動画ビジネスは、現代のゴールドラッシュと呼べるのか? 第2回「DIGIDAY Salon」が7月19日に開催された。今回のテーマは「動画コミュニケーションの可能性」。ネスレ日本の出牛誠氏、ONE MEDIAの明石ガクト氏、AbemaTVの山田陸氏が登壇した本イベントの内容を、全文書き起こしでご紹介する。【※本記事は、DIGIDAY+会員以外の方にもnoteにて個別販売中(980円)です!】
動画ビジネスは、現代のゴールドラッシュと呼べるのか?
第2回となる「DIGIDAY Salon」が7月19日、渋谷区のインフォバーン本社で開催された。DIGIDAY[日本版]の有料会員サービス「DIGIDAY+」、本イベントはその特典のひとつとなっている。今回のテーマは、「動画コミュニケーションの可能性」だった。
パネルディスカッションに登壇したのは、ネスレ日本の出牛誠氏、ONE MEDIA(ワンメディア)の明石ガクト氏、そして、AbemaTV(アベマティーヴィー)の山田陸氏。ファシリテーターは、DIGIDAY[日本版]編集長の長田真が務めた。企業は多様化する動画コミュニケーションやクリエイティブと、どのように向き合うべきか? ブランドとメディア、それぞれの立場から意見が交わされた。
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本記事では、今回のセッション内容を全文書き起こしでご紹介。読みやすさのため、多少編集してある。
動画コミュニケーションの役割
――動画コミュニケーションにはいま、多くの企業が期待を寄せています。しかしその反面、多くのプレイヤーが参入し、生き残るのが難しくなってきているという状況もあります。そんななか、みなさんは動画コミュニケーションにどのような役割を期待しているのか、出牛さんからお伺いできますか?
出牛:はい。まず、全体のコミュニケーションプランが前提としてあるのですが、コンテンツの接触時間がテレビからインターネットにシフトしていくなか、Webを通じて配信される動画の重要度は高まっていますね。やはり我々のようなブランド企業にとっては、ブランド認知に大いに役立っていると思います。
加えて、ネット上の動画コンテンツは、テレビCMよりもできることが多い。たとえば、動画を視聴した人にキャンペーンクイズを出題するというように、認知だけでなく、ユーザーに何らかのアクションを起こさせることもできる。動画を中心とした新しいコミュニケーションが、今後より増えていくのでは間違いないでしょう。

「動画中心のコミュニケーションが今後増えていく」と出牛氏
――新しいコミュニケーションツールとして期待をかけているということですね。明石さんはどうでしょう?
明石:いま出牛さんがおっしゃられたのは、ブランド側から消費者へのコミュニケーションについてですよね。僕や山田さんの場合は、おそらく実感していることは少し違っていて、世間ではよく「テレビは終わった」といわれますが、テレビCMはこの10年でどのくらいシェアが落ちているかというと、実は3%くらいなんですね。一方、広告市場全体はこの10年で3%以上成長しているので、実質的にはほとんど落ちていない。
インターネット広告は伸びているものの、テレビのシェアはそこまで減っていない。裏を返せば、インターネットはまだ、テレビの持つ映像コミュニケーションの力を勝ち取れていないということです。ただ、その構造が崩れるタイミングがもうすぐ来るなとは思っていて、なんでいまかというと、視聴率の取り方がもうすぐ変わるからです。AbemaTVさんはそこを狙ってるのかと。個人視聴率が取れるようになるところに山を張ってるんですよね?
山田:そうですね、それこまでいわれてしまうと話すことがなくなります(笑)。おっしゃるとおりで、テレビがネットにつながれば、視聴率の取り方も、従来のような世帯単位ではなく、個人単位で実施できるようになります。AmebaTVは、「世帯から個人へ」のシフトを使命として掲げていますが、テレビ以外のデバイス、もしくはテレビがコネクテッドすれば、専門の調査会社でなくてもリアルタイムにデータが取得されるようになります。
明石:そういう時代があと数年で来るわけで、インターネットメディアの最後のブルーオーシャンが動画なんです。だからみんなテキストなんかやっている場合じゃない(笑)。
――うちはテキストだけですが(笑)。
明石:いや、それこそDIGIDAYだって、DIGIDAY TVとかやれる可能性はあるわけで、今後はみんなそういう世界を追求する時代なんじゃないかと思いますね。
それぞれの使命
――なるほど、ありがとうございます。では山田さん、ほかにありますか?
