DIGIDAY[日本版]は2月12日・13日(火・水)、京都にて「DIGIDAY PUBLISHING SUMMIT 2019」を開催した。今回のテーマは、「ビジネスモデル・イノベーション」。パブリッシャーにおける持続可能性のあるビジネスモデルとは何かについて話し合った。その内容を5つのキーワードで振り返る。
パブリッシャービジネスも大きな曲がり角を迎えている。
DIGIDAY[日本版]は2月12日・13日(火・水)、京都ブライトンホテルにて「DIGIDAY PUBLISHING SUMMIT 2019(以下、DPS)」を開催した。有数のプレミアムパブリッシャーが集い、それぞれの課題を共有・議論し合う、このDPS。日本での開催は、第4回目を数える。
今回のテーマは、「ビジネスモデル・イノベーション」。プラットフォーム依存の危険性、広告モデルの限界が共通課題となりつつあるいま、パブリッシャーは収益源の多様化に迫られている。そんななか、目先の数字(主にPV)のみにとらわれがちだった過去を省みて、持続可能性のあるビジネスモデルとは何かについて話し合った。
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毎回、DIGIDAYのイベントでは締めくくりに、「私たちが学んだ5つのこと(5things We’ve learned)」と題して、ラップアップを行っている。今回、我々が学んだことは、次の5つだ。
1. 意思決定の迅速化
とかく、こういうイベントでは組織論が語られがちだ。しかも、トップが大号令を掛けなければ、組織は変化しにくいという結論に落ち着くことも多い。しかし、組織改革が求められるにも理由がある。その大きなものひとつが、「意思決定の迅速化」だろう。
日本テレビ放送網株式会社でICT戦略本部の部次長を務める太田正仁氏のセッション「日テレの生存戦略 – 未来を見据えた新たな価値提案とは」や、エイベックス株式会社でCEO直轄本部のグループ執行役員を務める加藤信介氏のセッション「進化し続けるエイベックス – コンテンツで切り開くネクスト・ビジネスモデル」では、そうした組織改革の実例が紹介された。どちらも「意思決定の迅速化」を主な理由に、よりフラットな組織を作るための改革を行ってきたという。
デジタル時代におけるさまざまな変化は、常に加速する一方だ。それに対応するために意思決定の迅速化は欠かせない。たとえ、自分の組織のトップの理解が少なくとも、まずは自らの手の届く範囲で改革を行うことで、変わることもあるだろう。
2. プロコンテンツの再定義
誰もがWebを通じて発信できるようになったWeb2.0の時代以降、ユーザー生成コンテンツ(UGC)は、デジタル世界のマスを形成していた。しかし、ブランドセーフティの炎が燃え盛るいま、デジタルにおけるプロコンテンツのあるべき姿が見えはじめている。
西日本新聞社のメディアラボ デジタル報道部でシニアマネージャーを務める坂本 信博氏のセッション「『つながる』地方紙の挑戦 – 西日本新聞のソリューション・ジャーナリズム」では、旧来のトップダウン的なジャーナリズムではなく、SNSを活用した読者由来の情報をもとにする、ボトムアップ型の新しいジャーナリズムの試みを紹介。まだマネタイズに至っていないながらも、ユーザーエンゲージメントを高め、効率的に打率の高いコンテンツを生産できる、この方法には多くの可能性を感じさせた。
また、VICE MEDIA JAPAN株式会社で代表取締役を務める佐藤ビンゴ氏のセッション「老舗『動画』メディア、VICEの成り上がり戦略:若者のBBCを作り上げた企業の現在」では、同社の高いクリエイティビティを有効活用した、コンテンツスタジオの取り組みが紹介された。これまでの制作物を見る限り、どうしても「不良」というイメージがつきまとう同社が、ブランドに寄り添う姿はまさに、現代的なデジタルパブリッシングの姿が見て取れた。
3. 場の創出
