[ DIGIDAY+ 限定記事 ]デジタル広告の展望がますます不安定になるなかで、ペイウォールによってコンテンツを有料化し、読者収益を得る戦略を考えるパブリッシャーが増えている。だが、サブスクリプション製品の立ち上げは決して簡単ではない。本稿では、米DIGIDAYの調査に基づき、パブリッシャーが克服しなければならないいくつかの課題を紹介する。
[ DIGIDAY+ 限定記事 ]デジタル広告の展望がますます不安定になるなかで、ペイウォールによってコンテンツを有料化し、読者収益を得る戦略を考えるパブリッシャーが増えている。そのため、パブリッシャーの多くは、より信頼でき、持続的な読者収益の流れを開発する必要に迫られてきた。
その理由は明快である。ひとつは、デジタル広告費がFacebookとGoogleにすさまじい勢いで流れ込み続けていること。さらに、その一方で、アドテクのエコシステムは、よりプライバシーを重視した広告環境を目指すトレンドにさらされ、パブリッシャーのファーストパーティデータはより一層重要性を増していることもあげられる。
だが、サブスクリプション製品の立ち上げは決して簡単ではない。本稿では、米DIGIDAYの調査に基づき、パブリッシャーが克服しなければならないいくつかの課題を紹介する。
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最大の課題はお金を払ってもらうこと
有料の新製品を立ち上げる際にパブリッシャーが直面する最大の課題は、間違いなく、誰でも自由にアクセスできていたコンテンツを有料化することだ。ニュースが日用品として消費される昨今、以前は無料だったものにこれからはお金を払う必要があるということを読者に納得させるのはより一層難しくなった。
米DIGIDAYの調査によると、パブリッシャーの63%が、サブスクリプション製品を追加する場合の最大の課題は(無料の)利用者を有料購読者に変えることだと答えている。
サブスクリプション製品に切り替えた直後は、もっとも忠実な読者たちが料金を支払いはじめるため、パブリッシャーは最初、心強い伸びを経験する。だがこの段階が過ぎると、マーケティングの方法や利用者を購読者に変える方法においてより創造性を求められるようになる。それを裏付けるように、回答者の12%は、マーケティング方法の調整が課題だったと述べた。
社内チームの同意を得ることもまた課題だという回答は12%だった。新たな収益源を追加することはビジネスにとってはプラスになるが、広告部門とサブスクリプション部門が製品開発のためのリソースを巡って互いに策を練るようになると、どこかの時点で両者のあいだで緊張が生まれる。
マージンやリソースには目をつぶる
サブスクリプションは、少なくともデジタル広告市場との比較において、かなり堅実かつ持続可能なビジネスであり、そのことが、パブリッシャーがこの収益源を確立しようとする主な原動力のひとつにもなっている。
米DIGIDAYの調査によると、パブリッシャーの20%はサブスクリプション製品から50%以上のマージンを得ており、マージンはないと答えたのは9%に留まっている。別の調査では、サブスクリプション製品に社内リソースの9%以下しか費やしていないと答えたのは39%、一方で社内リソースの24%以下を費やしていると答えた割合は75%に達していた。
マーケティングの取り組みのシフト
パブリッシャーが所有・運用しているプラットフォームを訪問する読者は、FacebookやGoogleのようにパブリッシャーへのサポートや重要性が確実に減少しつつあるサードパーティプラットフォームの利用者より高確率かつより迅速に有料購読者に移行する傾向があるというのが概ねの合意だ(これは、有料のソーシャルメディア広告というよりプラットフォームのサブスクリプション製品に関連する内容だ)。たとえばテレグラフ(The Telegraph)は、専用アプリのコンバージョン率はほかのどのチャンネルよりも高く、2番目はApple Newsだと述べている。
かなりの数――パブリッシャーの65%――は、サブスクリプション製品に顧客を獲得するチャンネルとして、電子メールのニュースレターがもっと効果的であり、ソーシャルメディア広告と答えたのはわずか9%だったことが、米DIGIDAYの調査からわかっている。ネットで流すソーシャル広告は、ニュースレターに登録している数よりはるかに幅広いので、これは驚くことではないかもしれない。そして登録する人は、自分がファンであることを積極的に示す。
一方で、ポッドキャスト広告のような新しいフォーマットが、エコノミスト(The Economist)やニューヨーク・タイムズ(The New York Times)、ガーディアン(The Guardian)のようなサブスクリプション型パブリッシャーのマーケティングミックスで、より通常の機能になりつつある。こうしたチャンネルは比較的新しくて混み合っていないと同時に、パブリッシャーが優位に立つことができる。
フレネミーとの共存
パブリッシャーは、新しいプラットフォームで新しいオーディエンスを探すだろう。2019年3月に「Apple News+」が発表され、今後2カ月で英国でもそれが利用できるようになることで、パブリッシャーの意見が二分されている。ウォールストリート・ジャーナル(The Wall Street Journal)やニューヨーク・メディア(New York Media)のようなサブスクリプション型パブリッシャーは有料のアグリゲーターになろうとする一方で、ニューヨーク・タイムズやフィナンシャル・タイムズ(The Financial Times)など著名な――そして時に強い発信力を持つ――パブリッシャーが抵抗の姿勢を示している。
米DIGIDAYの調査によると、この抵抗の主な理由として、読者とパブリッシャーのあいだにAppleが介入してくることで、顧客関係がコントロールしにくくなることがあげられている。不満足な収益分配――報告によると50%――の影に隠れてはいるが、オーディエンスデータへのアクセスの欠如を理由にあげた回答者が15%に達している。初期バージョンのApple NewsやAppleのApp Storeに関して、Appleが顧客関係データを所有していることとデータ共有に制限があることを巡って、パブリッシャーは長年Appleに戦いを挑み続けている。
解約戦術に磨きをかける
パブリッシャーのサブスクリプション製品が成熟するにつれて、顧客維持(リテンション)戦略にも磨きがかかってくる。パブリッシャーの月間解約率は通常10%以下とされるが、米DIGIDAYの調査によると、パブリッシャーの41%は、月間解約率が10%以上だと答えていることがわかる。これはつまり、購読者数を維持するために毎年まったく新しい顧客ベースを獲得する必要があることを意味している。月間解約率が2.5%以下、反対に25~49%だという回答が、同率の15%となっている。
解約率の計測は面倒な作業だ。パブリッシャーは数字を共有したがらず、計測の方法や期間はまちまちで、季節性のような要素が果たす役割もある。これにより業界全体のベンチマークを見つけるのが困難になっている。
ユーザーをエンゲージさせ続けるには、コンテンツやデジタルユーザー体験、顧客体験の中身の多くが流動的である必要がある。ロンドンのタイムズ(The Times)は、推奨コンテンツを知らせるニュースレターを1年にわたって送り続けることで、解約率を49%も減少させた。一方、アクセル・シュプリンガー(Axel Springer)のタブロイド紙「ビルド(Bild)」の場合は、導入価格を極端に安くすることをやめ、割引適用期間をより長くすることで、毎月のコンバージョン率改善に役立てた。いずれにせよ、解約の管理には投資と評価が欠かせない。たとえばエコノミストには、顧客維持戦略にフォーカスした16人体制のチームがある。
Lucinda Southern(原文 / 訳:ガリレオ)