山田:デバイス環境の変化は大きいですね。スマホが伸びてきてテレビもネット化しているので、その辺りは今後もどんどん進んでいくだろうと思います。使命というところでは、弊社は、「21世紀を代表する会社を作る」というビジョンを掲げているんですが、やはりこれを達成するためには、メディア事業での成功は欠かせないと思っています。
――そうですよね。本当あれだけ投資されていて、毎回すごいなって思ってます。
山田:そういっていただけると嬉しいのですが、まだすごくなくて。AbemaTVが黒字化したときにおっしゃっていただけると(笑)。
明石:僕も使命の話していいですか?
――もちろんです。明石さんにはむしろそこを聞きたい(笑)。
明石:映像には、「新しい情報との出会い」という意味でも可能性を感じています。たとえばテレビをながら見しているときとかですよね。でもいまの若い子って、自分の知りたい情報だけに触れることができてしまう。ONE MEDIAは、「あなたの1日、人生、そして世界観を揺さぶるような体験を」と謳っていて、「偶然フィードで出会ったんだけど、世界観が変わった」みたいな、そういう使命感を持ってやっています。お金だけじゃなくてね(笑)。
――ありがとうございます(笑)。人生を変えるような動画を届けていきたいってことですね。ちょうど最近、私も調べたばかりだったんですが、テレビCMの市場はここ20年くらい2兆円くらいで推移していて、一番ピークだったのが2000年前後。そこから少しずつ下がっているようでしたが、3%程度なんですね。
明石:一度、「テレビはもう駄目だ」という風潮が2000年前後にあったじゃないですか。あの印象が強いからあそこからずっと下がってるように思われてるんですが、実際は底を打ってる。スマホアプリの会社がテレビCMを出しているのを見ればわかりますよね。やっぱりテレビCMって効果あるんですよ。
――そうですよね。出牛さんはいかがですか?
出牛:弊社の例をお話すると、たとえば「ネスカフェ アンバサダー」や「ネスレ ウェルネスアンバサダー」に関しては、CM出稿を続けています。サービスを開始して数年ですし、会員を増やしていく必要がある。そういった意味ではやはり認知をとっていくためには重要なメディアだと思っています。
ただ、テレビだけでなく、テレビを見た人が実際に申し込まないと事業として成り立たないので、Webと組み合わせて使っています。一方で、「ネスカフェ」であったり「キットカット」といったブランドは、おかげ様でかなり認知されています。こうしたものに関しては、継続的なファンを作るのに、Webの動画が効果的だったりしますね。
コンテンツ作りの肝
――より全体的なコミュニケーションプランニングが重要になってきている、ということですね。では、次のトピックに移りたいと思います。広告費の観点でいくと、いま、テレビは2兆円規模であるのに対し、インターネットは1.5兆円まで伸びています。これを見ると、今後テレビはますますネットに溶け込んでいくのではないか、そんな考え方もできます。そのなかで、どんなコンテンツを作り、メディアとしてどうあるべきかなのか。その辺のお考えをお聞かせください。では明石さんから。
明石:ひとついえるのは、テレビは免許がなければ映像を配信できません。映像産業は巨大なビジネスですが、そのピラミッドの頂点は放送局が占めていて、その下に星の数ほどの映像制作会社があります。僕らがインターネット動画をビジネスにするうえで大事にしているのは、こうした状況をいかに変えていくかということです。
ネットは地上波と違い、配信するための免許は必要ありません。テレビを見なくなったといわれるミレニアル世代のハートを、僕らのような新しいメディアが掴んでいく。さらに、ノンバーバル(非言語の)なコミュニケーションという意味で、その先にも可能性があると考えています。僕は、世界中の視聴者に響く「動画のグローバルスタンダード」を作る気概で、このビジネスに取り組んでいます。
山田:大事にしているのは「コンテンツが尖っているか」という点です。いまの世の中、もはやマスは存在せず、このプラットフォームに乗せれば誰もがコンテンツを見る、そんな時代ではなくなりました。もちろんAbemaTVがそうなれるならなりたいですが。それに伴い、良いコンテンツの定義も変わってきています。いかに「エッジを立たせるか」ということを事業部内でも話していますね。
――わかりました。出牛さんはどうでしょう?