コンフォートゾーンにおけるビジネスは、効率性を極限に高めることができるが、いずれ頭打ちになることも約束されている。変化の早いデジタル時代においては、その後の転落劇もドラスティックものになる可能性も高い。そうした悲劇を回避するためにも、常に場を創出する努力は欠かせないものだ。
北海道テレビ放送株式会社の取締役相談役を務める樋泉実氏のセッション「アジアのコンパスで地域を考える – 北海道テレビが目指すメディアのあり方」では、コンテンツの出口を道内・国内に留めず、グローバルに目を向け、アジアへの発信に着手してきた事例が紹介された。そうした努力の先にいま、訪日外国人旅行者のあいだで「北海道ブーム」が起きている。
日本経済新聞社でデジタル事業デジタル編成ユニットの部次長を務める東弘行氏のセッション「UX改善は日経電子版に何をもたらしたのか」では、エンジニアの視点から、日経電子版のサイトやアプリにおけるユーザビリティ改善によるビジネスインパクトについて語られた。いまやデジタル空間は、リアルに付随するものではない。リアルと並び立つ、ユーザータッチポイントの重要な場として、しっかりと手を掛けなければいけないものであることを実感させた。
4. ニッチの探求
どこまでも無限に広がる宇宙へ、無数の星が形成されるように、広大なデジタル空間ではいま、大小さまざまなコミュニティが無数に形成されている。個々のコミュニティの影響力は、全体に対して、もちろん微量だ。しかし、それに属する人間に対しては、計り知れないインパクトを持つ。
朝日新聞社で総合プロデュース室の室長を務める宮崎伸夫氏のセッション「朝日新聞社が目指す“コンテンツ&コミュニティー”:『つなげる』時代のVMプラットフォームとは」では、同紙のバーチカルメディア群「ポトフ」の試みを紹介。絶対数は少ないものの、確実に存在するニッチな層へアピールするこの取り組みには、新しい時代に立ち向かうレガシー企業の覚悟を感じさせた。
株式会社運動通信社で代表取締役社長を務める黒飛功二朗氏のセッション「『スポーツブル』は、なぜ学生スポーツに注力するのか?」では、同社が運営するスポーツ専門動画メディア「スポーツブル」の取り組みを披露。同サービスでは、プロや精鋭によるビッグマッチではなく、各地方の学生スポーツを深追いをしている。広く浅く当てるのではなく、狭く深くニッチを探求することで見えてくる、マーケットポテンシャルがあるという。
5. 共闘を恐れない
これまでパブリッシャーは、基本的には独立独歩のスタンスで、その地位と信頼を勝ち得てきた。ところが、変化の早い、この時代において、自らのリソースだけで勝負するには、心もとない場面も多い。いかに他者と手を組み、共闘するかが、重要になってくる。
セッション「集英社が挑むインフルエンサーマーケティング:雑誌だからこそわかる勘所」では、株式会社集英社の広告部で女性誌編集部の常務取締役を務める田中恵氏が、外部リソースを多用する雑誌ならではのノウハウで構築した、インフルエンサーマーケティング事業について説明。モデル、タレントから読者まで、さまざまなタイプのインフルエンサーと共創するこの事業では、すでに多くの成功事例が生まれており、2018年からのC Channelとの協働で、さらなる拡大を見込んでいるという。
また、今回から用意されたワーキング・グループ・ディスカッションでは、パブリッシャーだけでなくパートナー企業も、参加者全員合わせてチーム形成を行い、活発な議論が繰り広げられた。お題は「2025年、パブリッシャービジネスはどうあるべきか?」。それぞれの立場を超えて、素の意見を交わすことで、会場は熱気はかなり高まっていた。こうしてできた「つながり」が、新しいパブリッシャービジネスに貢献することを、主催者としては願うばかりだ。
今回の参加者数は、パブリッシャー企業とパートナー企業あわせて、総計149名。この「DIGIDAY PUBLISHING SUMMIT」は、毎年2月に京都で開催されている。
Written by 長田真