2018年のトレンドは、早い段階で決まってしまった。Facebookが1月初め、ニュースフィードでニュースコンテンツの優先順位を下げると発表。つまり、事実上ニュースパブリッシャーと手を切る決断を下したのだ。もっとも、これは驚くべき話ではなかった。ーー米DIGIDAY編集長ブライアン・モリッシーによるコラム。
2018年のトレンドは、早い段階で決まってしまった。Facebookが1月初め、ラスベガスで開催されたメディアとテックの年次イベントCES(コンシューマー・エレクトロニクスショー)で、パブリッシャー向けのニュースを発表したのだ。それはニュースフィードでニュースコンテンツの優先順位を下げるというものだった。つまり、事実上ニュースパブリッシャーと手を切る決断を下したのだ。もっとも、これは驚くべき話ではなかった。米DIGIDAYは2017年の予測記事でこうなる可能性を指摘していた。それでも、この決定は大きな一撃となった。あるパブリッシャー幹部は米DIGIDAYに対し、「希望が失われていく」と語っていた。
しかも、Facebookの施策はアルゴリズムの変更にとどまらなかった。同社が社会や政治におよぼす影響に対する監視の目が厳しくなるなか、同社の戦略や優先順位は目まぐるしく変化したのだ。その結果、2018年にはパブリッシャー業界のあちこちに屍が残されることになる。Facebookのおかげでほぼ一夜にして5000万人のオーディエンスを獲得し、飛ぶ鳥を落とす勢いだったリトル・シングス(LittleThings)は、Facebookのアルゴリズム変更からわずか1カ月で閉鎖に追い込まれた。それ以降、Facebookに大きく依存していたパブリッシャーの多くが、倒れてしまったり、大きな苦境に立たされたりすることになった。Facebookの恩恵を受けていたことで知られるアップワージー(Upworthy)も、廃業寸前まで追い込まれ、マッシャブル(Mashable)は投げ売りされてしまった。そして最後を飾ったのは、ミレニアル世代向けニュースパブリッシャーのマイク(Mic)だ。崩壊のきっかけは、Facebookが同社との動画配信契約を打ち切ったことだった。
2018年、Facebookを利用してビジネスを拡大できた時代は、明らかに終わった。デジタルメディア企業のなかでもっとも好調で先行きが明るいとされるBuzzFeedでさえ、Facebook(とGoogle)はもっと多くの収益をパブリッシャーに還元すべきだと非難するほどだった。BuzzFeedの創業者兼CEO、ジョナ・ペレッティ氏は、自身もかつては大いにFacebookを頼りにしていたが、時代の変化を察知すると新しい多角的な収益戦略を発表。可能な限りあらゆるところから収益を上げ、Facebookに依存しなくても済むようにしている。「デジタルメディア企業は、自分たちだけを頼りにし、自力で資金を稼ぎ、うまくいくビジネスモデルを構築する方法を見つけ出さなければならない」と、ペレッティ氏は7月にDIGIDAYポッドキャストで述べている。
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デジタルメディア業界の多くの企業にとって、こうした不運ながらも痛みを伴う変革は、受けるべき罰だった。ベンチャーキャピタルからいとも簡単に資金を調達し、Facebookで手軽にクリックを稼ぐことができた時代が、この市場を誤った方向に導いてしまったのだ。ベンチャーキャピタルから資金を獲得し、オーディエンスを増やすためには赤字もいとわないようなライバルがいる状況では、地道な取り組みでメディアビジネスから利益を得ることは困難だった。メディアビジネスは決して簡単なものではない。実際、旅行業界向けメディアのスキフト(Skift)でCEOを務めるラファト・アリ氏は、難しくて当然であり、この状況は2019年も変わらないはずだと述べている。ある軍司令官がイラクの内戦について語ったように、「困難でなかったことは一度たりともない」のだ。
従来型のメディア企業にとっても、状況に違いはない。たとえば、コンデナスト(Condé Nast)は不調を抱えたまま2018年を終えることになった。同社は1億2000万ドル(約132億円)の赤字を出し、業績回復のために社全体の予算を切り詰める計画を発表したCEOは、そのわずか数カ月後に辞職した。タイム社(Time inc.)も総合出版社のメレディス(Meredith)に飲み込まれ、社名としてのタイムはなくなってしまった。そのうえ、雑誌の「タイム(Time)」はマーク・ベニオフ氏(セールスフォース[Salesforce]最高経営責任者)に買収されてしまう。この伝統ある雑誌が、まるでビリオネアの戦利品のような扱いを受けたのだ。また、姉妹雑誌の「フォーチュン(Fortune)」はタイの事業家の手に渡ることになった。
