収益拡大を続ける、稀有な独立サイト「デジタルトレンズ」:その成功の秘訣とは?

創設12年のテックニュース・レビューサイト「デジタルトレンズ(Digital Trends)」は、採算性のある独立メディアだが、多様化を促す圧力と無縁ではない。同サイトは、大規模な新規採用を行い、動画、イベント、eコマース事業の拡大を図っている。

2年前にコンデナスト(Conde Nast)が1億2000万ドル(約130億円)で買収を画策したとされるが、デジタルトレンズは現在も独立企業だ。ほかのパブリッシャーがFacebookを利用した手軽な成長に飛びつくなか、検索主体で着実に実績を伸ばしてきた(シミラーウェブ[SimilarWeb]によれば、デジタルトレンズのトラフィックの84%が検索経由)。コムスコア(comScore)によれば、月間ユーザー数は1150万人で、このうち4分の3を18~24歳の層が占める。

「我々は、これまでも優秀だったチームに新たな複数のキーパーソンを迎え、ビジネスを大きく飛躍させる準備をしている」と、オレゴン州ポートランドに拠点をおくデジタルトレンズの共同創業者兼CEO、イアン・ベル氏はいう。「昨年、多くの企業が我々に買収話をもちかけ、傘下に入れば何ができるかを提案してきたが、我々の価値観に合うものはひとつもなかった。売却はしないと決断してから、我々は腰を据えて、同ジャンルのパブリッシャー各社が行っている多様化と成長の戦略を分析し、それらを我々独自の視点から捉えなおしてきた。どうすれば、オーディエンスとブランドパートナーにとって価値があり、我々のスタイルにも合った形で、イベント開催や動画制作、eコマースの拡大を行えるだろう?」。

9月4日、新たにFacebook元幹部のボブ・グルーターズ氏が、デジタルトレンズの最高売上責任者に就任し、広告主からの評価を高めるという使命を担うことが発表された。ユニビジョン(Univision)、MTV、ニューヨーカー(The New Yorker)などで役職を歴任し、この4年間はFacebookで新興テクノロジー・エンターテインメント担当営業責任者を務めてきたグルーターズ氏にとっては、パブリッシャー側への帰還となる。

彼以外に、今年新たにデジタルトレンズの幹部に就任した人物としては、最高執行責任者(COO)のクリス・カールソン氏、ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)傘下の家電レビューサイト「ワイヤーカッター(Wirecutter)」から移ったコマース担当シニアディレクターのリンダ・マン氏、コンプレックスメディア(Complex Media)から移ったSEOディレクターのレイ・フィリップ氏がいる。

ライブ動画を拡大

現在、デジタルトレンズがもっとも力を入れているのが動画とイベントだ。統合・コンテンツマーケティング担当バイスプレジデントのピート・ジェイコブズ氏によれば、同社はライブポッドキャストやCESなどのイベントの動画中継が好評だったため、ライブ動画の拡大を決めたという。

そのために、ソーシャルメディア担当部署からライブ動画担当部署に複数の社員を移し、十数名の規模に拡大。10月には、毎日更新の3分番組「DTデイリー(DT Daily)」を45分に拡大して放送を開始する予定だ。内容は、その日のニュース、製品の開封動画、テック業界の有名人へのインタビューなど。太平洋標準時の午前9時から毎日、スポンサーの提供により放送される予定で、Facebookライブ、Twitch、YouTubeなどのライブ動画視聴プラットフォームで視聴できる。また、自社サイト上でもライブ動画を配信し、販売も行う予定だ。

さらにポッドキャストについては、「トレンズ・ウィズ・ベネフィッツ(Trends with Benefits)」や、男性向けライフスタイルサイト「マニュアル(The Manual)」で展開している「ビアード・ブーズ・アンド・ベーコン(Beards, Booze, and Bacon)」など、現在3つを放送中だが、2019年の第1四半期までに総数を10まで増やす。最終的には、動画とポッドキャストを合わせて、毎日4~5時間のライブコンテンツを放送する体制を作るのが目標だ。

Twitchに大きな期待

ジェイコブズ氏は、ライブ動画の可能性にもっとも関心を抱いているという。ライブ動画は、オンデマンドに比べて視聴時間が長い傾向にあり、デジタルトレンズが放送したAmazonプライムデー特番の平均視聴時間は13分だったという。チューブラーラボ(Tubular Labs)によれば、デジタルトレンズの動画の視聴プラットフォームはYouTubeが主体(7月の再生数は400万回)で、Facebookがこれに続く(60万5000回)。

一方で、Amazon傘下のTwitchでの視聴数も伸びていて、同プラットフォームにはBuzzfeedやワシントン・ポスト(The Washinfton Post)など他のパブリッシャーも、ライブストリーミングを視聴する若いオーディエンスを狙って注目しはじめている。

「我々はプラットフォームにはこだわらない。YouTubeで儲けるつもりはない」と、ジェイコブズ氏はいう。「我々のやっていることに、もっと人々の注目を集めたい。ライブコンテンツに関していえば、なんといっても、すべてがリアルタイムで展開するのが強みだ。私はゲーム業界出身なので、Twitchのエンゲージメントの強さはよく知っている。ソーシャルメディアのモデルでは、これまでずっと、『これこれについて投稿したから、誰かコメントしてくれるといいな』という姿勢だった。だが究極的には、オーディエンスとのつながりがものを言う」。

イベントにも注力

オーディエンスとの交流への関心は、イベント開催にもつながっている。2016年以降、デジタルトレンズは「テックポップ(TechPop)」と銘打ったイベントを数回開催してきた。テック好きの人々のための、最新ガジェットを無料で試せるイベントだ。2017年7月にニューヨークで開催されたテックポップには1000人が訪れ、会場となったナイトクラブで、ドローンや3Dプリンター、VRゴーグルを体験した。招待状は数千人に送られた模様だ。この評判をもとに、デジタルトレンズは現在、複数都市開催に向けてスポンサーと交渉している。

「ここポートランドでは、これまで3つの大規模イベントが、数時間のうちに入場制限をかけなくてはいけなくなるほどの人気だった」と、ジェイコブズ氏。「人々は製品にじかに触れてみたいだけでなく、我々の編集部スタッフと交流したいと思っているのだ」

Lucia Moses (原文 / 訳:ガリレオ)