ディスカバリーのOTT「 Dplay 」、日本展開が本格化:ニッチの深化が切り札

ディスカバリーがヨーロッパを中心に展開する独自のストリーミングサービス「Dplay」。日本版は2019年9月9日にローンチされ、2020年初旬の有料化を予定しているという。動画配信の手段は複数存在するなか、ディスカバリーはなぜ自社サービスをローンチしたのか。そこにはデジタルシフトを進めるディスカバリーの戦略と、コンテンツに対する自信がある。

「日本においてストリーミングサービスの浸透率は高くなく、15%にも満たない」と、ディスカバリー・ジャパンのプロダクト戦略&マーケティングディレクターであるジェニー・ヤン氏は続ける。「だからこそ、市場に大きな成長の余地があると感じている。そのなかでディスカバリーができることはなにか。自分たちにしかない強みをもって勝ち抜きたいと考えている」。

Dplayでコンテンツの価値を最大化する

ディスカバリーはグローバルでDplayを中心としより直接的にオーディエンスにコンテンツを届ける、いわばD2C的な取り組みを強化している。30〜40代は有料TV放送に加入せず、そもそもテレビ視聴時間も低下しつつある。代わって視聴されているのはYouTubeやSNSなどデジタルを活用したサービスであり、こうした層にリーチするためにはOTTの活用が不可欠だ。すでにHuluやNetflixなどの海外サービスをはじめ、AbemaTVやTVerなどOTTプラットフォームは国内にも多数存在する。ディスカバリー・ジャパン自体、AbemaTVやYoutubeを活用しているが、なぜ自社サービスを展開したのか。

「ディスカバリーの強みを活かすために必要だった」と、ヤン氏は指摘する。「多くのOTTは基本的に幅広いオーディエンスにターゲティングするため、映画やドラマなどのエンターテインメント、フィクションがメインコンテンツとなっている。一方でディスカバリーは近年人気のエド・スタフォードのサバイバルシリーズなどファクチュアルなコンテンツが強みだ。他社サービスの中ではディスカバリーのコンテンツは埋没してしまう」。

ディスカバリーが擁するコアなカテゴリーとファンの存在も無視できない。Dplay上では「サバイバル」「クルマ・バイク」「アニマル」「宇宙」など15のカテゴリーが表示されるが、ヤン氏はそれら一つひとつが別々のいわば異なる「趣味」のコミュニティであると考えているという。「例えばクルマ・バイクのファンたちは番組を見て楽しむだけでなく、番組イベントに参加したり番組で取り上げられたパーツを購入したりする。各コミュニティに『watch』だけでなく『do』を提供できるのがディスカバリーのコンテンツの深みでもあるが、他社プラットフォームそうしたフレキシビリティは発揮しづらい」。

コンテンツドリブンでニーズを生み出す

ディープで細分化されたコンテンツはスケールや収益面での懸念があるように思えるが、ヤン氏は高いクオリティのコンテンツを提供し続けていくことで、むしろニーズは拡大すると指摘する。一例として挙げられたのが、現在YouTubeなどでブームになっているサバイバルカテゴリーだ。もともとサバイバルはディスカバリー内でもニッチなジャンルで、有料TV放送では「あまり視聴率が取れないコンテンツ」だったという。

そこでYouTubeに公開したところ、若いオーディエンスを中心にグローバルで人気コンテンツ化。今や「サバイバル動画」というジャンルをディスカバリーが確立したとすら見なされるほどになった。「面白く質の高いコンテンツを作り提供することで、サバイバルファンではなかったオーディエンスを獲得していった。コンテンツによってジャンルを切り開いていくことができると確信している」。

また、一見ニッチで小さいように見えるカテゴリーでも、実際にはかなりの規模感を持っている。『名車再生! クラシックカー・ディーラーズ』などコアファンを唸らせるコンテンツを有する車カテゴリーの場合、毎週必ず視聴しているユーザーは日本国内だけでも約200万人に達するという。「これだけの規模のマチュアな視聴者に向けて、クオリティの高いプレミアムコンテンツを出しているコンテンツプロバイダーは日本国内で他にはいないと自負している」。

データに基づいたコンテンツセレクト

さらにヤン氏がDplayの特徴として挙げるのが、エンゲージメントの高さだ。リピート率や視聴時間は、ローンチ以来伸長し続けているという。エンゲージメントを高めるうえでは、ファンにとって面白いコンテンツを提供することが重要だが、「釣りが好きな人たちに釣りのコンテンツを提供すればいい、という単純な話ではない」とヤン氏は続ける。「釣りの中にも海釣りや川釣り、さまざまなサブジャンルが存在する。釣りのコンテンツを提供するだけでは大まかな提案にすぎず、より細分化されたニーズを把握する必要がある」。

そのために不可欠なのが、データによるトレンドの分析だ。Dplayの視聴データ分析に加え、他のプラットフォームのコンテンツ状況も調査し、世の中のトレンドとDplayの傾向の比較を実施する。「誰が何をどのくらい視聴しているのか、今もっとも面白いと思われているものは何か。マーケティングチームとコンテンツ編成チームが協力し、Dplayの各カテゴリーごとにオーディエンスの特性を細部まで把握して、常に最適なコンテンツが提供できるような体制を構築している」。

これにより、数十年に渡って蓄積されてきたディスカバリーのコンテンツの最大活用にも繋がっている。「ディスカバリーのコンテンツはアメリカで制作されたものが中心で、日本を含め各国のドメスティックなコンテンツは少ない。しかし、オーディエンスのニーズを把握することで、約30万時間のアーカイブと年間8000時間の新作コンテンツから各マーケットにフィットしているものを選択することができる」。グローバルコンテンツの制作コストは地上波コンテンツを上回るが、全世界で共有することによって高いコストパファーマンスを実現しているという。

コンテンツの性質上、Dplayのオーディエンスの半数以上は25〜45歳の男性だが、重視すべきはデモグラフィックではなくサイコグラフィックだとヤン氏は語る。「車が好きなオーディエンスには20代もいれば50代もおり、男女も関係ない。他のカテゴリでも同様だ。広告主への提案におけるデータの裏付けやボリュームゾーンの把握にデモグラフィックも必要だが、ディスカバリーはあくまでコンテンツファースト。サイコグラフィックを正確に把握し、ファンに対する理解を深めている」。ディスカバリーのケイパビリティを最大化し、ファーストパーティデータに基づく広告提案を行うためにも、Dplayという自社プラットフォームが果たす役割は大きい。「より最適なオーディエンスによりブランドを理解してもらえる手段として、広告主にもDplayをアピールしていきたい」。

テレビ配信の終焉、ではない

Dplayの登場によって、ディスカバリーがテレビ放送やYouTube、他OTTプラットフォームでの配信のあり方を見直す可能性はあるのか。「Dplayはあくまでデジタル世代に向けたサービスとして展開したいと考えている。有料テレビ放送や他サービスでの配信を停止し、すべてをDplayに集約するような考えはない」とヤン氏は語る。「チャンネルによってリーチできる層は異なるため、多様な視聴手段を確保しておくことには意味がある」。

YouTubeや衛星放送、AbemaTVなど無料視聴が可能なサービスは、コンテンツマーケティングの場として活用する意図もあるという。「無料で公開されているコンテンツはごく一部。シーズン全体や他エピソードを視聴したければ、Dplayに登録する必要がある。また、Dplayをローンチしたことで日本で展開されるタイトルが増え、YouTubeなどに配信するコンテンツも増加した。新たなニーズやファンを開拓するためにも、Dplay以外のプラットフォームも引き続き運用していきたい」。

Written by 分島翔平