2018年までの数年間に見られたこのような変化の背景にあるのは、10年にわたって続いた異例の経済成長だ。しかし、金利の上昇、貿易戦争、株式市場の下落など、あらゆる出来事が不景気への兆候を示している。資金が経済に流れなくなれば、ただでさえGoogleとFacebookばかりに流れている広告予算が縮小され、デジタルメディア企業は厳しい状況に置かれるだろう。
したがって、2018年の終わり近くになって、ペレッティ氏が観測気球を上げたのも驚くことではない。同氏は、BuzzFeed、グループ・ナイン・メディア(Group Nine Media)、Vice Media、リファイナリー29(Refinery29)といった大手デジタルメディア企業の経営を統合すべきだと述べたのだ。その理由は、FacebookとGoogleに対する交渉力を高めることだと彼は説明した。だが、本当の理由はいたって平凡なものだ。バックオフィスとテック業務を統合すれば、コストの合理化に欠かせない、大胆なコスト(そして従業員)削減を実行できる。もっとも、新興デジタルメディアの競争力が、従来型メディアのような膨大なコストを負担できないことから生まれた事実を考えれば、これは皮肉な話だ。誰もがいつかは大人になるということなのだろう。
とはいえ、新しい年の始まりは、暗い見通しばかりではない。採算を無視してオーディエンスの獲得を目指すだけでなく、堅実なビジネスを構築している企業もあるのだ。彼らは、強固なブランドを築き、さまざまな方法で利益を上げるという基本に忠実な取り組みを確実に行っている。コンプレックスネットワークス(Complex Networks)、ドットダッシュ(Dotdash)、ブリーチャー・レポート(Bleacher Report)、インフォメーション(The Information)といったパブリッシャー、それにニューヨーク・タイムズ(The New York Times)やワシントン・ポスト(The Washington Post)などの老舗企業は、それぞれ独自の方法で明るい未来を目指している。アリ氏が指摘したように、彼らの行く道はこれまでがそうだったように、これからも決して簡単ではない。だが、彼らは黙々と基盤づくりに精を出し、持続可能なビジネスを築き上げてきた。2019年には、その努力がさらに報われることになるだろう。
経営統合
メンズ・ライフスタイルメディアのComplex MediaでCEOを務めるリッチ・アントニエッロ氏は、持続可能なメディアビジネスの構築に懸命に取り組んでいる人たちの声を代弁した。2018年初め、同氏はデジタルメディアの世界を椅子取りゲームになぞらえ、2〜3個の椅子をめぐって数百もの企業が争っていると述べたのだ。この椅子取りゲームを主催していたのはベンチャーキャピタルで、彼らのなかには、こうした素晴らしい時代が永遠に続けばいいのにと冗談を飛ばす者もいた。だが実際には、2018年に入る前から、ベンチャーキャピタルは新しい投資案件への出資を見合わせるようになっていた。今になって行き詰まりを見せているような、肥大化するばかりで利益を生まないメディア企業とのやっかいな取引に、資金を出さなくなっていたのだ。
ペレッティ氏によれば、唯一の解決策は合併することだという。デジタルメディア企業どうしの合併を同氏が呼びかける背景には、BuzzFeedやVox Mediaに出資したコムキャスト(Comcast)、Vice Mediaに出資したディズニー(Disny)、グループ・ナイン・メディアを買収したディスカバリー(Discovery)、リファイナリー29に出資したターナー(Turner)など、明らかに戦略的なバイヤーが大金を使わなくなっていることがある。甘い見通しのままIPOを検討できる時代が終わったいま、オプションはほとんど残されていないのだ。ベンチャーキャピタルの支援を得るもっとも可能性の高い方法は、複数の企業を巻き込むことだ。ベンチャーキャピタルのレラー・ヒッポー(Lerer Hippeau)が出資し、スリリスト(Thrillist)、ナウディス(NowThis)、ドードー(The Dodo)といった企業を集めて立ち上げたグループ・ナイン・メディアが、こうしたアプローチの先例といえる。
ペレッティ氏はプラットフォームがメディアに対価を払うべきだと述べ、メディア界の重鎮ルパート・マードック氏も同調したが、このようなことは起こりそうもない。Facebookが信頼できないパートナーであることは、何度も証明されてきた。マイクは、Facebook Watch(ウォッチ)向けの新しいプログラムに自社のビジネスを託し、Facebookと500万ドル(約5億5000万円)の契約を交わした。だが、Facebookは動画へのアプローチを見直し、そのプロジェクトを中止した。パブリッシャーはこれまで何度も、Facebookの気まぐれに必死で対応してきた。しかし、漫画の「ピーナッツ(PEANUTS)」で、ボールを蹴ろうとしたチャーリー・ブラウンが、土壇場でそのボールをルーシーに取り上げられ、転んでしまうのと同じようなことになるのが常だった。
