だ」と、広告認証企業ザ・メディア・トラスト(The Media Trust)のコマーシャルディレクター、ウィル・キング氏は同カンファレンスでのちに語った。
Jessica Davies(原文 / 訳:SI Japan)