出牛:ネスレアミューズが立ち上がった2010年から、この仕事に取り組んできて、もっとも大きな変化がデバイス環境かなと。当初はPC中心でしたが年々、スマホの比率がかなり大きくなってきました。スマホでの利用シーンを考えると、当然ながらコンテンツは音がなくても理解される内容にしなければなりません。
あと我々の場合、抹茶など、製品によっては海外の方からの関心が高いものがあります。なので、字幕や言語も考慮しなければならない。そうしたとき、デバイスの変化をしっかり抑えておかなければならない。あとは目的です。何を目的にするかによって、指標が変わってくるので、そこはしっかり定めておかなければならないと思います。
――7、8年やっていて、逆に変えなかったこと、ここは守り通したことはありますか?
出牛:そうですね、動画という新しい取り組みを実施するなかで、ノウハウを蓄積していこう、ラーニングを積み重ねていこうという意識は変わってないですね。
フォロワーではなくファンを
――なるほど。では、メディアのあり方についてはどう考えますか? 明石さんお願いします。
明石:分散型メディアの問題は、プラットフォームのアルゴリズムに依存してしまう点です。ある日突然、アルゴリズムの変更が発表され、それまで大きな予算をかけて獲得したフォロワーに、何の価値もなくなってしまった、という状況になりかねない。
そこで慌てているメディアと、慌てていないメディアは何が違うのか。それは、単なるフォロワーがいるのか、ファンを獲得しているのかの違いだと思います。僕らはファンが欲しい。山手線の車内で見るのも、Twitterで見るのも、どこで再生されるかは問いません。どんなプラットフォームであってもONE MEDIAだとわかるコンテンツを作りたい。だから、ロゴを隠したらどこが作ったかわからないような動画は、僕らは作るつもりはありません。

「フォロワーではなく、ファンが必要」と明石氏
――どういった指標でユーザーのエンゲージメントを測っていますか?
明石:僕らの場合は視聴秒数とインプレッションに対する再生回数ですね。極端な話、インプレッションは金で買えるわけで、インプレッションがあってもユーザーが視聴しないコンテンツは、魅力的ではありません。
――出牛さんいかがでしょう?
出牛:やはりエンゲージメントと掛け合わせていくことが大事で、加えてそれを見たユーザーがアクションを起こしたかも大切ですね。弊社でいうと、どれだけ動画視聴で離脱せずに送客したかという点も指標として重視しています。
――なるほど、作り手としては嬉しい時代になってきた、そんな捉え方もできますね。
明石:いや、めっちゃチャンスあると思います。僕が大学生のころにDTV(デスクトップビデオ:PCでビデオ編集をすること)のサービスが出てきたんですが、その前まではプロにしか映像を作ることが許されていなかった。いまはiPhoneでも映像が作れちゃう時代です。そんなときにテキストやってる場合じゃないですよ。あ、僕はテキスト大好きなんですが(笑)。
クリエイティビティと科学
――では次の質問です。動画コミュニケーションは今後、どう進化していくか、これは続けて明石さんからお願いします(笑)。
明石:続けますね(笑)。そうですね、僕らのところでいうと、デジタルテレビやコネクテッドTV(CTV:スマートTV、あるいはゲーム機、ストリーミング・プレーヤ等がインターネットに接続され、ストリーミング・ビデオが視聴出来るテレビ)とかはマークしなければならないと思ってます。動画の視聴体験は、スマホのスクリーンに限ったものではなくなるんじゃないかなと。そういう観点から、山手線のサイネージ配信もやりました。視聴する場所をいかに広げて、生活に溶け込ませるかが大事になるかなと。
というのも、いままで主流の動画メディアだったテレビは、消費者の「行ってきますからただいま」までしか占有できてなかったんですよ。でも、スマホは、朝起きてから通勤中、帰宅するまで常に持ち歩くデバイスです。いわば「おはようからおやすみまで」までなんです。面を広げていくのと同時に、ユーザーのモーメントを掴める、大きいんだけど細かいセグメントに対応できるようなコンテンツ開発が大きなテーマです。
これは、先輩たちがテレビが映画に対して、テレビならではのコンテンツを開発したのと同じように、スマホ時代に生きる僕らに課された使命だと思ってます。
――なるほど。僕らの世代がやらなきゃいけないことだとですね。山田さんはいかがでしょう?