こうしたプラットフォームに支配されている広告市場も、大手企業の統合を促すだろう。アントニエッロ氏が合併候補として言及するのは、市場のひと握りの大手企業だけだ。また、ほとんどの市場は、競合する企業の数が5~7社に収まる傾向がある。それ以上になると効率が悪くなりがちだ。しかし、いまのデジタル広告市場は正反対の状況にある。2社がデュオポリーを形成し(Amazonの台頭により3社独占になる可能性はあるが)、ほかの多くの企業がわずかな分け前を争っているのだ。
Facebookにまつわるスキャンダルがどれほど出てこようと、いまの状況が変わる兆候は見られない。これまで何度も見られたように、広告主はプラットフォームから広告費を引き上げることに関して、強気な発言はしてもそれを行動で示すことはない。ユーザーから拒絶されないかぎり、Facebookが広告主から痛い目に遭わされる可能性はないだろう。Facebookの膨大なデータとスケール、そしてターゲティング能力が、ほかの企業を大きく凌駕しているからだ。また、Facebook自体が落ち込んでも、相変わらず好調なインスタグラム(Instagram)が埋め合わせをしてくれるだろう。
したがって、広告市場は全体として厳しい状況にならざるを得ない。そればかりか、多くの企業が感じている景気の停滞によって、さらに厳しくなる可能性がある。大きなミスを立て続けに起こしたVox MediaとVice Mediaなど、2018年のトレンドを読めなかった企業は、よくいわれる考え方をさらに強固なものにした。すなわち、ビジネスの大部分を広告に頼るのは愚策なのだ。
総合的なメディアの終わり
姿を消したパブリッシャーやかつての面影を失ったパブリッシャーには、明らかな共通点がある。それは、多くのブランドが、差別化されていない総合的なメディアだったということだ。あらゆる業界で、このような企業は苦しんでいる。また、多くの総合的なパブリッシャーを支えてきたミドルクラスの人たちも絶滅に向かっている。社会はいま、1%の富裕層と、ウーバー(Uber)やリフト(Lyft)のドライバーになって生計を立てようとする大勢の層に分断されているのだ。2018年は、平均的であることがどれほど良くないことなのかを示した年でもあった。
こうしたトレンドが明らかになったのは、2017年後半にマッシャブルが売却されたときだ。同社は、ソーシャルメディアマーケティングという新しい分野に特化したパブリッシャーとしてスタートした。しかし、ベンチャーキャピタルから巨額の資金を獲得し、大きな夢を抱くようになった同社は、ロシアのウクライナへの侵攻といったニュースを取り上げるようになった。あらゆる記事をあらゆる人に届けようとした結果、誰にとってもほとんど重要でないメディアになってしまったのだ。
総合的なパブリッシャーにとって唯一の解決策は、バーティカル化だ。ニューヨーク・メディア(New York Media)は、賢明にも早いうちからこの道を歩んできた。雑誌一辺倒から脱却し、カット(The Cut)、バルチャー(Vulture)、グラブ・ストリート(Grub Street)といったバーティカルブランドを展開したのだ。最近では、ストラテジスト(The Strategist)やインテリジェンサー(Intelligencer)といったブランドも手がけている。またコンプレックスも、ファースト・ウィー・フィースト(First We Feast)やスニーカー・ショッピング(Sneaker Shopping)といったフランチャイズを展開している。こうしたバーティカル化は、2019年にもある種の避難場所を提供するだろう。特定のオーディエンスとの結びつきを強めることで、コモディティ化の罠から抜け出せるかもしれないと、多くの独立系パブリッシャーが期待を寄せているのだ。
広告市場は、差別化されてない総合的なパブリッシャーにとって厳しい状況が続くだろう。アドバイヤーがより多くの予算をプログラマティックチャネルに注ぎ込むことが予想されるからだ。多くのパブリッシャーが苦境に直面している原因を、プログラマティックに求める人は多い。だがプログラマティックは、Facebookへの依存と同じように、オーディエンスとの結びつきが弱いパブリッシャーブランドが多いことを明らかにしたにすぎない。実際、たいていのパブリッシャーは、オーディエンスを本当の意味で獲得できていない。彼らはFacebookからトラフィックを回してもらっていたのだ。パブリッシャーはこの数年間、さまざまな嘘を述べてきたが、なかでも特に多かったのは、「我々はトラフィックを買ってはいない」というものだった。
多様化の進展
2018年は多様化の年だった。ほとんどのパブリッシャーにとって、多様化はすでに相当なレベルで起こっている。Facebookありきの時代は終わった。ディスプレイ広告市場はかなり前から失速している。パブリッシャーによっては、多様化が遅れたところもあるが、その一方で、オーディエンスとさまざまな形で結びつこうと数年前から努力しているところもある。彼らは、できれば直接的な関係を構築し、利益を得る手段を多様化したいと考えているのだ。
