米DIGIDAYは5月下旬、メディアやマーケティングに携わる300人以上の専門家を対象に調査を実施。調査の結果、パブリッシャーたちは、ほとんどのプラットフォームを貴重な収益源とも重要なブランド構築チャネルともみなしていないことがわかった。
いまとなっては信じられないような話だが、パブリッシャーはかつてこう考えていた。ゆくゆくはほとんどのコンテンツをさまざまなソーシャルプラットフォームでネイティブに公開し、新旧メディア企業が共生関係を育むことになっていくと。
だが、そのようなことは起こらなかった。ソーシャルプラットフォームがオーディエンスを増やし続け、広告製品を成熟させ、広告予算を獲得し続けているにもかかわらず、パブリッシャーたちは、ほとんどのプラットフォームを貴重な収益源とも重要なブランド構築チャネルともみなしていないことが、米DIGIDAYの新たな調査で明らかになった。
米DIGIDAYは5月下旬、メディアやマーケティングに携わる300人以上の専門家を対象に、ソーシャルプラットフォーム、そしてそれらのプラットフォームが自社のビジネスで果たしている役割について尋ねた。パブリッシャー側の回答者は107人で、およそ3分の1の回答者が年間収益5000万ドル(約55億円)以上のパブリッシャーに所属し、もう3分の1が1000万ドル(約11億円)未満のパブリッシャーに所属するなど、勤務先は多岐にわたっている。
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パブリッシャーの半数から「収益源として有用」と評価されたFacebookを除けば、自社のプラットフォームを利用するパブリッシャーの3分の1以上から収益源としての価値を認められたプラットフォームはひとつもなかった。YouTubeでさえ、コンテンツを投稿しているパブリッシャーのほぼ3分の1(33%)から、「『少なくとも』収益源として有用」と評価されたに過ぎない。
収益源としての有用性
「自社サイトに人々を呼び込むという点で、このようなプラットフォームに注力する意味はない」と、ある大手デジタルパブリッシャーのオーディエンス開発責任者は、ビジネスパートナーに関する話につき、匿名にすることを条件に述べている。「YouTubeやTwitterアンプリファイ(Twitter Amplify)で得られる収益が、コスト1ドル(約110円)当たり30~50セント(約33〜55円)程度だ。それでは魅力的とはいえない」。
収益面で有用と回答したパブリッシャーの割合が4番目に高かったソーシャルプラットフォームは、Snapchatだった。しかし、Snapchatにコンテンツを公開していると答えた回答者は20人に過ぎず、今回の調査では統計的に十分な数に達しなかった。
ブランド構築の面でも、それほど明るい話はない。利用しているパブリッシャーの約3分の2が、ブランド構築に有用と回答したインスタグラムを除けば、ブランド構築の面でプラットフォームを評価したパブリッシャーの割合は、せいぜい半分程度だった。
例外はTwitchで、利用しているパブリッシャーの3分の2がブランド構築に有用と回答したが、Twitchを利用していると答えた回答者は6人にとどまっている。
ブランド構築における有用性
ブランド構築に関する数値は、それ自体が誇張されている可能性もある。よく知られているように、多くの企業がブランド構築の測定に曖昧な基準を使用しているからだ。「そもそも、ブランドとは曖昧な概念だと思う」というのは、かつてブルームバーグ(Bloomberg)でオーディエンス開発のグローバル責任者を務め、現在はメディアコンサルタントとして活動するミーナ・ティルヴェンガダム氏だ。「なかには、『ブランド構築』を皮肉を込めて『収益を生まない事業』と定義しているパブリッシャーもある」。
数年前まで、パブリッシャーは新たなプラットフォームが登場するたびに、そのプラットフォームをオープンに受け入れることが珍しくなかったと、ティルヴェンガダム氏は指摘する。しかし、そんな時代は終わった。「実験的な取り組みに多額の予算をつぎ込むことは、経営陣にとってますます難しくなっている。何らかのメリットがあるという証拠が必要だ」。
こうした懐疑的な見方が出てきたことは、今回の調査において新興プラットフォームの多くが、統計的に十分な回答数を集められなかった理由のひとつかもしれない。Clubhouse(クラブハウス)を試したことがあると答えた人は9人しかおらず、Twitchに至っては6人だった。
また、パブリッシャーたちのあいだで昨今広がっている、積極的なソーシャルコンテンツの配信自動化や、複数プラットフォームへの同時活用も、こうした結果に関係している可能性がある。たとえば、グローブ・アンド・メール(The Globe and Mail)のようなパブリッシャーは、Facebookへの投稿を完全に自動化するテストを実施中だ。また、多くのパブリッシャーが、Twitterへの投稿作業を半ば自動化するために、ツールをかなりの程度利用している。
「ソーシャルという言葉も、もはやそれほど聞かれなくなった」というのは、オーディエンス開発のコンサルティングを手がけるデファイン・メディア・グループ(Define Media Group)の創設者、マーシャル・シモンズ氏だ。「しばらくのあいだ、ソーシャルプラットフォームは大きな輝きを放っていた。だがいまとなっては、注意して取り扱うべき存在だ」。
パブリッシャーらは、ソーシャルプラットフォームに対する関心の薄れを、ある程度お互いさまだと感じているようだ。「ソーシャルプラットフォームの側にも、以前ほどの熱意はない」と、先述のオーディエンス開発責任者は述べる。またこの人物によると、プラットフォームは昨今、パブリッシャーより数が多く、コントロールしやすいクリエイターたちを取り込むことに軸足を移しているという。「Twitterミラー(Twitter Mirror)やインスタグラムが、イベントでフォトブースのようなものを作っていた時代もあったが、彼らはもうそんなことはしない」。
[原文:Digiday Research: Publishers have checked out on platforms]
MAX WILLENS(翻訳:佐藤卓/ガリレオ、編集:村上莞)