メディア業界に一目置かれる、海外メディア情報専門ブログ「メディアの輪郭」の著者で、講談社「現代ビジネス」の編集者でもある佐藤慶一さんによる寄稿コラム。
ロイターが2015年6月に発表した「Digital News Report 2015」を中心に、アメリカとグローバルのニュース消費に関するデータを紹介。ニュース消費に対する多面的なデータをもとに、モバイルシフトへの傾向と課金制の現状を解説する。
この記事は、メディア業界に一目置かれる、海外メディア情報専門ブログ「メディアの輪郭」の著者で、講談社「現代ビジネス」の編集者でもある佐藤慶一さんによる寄稿です。
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海外では毎年決まった時期に、研究・調査機関がメディアやジャーナリズムに関するレポートを公開しています。たとえば、ニュースメディアについてはピューリサーチセンターの「State of the News Media」、インターネット全体についてはアナリストのメアリー・ミーカーによる「Internet Trends」などが有名ですが、このほかにもたくさんのレポートがあります。ただ、日本で海外のレポートが取り上げられる機会は多くありません。
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そこで今回、Reuters Institute for the Study of Journalismが2015年6月に発表した「Digital News Report 2015」の内容を簡単に紹介したいと思います。このレポートはアメリカ、イギリス、ドイツ、スペイン、イタリア、フランス、アイルランド、デンマーク、フィンランド、ブラジル、日本、オーストラリアという12カ国2万人を対象に実施したものです(日本のサンプル数は2141名)。
4つの章立てで展開されるこのレポートは、国別の分析、ニュースアクセスと消費、ニュースへの課金、オンラインニュースの詳細(プラットフォームや動画、SNSなど)について、現状を把握することができます。このコラムでは「アメリカを中心としたニュースメディアやニュース消費の現状」と「ニュースへの課金」についてピックアップしたいと思います。
スマホユーザーの7割が、ニュースアプリを利用
昨年の「ニューヨーク・タイムズ」のレポート、「イノベーション」からも伝わる伝統メディアの危機感。そして、「BuzzFeed」「Vice Media」「Vox Media」「ビジネスインサイダー」など、大きくなる新興メディアの存在感。新旧どちらも活発かつ急変しているのがアメリカです。
「Digital News Report 2015」でも、グローバルでいかに読者獲得やブランド認知をしていくのか。アメリカでその戦いが激しくなっていることが取り上げられています。「Huffington Post」が15カ国以上に展開、「BuzzFeed」がアメリカとイギリスで読者数を2倍にしているなか、「Yahoo! News」のアメリカでのリーチが3分の1減少――。それでも毎週見るニュースメディアのシェアトップは「Yahoo! News」(23%)、2位は「Huffington Post」(22%)、そして「FOXニュース」が続く(17%)など、モバイルシフトが進み影響力のあるプラットフォームが栄えるなかで、新旧メディアが入り混じっています。
(出典:スマートフォンでのニュース消費の推移2012-2015)
この調査のなかで、オンラインニュースにとって『決定的なデバイス』と紹介されているスマートフォン。アメリカでは利用率が44%、2014年の31%から大きく伸びています。スマホユーザー全体のうち7割がニュースアプリをダウンロードしている一方、週に1度でも利用する人は、そのたった3分の1という現状もあるとのこと。このことは、ニュースを知る場合、ソーシャルメディアやメールにおけるリンクからというのが多いことを示唆しているのでないかと、レポートでは推測しています。
(出典:国別のトップニュースアプリ)
アメリカで最も利用されているのは、「FOXニュース」のアプリです(スマートフォン利用者のうち14%が利用)。ドイツやオーストラリアでもそれぞれのTOPニュースアプリの利用率は15%前後ですが、イギリスのみ結果が大きく異なっていました。
スマートフォン利用者の半数(51%)がBBCのアプリを利用しているのです。BBCのウェブサイトに集まるアクセスのうちスマートフォンとタブレットの合計が65%にもなり、この結果を見ると伝統メディアであってもモバイルシフトは必須といえるでしょう。
ニュース消費は、オンラインとテレビが2強
