デジタル動画ネットワークのブラットTV(Brat TV)の売上は、YouTubeチャンネルで広告の直販を開始してから、3倍以上になっている。そこでブラットTVは2019年、自社の販売チームを立ち上げた。いまのところまだ黒字には至っていないが、来年の売上は2500万ドル(約27.3億円)に増加すると予想している。
デジタル動画ネットワークのブラットTV(Brat TV)の売上は、YouTubeチャンネルで広告の直販を開始してから、3倍以上になっている。
YouTubeで広告を販売するようになったブラットTVは2019年(同社の取り分は45%)、自社の販売チームを立ち上げた。ブラットTVの共同創業者ロブ・フィッシュマン氏によれば、同社の2019年の売り上げは、2018年の300万ドル(約3.3億円)から、すでに1000万ドル(約11億円)を突破しているという。この売上の大部分は、自社の販売チームが販売した広告によるものであると、同氏は語る(ブラットTVは商品の販売も行っており、同社のヒット番組「チキンガールズ[Chicken Girls]」の関連本も発売している)。
いまのところまだ黒字には至っていない同社だが、従来型テレビでの販売経験のあるスタッフが販売チームに加わることにより、来年の売上は2500万ドル(約27.3億円)に増加すると予想している。
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YouTubeの販売権の影響
ブラットTVの売上成長は、YouTubeの販売権を取得することがどれほど大きな影響を事業に及ぼしうるかを示すシグナルだ。同社は「チキンガールズ」や「サニーサイドアップ(Sunnyside Up)」といった(台本がある)ティーン向け番組を制作しており、1分あたりおよそ3500ドル(約38万円)の制作費をかけている。
「広告売上が増えるにしたがって、制作数や番組数も増やしている」とフィッシュマン氏は語る。同氏によれば、ブラットTVは2019年、長編動画2本と番組18シーズン(2018年は12シーズン)をリリースしており、その数は来年にはさらに増えるという。
チューブラーラボ(Tubular Labs)のデータでは、ブラットTVは2019年11月、YouTubeで2370万回の視聴回数を獲得している。その数字は2018年11月の3180万回から下がっている。この視聴回数は、ブラットTVが毎月アップロードする動画の本数(番組シーズンの開始・終了に合わせて変動)に応じて上下しているようだ。チューブラーラボによると、この1年間については、同社の動画アップロード数は3月の26本がピークで、視聴回数も同月の4360万回がピークだった。反対に数字が底をついたのは11月で、アップロード数が13本、視聴回数ももっとも少なかった。
小規模企業が抱えるジレンマ
ブラットTVは通常、YouTubeインベントリー(在庫)を広範な契約に包括している。これらの契約には、動画と一緒に表示される広告として流せる、同社番組のタレントをフィーチャーしたスポンサードポストが含まれている。これまでに同社と取引してきた広告主には、マース・リグレー(Mars Wrigley)やサブウェイ(Subway)、アディダス(Adidas)、ユニバーサル・ピクチャーズ(Universal Pictures)、ディズニー(Disney)などがいる。「我々の平均支出は50万ドル(約5500万円)超だ」と、ブラットTV共同創業者のダレン・ラッチマン氏は語る。
YouTubeはこれまで、小規模な独立系YouTubeチャンネルが独自の広告インベントリーを販売できるようにすることに、やや財布のひもがかたかった。コンデナスト(Cond Nast)やバイアコム(Viacom)などのメディア企業や、スタジオ71(Studio71)などの大手デジタル動画ネットワークは、販売権を与えられてきた。一方、ブラットTVなどの小規模企業はこれまで、売上の55%と引き換えに、YouTubeに頼って広告を販売せざるをえなかった。
YouTubeはこれら独立系番組制作者に、大手は「広告主をサポートするための広告インフラを持っている」「独立系チャンネルはブランドセーフティのモニタリングが困難だ」といってきたと、販売権を持たない某チャンネルの幹部(匿名)は語る。
初期においては、小規模チャンネルはYouTubeに依存して広告を販売することを問題にしない。たいていは、広告販売を担当する販売チームが社内にいないからだ。だが、YouTubeと独立系チャンネル間の軋轢の大きな火種となっているのが販売権だ。ブラットTVが過去に行ってきたように、これらのチャンネルも独自に取引を行い、スポンサード動画を制作できるようになった。その一方で、広告販売を管理できなければ、制作費をカバーするのに十分な売上を動画によって生み出すことが困難になるおそれもある。「YouTubeのベースライン販売数の恩恵を受けている場合、独立系チャンネルが理にかなったマネタイゼーションを実現するのは本当に難しい」と某チャンネルの幹部は語る。
広告主たちの思惑とその対応
広告主もまた、メディア企業がYouTubeインベトリーを自社管理できる状態を好む。YouTubeを介した広告購入により、広告主は同プラットフォーム上にいる多くの人々により簡単にリーチできると、某エージェンシー幹部は語る。それに対して、パブリッシャーから広告を直接購入する場合は、広告主は自社広告が流れる動画を管理しやすくなり、それについてのインサイトも得やすくなるという。
ブラットTVは、2020年の前半に販売チームの規模を2倍にすることをめざしている。「我々が大きな関心を持っているのは、テレビのセラーだ。テレビは落ち目だが、広告主の需要はそうではないからだ」とラッチマン氏は語る。
ブラットTVの販売チームは現在、4人のメンバーで構成されている。それぞれが、TwitterやSnapchat(スナップチャット)などのデジタルプラットフォームの出身だ。その主な理由は、フィッシュマン氏とラッチマン氏もデジタル出身だからだ。両氏は2015年2月にインフルエンサーマーケティング企業のニッチ(Niche)をTwitterに売却、その後退職して2017年3月にブラットTVを立ち上げた。
テレビ広告主への販売経験を持つ人材で販売チームを固めれば、ブラットTVはテレビ広告主の言葉でスムーズに商談を成立させられるようになるだろう。「セラーにテレビのバックグラウンドがあれば、ブラットTVが提供できるインクリメンタルリーチやプライシング比較などについて話し合うことができる。とはいえ、従来型テレビのバックグラウンドを持っていることがマストではない」と、あるエージェンシー幹部は語る。同幹部によれば、カスタムコンテンツプログラムなどの広告機会(ブラットTVは、従来型広告プレイスメントや番組スポンサーシップなどに加えて、これも販売している)は、よりデジタル重視のピッチとして考えられているという。
Tim Peterson (原文 / 訳:ガリレオ)