山田:明石さんはいまデバイスの話をされたので、僕はコンテンツ軸の話をします。今後変わっていくのは、CMを含め、動画コンテンツをもっと科学できるようになるのではということです。AbemaTVもそうですが、YouTubeさんやニコ生さん、GYAO!さんなど、コメントできるメディアが増えていますし、コメントだけでなく、インプレッションに対してどれだけ再生、視聴完了されているかといった部分が、全部数値化することが可能になってきています。たとえば15秒のCMのどこでユーザーが離脱しているか、より詳細にわかるようになるのです。
以前、広告会社さんから問い合わせをいただいたのが、「F1層に向けたCMを作りたいんだけど、イメージキャラクターにするのは、日本人がよいか、外国人がよいか」というご相談でした。それに対して僕らは、AmebaTVで実際に再生されたF1層に人気のCMを分析したところ、なんと「ハーフのタレントがよい」という結果が出たことがあって、これは一例ですが、そういう風に様々な軸でCMを科学できるようになると思います。
――科学できるというのは、とても未来感があるんですが、クリエイティビティとのせめぎ合いみたいなところはどうでしょう?
山田:これは難しいところで、正直答えはないですね。ただ、クリエイティビティを排除しようという気はまったくなくて、科学して得た結果やアイデアはあくまで、勝率を上げるための手段なのかなと思っています。だから最終的にクリエイティビティに振り切るとかもありだと思いますし、堅実性を大事にするのであれば、科学したものを要素として入れるのもありですよね。

「これからは、動画を科学できるようになる」と山田氏
明石:クリエイターからすると、ルールがないところから何か作れっていわれるより、ハーフで作れっていう制約があった方が燃えるんですよね。だからそこは高め合いかなと思います。
――出牛さんはどう思いますか?
出牛:そうですね。大きく3つあると思っています。(まず、ひとつめとして)科学的な分析手法は、今後ますます求められていくだろうなと。エンゲージメントや、さらには売上にどれだけ貢献しているのか、といった部分まで可視化できるようになるだろうし、そういう部分には投資価値があると思っています。
また、ふたつめは、動画は増えていきますし、作っただけでは見てもらえません。視聴してもらっているときに、いかに次のアクションにつなげるかは注力していかなければならないなと。
最後にみっつめが、前のふたつとは矛盾するかもしれないのですが、ラーニングを貯めていくと、やはり作り手は勝ちパターンを欲するようになる。ただ、勝ちパターンに固執して、それがある意味テンプレ化してしまうと、だんだん勝てなくなっていくんです。うまくいったクリエイティブが、ある程度は可能かもしれませんが、すべてのケースに応用できるとは限らない。しかも、その変化のサイクルはどんどん短くなっていると。だから、いいところと変えるべきところは、判断していかなければならないと思います。
――どんなにテクノロジーが発展しても、人間がやることは尽きないということですね。
出牛:それもそうですし、やはり人にものを伝えて共感してもらうには、クリエイティビティが根底にないと、いくらテクニックがあってもな、という感じはします。
意識ベースの先
――ありがとうございます。それでは次に、お互いに聞いてみたいことをお伺いしたいと思います。では山田さん。
山田:出牛さんに聞きたいことがあります。約8年前から動画のオウンドメディアを作ってらっしゃったというのは、本当に先進的だなと。素晴らしいチャレンジをされてる企業様だと思ったのですが、費用対効果はどういう風に見られていたんでしょうか? 当時はPCメインですし、相当シビアだったと思うのですが。
出牛:話せば長くなるのですが(笑)。2010年にネスレアミューズができたんですね。その前からオフラインの会員はあって、ユーザーとのコミュニケーションが紙からデジタルに移っていくなか、大きくデジタルに舵を切ったわけです。最初はやはり、このサイトに来てもらうようなエンターテイメント性があるものにする必要がありました。だからネスレアミューズという名前なんですね。
そのときの目的っていうのは、会員獲得だったので、効率よくPDCAを回すことが求められていた。ただ、やっていくなかで、サイトに継続して訪問している人は、購入金額が大きいといったことがわかってきたんですね。ほかにも、複数のコンテンツに触れることによって、購入意向が上がるなど、当初の目的とは違う文脈で、プラットフォーム全体として効果が出ている、ということが見えてきたんですね。
山田:その成果は、スタートして早いうちに出たんですか?
