ロイター(Reuters Institute)の調査によれば、パブリッシャー各社は、サブスクリプションが自分たちのもっとも重要な収益源であるとしている。そうであれば、パブリッシャーは有料会員によるログイン情報共有を制限したがるはずだ、と思うのは当然のことだろう。しかし、そうとも言いきれないのかもしれない。【※本記事は、一般読者の方にもnoteにて個別販売中(480円)です!】
ユーザーに、クレジットカードを取り出して有料会員登録させることから、解約されないように奮闘するところまで、利用者から直接の収益をあげるためにパブリッシャーがやらなければならないことは山のようにある。しかし、どのサイトにも共通しているある課題、すなわちログイン情報の共有という問題は、見過ごされがちだ。それなのにパブリッシャーたちは、どうやってもお金を払ってくれない人たちとして、ペイウォールを避けていく人たちの方にばかり目を向けている。
今年8月に開催されたイベント、「Digiday Hot Topic:サブスクリプション&メンバーシップ」で、パブリッシャーのエグゼクティブ62人を対象に調査を行なったところ、有料会員登録者が友人や家族とログイン情報を共有するのを防ぐ対策は何も講じていない、という回答が76%にのぼった。
ロイター(Reuters Institute)の調査によれば、パブリッシャー各社は、サブスクリプションが自分たちのもっとも重要な収益源であるとしている。そうであれば、パブリッシャーは有料会員によるログイン情報共有を制限したがるはずだ、と思うのは当然のことだろう。理屈のうえでは、ログイン情報を共有している消費者たちは、料金を払ってアクセスしなければならないはずのユーザー増を阻んでおり、その結果、パブリッシャーの収益が損なわれているのだ。
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優先度の低い問題か
しかし、そうとも言いきれないのかもしれない。ペイウォールサービスのベンダー、ピアノ(Piano)の戦略担当シニアバイスプレジデント、マイケル・シルバーマン氏はこう考えている。パブリッシャー各社に共通している前提として、ログイン情報共有によってサブスクリプションにアクセスするユーザーというのは、「そもそも加入する可能性が相対的に低いので、彼らのログインをブロックすることに多大な労力を費やすことは、大多数のパブリッシャーにとって、ほぼ意味のないことだ」という。
パブリッシャーは数多くの問題を抱えており、ログイン情報共有は「収益源を失うものではない」ため、「会員獲得や解約対策の優先順位の方がはるかに高い」とシルバーマン氏はいう。この彼の指摘についていえば、以前行われた米DIGIDAYの調査では、パブリッシャーの約41%が、サブスクリプション製品の毎月の解約率10%以上という数字に直面していることがわかっている。
パブリッシャーのあいだで、ログイン共有問題対策の優先順位が低いことの理由には、友人や家族からログイン情報を得るというのは消費者にとって素晴らしい経験ではなく、また、ログイン情報を共有するだけでは、サブスクリプションモデルで提供されるすべてのコンテンツにアクセスすることはできない、ということもある。シルバーマン氏が指摘するのは、たとえば有料会員向けのメールマガジンだ。メルマガは、アカウントにアクセスできる人が他にいたとしても、やはりもともとのアカウントホルダーに送られる。
実態は蔓延している
パブリッシャー各社が重視していないため、これまでログイン共有の問題がどれだけ広がっているかの測定は困難だった。そこで、米DIGIDAYは、AskSuzyプラットフォームを使い、22歳以上のアメリカ人803人を対象として無作為調査を行なった。現在ニュースサイトやメディアサイトのサブスクリプション料金を支払っていると答えたのは、そのうち30%。この回答の選択肢からは、Hulu(フールー)やNetflix(ネットフリックス)、HBO GOといった、OTT(オーバー・ザ・トップ)サブスクリプションサービスは除外してある。そして、ニュースサイトやメディアサイトのサブスクリプション料金を支払っていると回答した234人のうち63%が、ログイン情報を共有して、他の人が無料でコンテンツにアクセスできるようにしていると回答した。
なるほど、パブリッシャーのアカウント共有は蔓延しているといえるだろう。しかし、ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)やウォールストリート・ジャーナル(The Wall Street Journal)といった多くのパブリッシャーは今後も引き続き、自発的に規制を守るようユーザーに委ねる無監視システムに頼って、アカウント共有問題の解消を図っていくことになりそうだ。米DIGIDAYのイベントでの調査に協力してくれた匿名回答者のひとりは、「罪悪感」に焦点を当てることが、彼らの戦略における重要な部分だと打ち明けてくれた。
Mark Weiss(原文 / 訳:ガリレオ)