サブスクリプションモデルの隆盛は、希望をもたらした。ニューヨーク・タイムズは有料購読者の数が400万人を突破し、ワシントン・ポストはこのモデルを洗練させている。アスレティック(The Athletic)は、スポーツ分野でこのモデルがうまくいくことを証明した。10月には数少ないデジタルメディアベンチャーから4000万ドル(約44億円)の資金を調達し、新聞社から有能なスポーツライターを引き抜いて、ローカルスポーツのバーティカル化を行っている。
もちろん、ユーザーから直接お金を得ることばかり考えるのは危険だ。ある時点で、ユーザーにサブスクリプション疲れが起こる。ユーザーが一体いくつのアカウントを持つことになるのか、考えてみるといい。また、批判的にいえば、サブスクリプションはオーディエンスの5%未満でピークに達することが多い。つまり、大手パブリッシャーにとって、サブスクリプションプログラムの多くは、広告収入の損失を埋め合わせるものにはならないのだ。当然、プラットフォームがサブスクリプションの拡大を支援してくれると期待するのは無駄だ。GoogleでもFacebookでも、いまのところ大した成果は上がっていない。Apple Newsはいまだに、「トラフィックは多いが収益はいまひとつ」という状況から抜け出せないでいる。サブスクリプションが拡大すれば、お金をもらえるほどオーディエンスと十分な関係を構築できていないパブリッシャーが多いことが明らかにするだろう。そして彼らは、さらにコスト削減を進めることになる。
トランプ大統領が誕生したおかげで、多くのニュースパブリッシャーがサブスクリプションを拡大したが、その勢いは弱まるだろう。サブスクリプションプログラムは、開始当初こそ好調に推移するが、その後は新規ユーザーの獲得と既存ユーザー離れの防止のせめぎ合いになるのが普通だ。サブスクリプションモデルには、メーター制、メンバー制、寄付制など実にさまざまな種類があるが、これは自社に合った適切なモデルを見つけ出すのがいかに難しいのかを示している。ガーディアン(The Guardian)やBuzzFeed Newsなど、一部のニュースパブリッシャーは、人々の善意に訴える形で寄付を募り、一定の成果を上げている。一方、CNNなどは、ペイウォールではなくメンバーシッププログラムを取り入れ、特定のオーディエンス層を狙った特別なコンテンツを提供している。
こうした補完的な収益源を見つけ出す競争は、2019年にも続くだろう。2018年にはコマースの成長も目立った。パブリッシャーが、独自の製品カタログを利用して、アフィリエイト収益を狙ったのだ。また、Tシャツやマグカップといったブランデッド商品を手がけたところもある。こうしたギフトショップ的アプローチは一定の期待が寄せられており、今後も収益が「徐々に」拡大していくことは間違いないと思われる。BuzzFeedは、物販で5000万ドル(約55億円)も売り上げたと自慢気に語っていた。もっとも、アフィリエイト料金の低さを考えれば、BuzzFeedほどの規模の企業にとって、大した効果はもたらさないだろう。
なかには、イベントに活路を見出しているパブリッシャーもある。規模を大きくしなくても、高いマージンや知的財産の使用許諾料を期待できるだからだ。ポップシュガー(PopSugar)、ガールボス(Girlboss)、オジー(Ozy)、それにニューヨーク・メディアのバルチャーなど、数多くのブランドがイベントを手がけている事実は、この分野に大きなチャンスがあり、競争が激化していることを示している。多くの人が期待しているのは、コンプレックスコン(ComplexCon)の成功を何らかの形で再現することだ。見本市のコンプレックスコンは、ストリートウェアやヒップホップカルチャーを讃えるイベントに成長し、いまやコンプレックスの年間売上高の10%近くをこのイベントが稼いでいる。また、さらに多くの人が、ディズニーモデルの再現に期待を寄せている。同社はフランチャイズを利用して、さまざまな方法で利益を生み出しているのだ。
これから進むべき道
2019年は、はるかに静かな年になるだろう。視聴者が急増したとか、コムスコア(Comscore)のデータできわめて好調な結果が得られたといった話題は少なくなるはずだ。そのかわりに、パブリッシャーは数字の達成を目指す方向に切り替えるだろう。だが、これがうまくいかない可能性もある。2018年の結果が2019年に引き継がれることになるからだ。また、広告市場の激しい落ち込みによって、予算や人員の削減がさらに起こるだろう。
とはいえ、明るい材料もある。ビジネスモデルの多様化によって差別化に成功し、オーディエンスと強固な関係を築いたメディアは、今後も好調を維持するだろう。
Brian Morrissey(原文 / 訳:ガリレオ)