出牛:いえ、これは昨年から今年にかけてはじめて調査してわかったことです。思うのですが、年々計測できる数値というのは増えていて、我々も最初のころはアンケートなど、意識ベースでサイトに訪問しているユーザーに対する調査に止まっていたのですが、最近は実際の購入とのデータの掛け合わせができるようになったので、こうした結果が見えてきたんです。
――わかりました。時間が迫ってきていますので、出牛さんいかがでしょう?
出牛:では山田さんに。AbemaTVは20チャンネルあるということでしたが、次に手がけたいジャンルはありますか? もしあれば教えてください。
山田:たくさんあるんですけど、そこは分析をしながら投資判断しています。スポーツジャンルはさらに広げていきたいんですが、やっぱり版権料の問題があったりするので、ファンのポテンシャルと実際にかかるであろう投資金額のバランスを見て判断していきたいと思います。
――何か増やして欲しいチャンネルとかありますか?
明石:いま、若い子向けのリアリティーショーは結構やられていると思いますが、40〜50代向けのドロドロしたやつが見たいですね(笑)。
山田:わかりました。ドロッドロのやつを提案しておきます(笑)。
マスは狙うな
――ありがとうございます。それではこの辺で、質疑応答に移りたいと思います。
聴講者1:40〜50代の男性をターゲットにするときは、どういうコンテンツを作り、どういう場所で配信したらよいでしょうか。
出牛:関連した事例ですと、ネスレアミューズには「宝塚スタートーク」という番組があります。これは40〜50代の女性のリピート率が高いコンテンツで、番組にゲストが来るたびに新しい会員が増え、それだけでなく獲得後の継続率にも大きく寄与しています。
50代男性のところだと、「ネスレマッチプレー」というゴルフの大会を運営していて、このコンテンツの視聴者や、獲得した会員データを見ると、40〜50代の男性比率が高かったという事例があります。月並みな回答になってしまいますが、その世代に合ったコンテンツを展開することと、リクルート(獲得)のために実施するためのものなのか、または継続率を高めるためなのか、こうした視点を持つことが重要だと思います。
明石:僕は40〜50代のターゲットを据えたことがないんですが、僕が思うのは、デモグラに別に意味はなくて、40〜50代に受けるコンテンツを考えようと思ったら、どういう40〜50代なのかを考えなきゃ駄目。「ゴルフが好きな人」なのか「ワインが好きな人」なのか、どういう人なのかっていう、そこの解像度を高めて、目の前のその人に伝える思いで作らないといけない。どういうユーザーが欲しいかというところを細かく定めた結果として、デモグラがついてくるっていう順番だと思います。
――マスで狙うなということですね。
明石:そうですね。もはや、マスはないので。
――山田さんはどうでしょうか? たとえば、40〜50代の男性に向けた戦略などはありますか?
山田:40〜50代の男性に向けた戦略は特にないですね。我々は、すべての層を獲りたいと思っているので。どんな人が来ても楽しめるようにコンテンツは作っているのですが、特定の年齢層を狙うための戦略はありません。先ほど明石さんのお話にあった通り、マスはなくなってきているので、年齢とかではなく、ゴルフ番組ならゴルフが好きな人、という風にコンテンツに合わせる形で進めています。
「最適な尺」はない
――なるほど、ほかに質問はありますか?
聴講者2:理想的な動画の尺についてどう考えますか?