続いて、アメリカにおけるニュース消費のソース振り分けについて。「メインのソースはどれか」と聞くと、当然のごとくオンラインの43%とテレビの40%が抜きん出ており、次いでソーシャルが11%。紙媒体はたった5%という現状です。
メインのニュースソースについて、オンライン、ソーシャルとテレビが対極するようにして、若者と年配のニュース消費媒体の振り分けを表しています。
なお、この調査ではニュース取得のためにソーシャルメディアを使う割合も公開されていました。トップはFacebook。ニュース取得のために利用する人が41%、同社グループのWhatsAppの9%を加えると50%になります。YouTubeの18%、Twitterの11%を大きく離しています。
そもそものニュースを見るモチベーションについては、「世界でなにが起きているか知りたい(84%)」がトップ、意外にも「ひまつぶし(31%)」との回答は最下位でした。(出典:ニュースを見るモチベーションに関するチャート)
(出典:オンラインニュースの流入のしかた)
人々はどのようにしてオンラインニュースに流入するのか。アメリカでは検索(40%)、直接訪問(36%)、ソーシャルメディア(35%)、メール(25%)、通知・アラート(13%)との順になっています(複数回答での結果)。特にアメリカではこの1年で「(プッシュ)通知」が倍増(6%~13%と数字はわずかですが)。この点も押さえたい注目動向でしょう。
この調査ではほかにも、ニュースが読まれる時間帯や読まれるニュースの種類、信頼できるメディアなど、さまざまな切り口でニュースメディアやニュース消費について知ることができます。最後にオンラインニュースのひとつの収益源である課金について触れたいと思います。
ペイウォール以外の可能性が見えてきた、ニュースの課金
「『ニューヨーク・タイムズ』の有料購読者が100万人を超えた」というニュースが記憶に新しいですが、今回の調査ではアメリカでは11%、イギリスでは6%、日本は10%がオンラインニュースにお金を払っているとの結果でした。各国の現状を見ると、オンラインニュースへの課金は毎月10ドルが相場のようです。対照的に紙の新聞を買うのは、日本がトップで61%、アメリカは35%となっています。
さらに踏み込んで課金の種類別(継続的もしくは一回限り)についても結果が出ています。全体的に月額課金などによる継続的な課金が60〜70%、一回限りが30〜40%というデータ。フランスやスペイン、イタリアなどはどちらも50%前後です。ヨーロッパでいえばオランダの「Blendle」など記事ごとに課金するタイプのプラットフォームも普及しはじめており、ペイウォール以外の可能性がありえるのかもしれません。
ちなみにアメリカのニュースサイトではペイウォールを導入するメディアが、昨年時点で500以上ともいわれています(「Nieman Lab」参照)。しかしながら、どんな価格でも課金をしない層はアメリカで67%、各国6〜7割を占めていることからも課金に関する現状はまだまだ厳しいようです。
海外では課金と広告ブロックはセットで語られることが多くあります。広告ブロックの利用者が増えればそれだけバナー広告を通じた収益に期待できないからです。実際アメリカでは47%が定期的に広告ブロックソフトを利用しているとのことです。
2015年版のAd Blocking Reportによれば、アメリカにおける広告ブロックソフトの月間アクティブユーザーが4500万人にのぼるとされています。iOS 9における広告ブロック機能について議論が盛んですが、メディア関係者は気に留めておくべきトピックでしょう。
スマホシフトが進む、ニュース消費
近年、スマートフォンにおけるニュース(消費)は、Appleの「Apple News」やFacebookの「Instant Articles」、そしてSnapchatの「Discover」など、各社が力を入れている領域となっているのは明らかです。TwitterとGoogleが共働して「Instant Articles」のようなことをやるという報道もあれば、Amazonは「Amazon Prime」会員に対してワシントン・ポストのデジタル版を6カ月無料で読めるようにしました。
また、「BuzzFeed」や「Vice Media」、「Vox Media」をはじめ、多くの新興メディアが動画に注力しています。これが意味するのは、テレビや新聞を観て過ごす時間が減り、スマートフォンのなかで時間を消費することがまだまだ増えるということです。そうなると、広告宣伝費もテレビからスマーフォンへと徐々にシフトしていくでしょう。今後のニュース消費の行方と各社のアプローチから目が離せません。
written by 佐藤慶一
photo by Thinkstock / Getty Images