出牛:カテゴリーによっても違うので一概にはいえません。たとえばハウツーもの。これは理想的には1分以内に収めることが大事だと思っています。一方、メッセージ性の強いものは、動画の視聴完了率を重視しているので、尺はそこまで意識していません。
明石:こういったイベントでは絶対に出る質問なのですが、極端な話、目的が叶えば動画の尺は関係ないんじゃないかと思います。5分ある動画でも、まあまあ最後まで見られることもあるし。それって5分かけてでも伝える内容があるからなんですよね。だから、それがどういった目的で、何を達成したらいいのかという部分から逆算して決めるものなので、正解の尺は敢えて「ない」と答えておきます(笑)。
山田:明石さんと同じ意見で、重要なのは目的であって、尺について正解はないと思っています。あとはターゲットの年代によってもストレスに感じる動画の尺は異なるので、内容が濃ければ尺は長くても良いと思います。
――では、次が最後の質問となります。どなたかいらっしゃいますか?
5Gへの期待
聴講者3:テクノロジーの進化で、動画を通して提供できる価値は今後も変化していくと思います。いま、注目するテクノロジーがあれば教えてください。
出牛:注目というか広がっていくかなと思っているのはVR(仮想現実)ですね。現段階ではヘッドセットを装着しなければならないという視聴環境の問題があります。単に新しい技術だから取り入れるということではなく、ユーザービリティも考えなければならない。だから、より簡単に視聴できる環境があるかという点も、意識しながら取り組んで行きたいと思います。
――でも、ショッピングモールとかに、VRの施設も増えてきてますよね?
出牛:確かにそうですが、ただメディアコンタクトでいくと、ショートフィルムは夜寝る前や朝だったりするので、どこかに行って見るということ自体がハードルだったりするので、やっぱり家でパッと見れる環境というのが大事かなと思います。
明石:僕は5G(第5世代移動通信システム)を待望しています。僕ら以上にAbemaTVさんは待ってると思うんですが(笑)。聞くところによると2時間の4K動画をわずか6秒でダウンロードできると。誰も2時間の4K動画をダウンロードする人なんていないと思いますが、そのくらい早いと。そうなると、みんなそのうち、あらゆるコンテンツが動画でないことに物足りなさを感じるようになって、動画のニーズがいまよりも10倍、20倍高まるんじゃないかと思います。
山田:僕も、5Gはキーのインフラ技術だと思っています。一般商用化されるまでは時間がかかると思いますが、かなり期待をしています。その理由のひとつとして、テクノロジーの進歩により、今後コンテンツの可処分時間は増えると考えているからです。そうなると当然、動画を見る時間も増える。5Gの登場は、中長期で見て大きなチャンスだと思ってます。
※DIGIDAY SalonのFacebookページでは、フル動画を公開中。気になる方はこちらまで。
▼出牛誠
ネスレ日本株式会社 マーケティング&コミュニケーションズ本部 デジタルマーケティング部 部長
1976年東京都出身。1999年ネスレ日本入社。営業、マーケティング、営業企画、ネスレ通販等の担当を経て、2012年より、オウンドメディア『ネスレアミューズ』を担当。その後、『ネスレシアター』の立ち上げをはじめ、コンテンツ開発・デジタル施策を手がけている。2015年8月より現職。
▼明石ガクト
ワンメディア株式会社 代表取締役
2014年6月、ミレニアル世代をターゲットにした新しい動画表現を追求するべくONE MEDIAを創業。独自の動画論をベースに各SNSプラットフォームのコンテンツパートナーとして動画を配信、圧倒的なエンゲージメントを達成。2018年からショートフィルム製作や山手線デジタルサイネージでのコンテンツ展開も行い、モバイル以外の領域にもその活動を広げる。直近ではInstagram公式イベント #MAKESOMENOISEのオフィシャル動画を製作。今秋、NewsPicks Bookから書籍出版予定。
▼山田陸
株式会社AbemaTV 広告本部 本部長
株式会社サイバーエージェント 執行役員
2011年株式会社サイバーエージェントに入社。2015年よりAmeba統括本部 広告部門 統括、株式会社サイバーエージェント 執行役員に就任。2016年11月に株式会社AJAを設立し、代表取締役社長に就任。2017年10月より株式会社AbemaTVにて、広告本部 本部長を務める。
Written by 阿部欽一
Photo by 渡部幸和